「不動産市場がバブルの様相を呈している」−−。
市場関係者からそういった声が聞こえてくる。2016年8月現在、都市部を中心に不動産価格が全体的に値上がりしており、坪単価は上昇の一途をたどっている。
その一方で目立った上昇の兆しが見られない実質所得額の推移と、民間の「(円安による物価上昇により)生活が苦しくなった」という閉塞感もあいまって家賃は値上げし難い状況。投資用不動産の利回りは下落傾向にある。
買い手は業者・ファンドと相続税対策の富裕層
不動産流通機構が運営している販売不動産ネットワーク「REINS(レインズ)」を参照してみると、東京都内の築浅・RC構造の区分マンションの表面利回りは4.5〜5%、新築にいたっては3.8%となっており、収益性は決して良いとは言えない。
また高層・ハイグレードを売りにした1億円以上のいわゆる「億ション」。多少下火になったとはいえ今でも売れており、需要と供給が追いついていないことから、値段は高止まりをしている。
そういった状況にも関わらず、「不動産を買わざるを得ない」という状況になっているのがマンションの建築・リノベーション業者と投資ファンド、そして相続税対策を必要とする富裕層だ。
投資ファンドや年金基金、その他機関投資家は資金の振り分け先としてこれまで債券運用を行っていた資金を不動産に振り分けている。日銀が導入したマイナス金利の影響で債券利回りが下落し、想定していた収益を達成できないためだ。
運用における債券の位置づけというのは「安定した想定キャッシュフロー」と「値動きの小ささ」が強みだ。
例えば株式の場合、業績が悪化すれば想定されていた配当が下方修正されることも多く、状況によっては価格が大きく下落し、元本も大きく棄損するというリスクがある。
それに対して債券は額面に対して一定期間、発行体が破綻しない限り「確実に」利息収益が入ってくるというメリットがあるため、運用計画において収益を計算しやすい。また額面も債券価格が一時的に下落したとしても、償還日(返済日)には保有分の額面額が返済されるという形のため中期-長期の運用には非常に適しているという、株式には変えられないメリットがある。
それに取って代わる形となっているのが「不動産投資」だ。
まず不動産の場合、資産価値をベースとした簿価で資産評価を行うため、株式などのように一時的な相場の上下落で評価が動くわけではない。これは近年の不安定なマーケット状況において、金融資産の中でも非常に優位性がある。
またキャッシュフローにおいても「家賃」という形で徴収する関係上、保有する不動産の想定空室率と利回りをベースにある程度はじき出すことができるため、これを大数の法則に基づき空室確率を平均化すれば、安定した収入を出すことができる。
こういった需要があるため巨額の資金が不動産市場に流れ込み、価格を押し上げている。