一時は注目された「タワマン節税」
また相続税対策としても不動産は活用されている。2015年度の税制改正において、「相続資産評価額が一定額までなら相続税を払わなくても良い」という「基礎控除」の額が減額され、いままで相続税の支払区分該当しなかった層が相続税を支払う必要性がでてきているという事態になっている。そういった方々に少し前まで注目されていたのが、タワーマンションなどを「相続税対策」に購入することだった。
現金や有価証券を不動産に換えて相続した場合は資産評価額が下がり、それに応じて相続税の額が減少する。そういったシステムを顧客に提案するセミナーなどが増えている影響もあり、立地がよく資産価値も高い不動産はどんどん購入されている。
これら2点の理由により発生した「特需」と、販売業者が需要にあわせ土地入札を行い仕入れ価格が高騰することによりその分を顧客に転換して価格が上昇しているというのが現状である。
先のことは分からないが……
これらを踏まえた上で、運用アドバイスを行なっている立場としては「今は買わないほうが無難ではないか」というのが結論だ。
相続や運用利回りの確保など差し迫った問題が目前に迫っているのであれば話は別であるが、一個人が融資を組み、価格高騰・利回りの低迷が続く物件を保有するのはリスクが高い。また相続税対策で買うにしてもたとえ資産評価額を落とすことができても高値づかみしてしまった不動産が取得金額の3割4割と下落してしまっては何の意味もない。
ただしその一方で「1980年代後半のバブルとは少し様子が違う」という声も根強い。「当時は土地価格が一生上り続けるという土地神話の元、実態が伴わないまま価格が上昇した。それに対し、今回はファンドや相続税対策など確かな需要の上で売買が行われているので、価格は下落しない」という意見だ。こちらも確かに事実の一端を示しており、判断が難しい。
いずれにせよ、先のことは分からない。マイナス金利がどれだけ続くのか、アメリカの利上げにより運用対象債券の空白需要がどの程度埋まるのかといった不動産による運用需要の減退リスクや、不動産を利用した相続税対策にはメスが入るかもしれない、といったリスクもある。
またすでに需要を見込んで都市部では開発が進んでおり、どのタイミングで需要と供給のバランスが崩れるのかは、誰にも分からない。
不動産に限らず、購入しようとしている金融商品が「常識的に考えて」「適切な」価格であるのかどうか、今一度考えていただきたい。
土居 亮規 (AFP、バタフライファイナンシャルパートナーズ)
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