今後の展望

以上のように中国の非金融企業が抱える債務残高は対GDP比170.8%と世界でも突出して高い水準に積み上がっており、その背景には長年に渡る高水準の投資の蓄積で生産能力が過剰になったことがある。また、過剰債務・過剰投資問題を抱えたのは中国が初めてではなく、日本、韓国、タイ、マレーシアといった工業化の道を歩んだ国々にも共通している。

こうした国々の先行事例を見ると、一時的ながらマイナス成長に陥っており、しかも調整後の経済成長率は調整前の半分程度に減速している。そして、これら4ヵ国の当時の経済環境と現在の中国経済に多くの類似点があることを踏まえれば、過剰投資・過剰債務を調整した後の経済成長率は調整前の半分程度、即ち5%前後に減速する可能性が高いだろう。

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一方、過剰投資・過剰債務の調整過程でマイナス成長に陥るか否かに関しては、回避できる可能性が高いと見ている。

第一の理由は、海外資本が債権を一気に引き上げるという形での調整が起こり難い点である。中国の対外債務は対GDP比1割前後に過ぎず、当時の韓国、タイ、マレーシアに比べると極めて小さい。海外資本が債権を一気に引き上げる事態に到ったとしても、その影響は相対的に小さいだろう。

第二の理由としては政府に債務を増やす余地が残っている点である。前述のとおり非金融企業の債務残高(対GDP比)は世界でも突出して高いが、政府の債務残高(対GDP比)はG20平均を下回っている(図表-14)。非金融企業が債務残高を減らす過程において、景気が過度に落ち込むようなら、中国政府は債務を増やして景気を支えることが可能だと思われる。

第三の理由としては、国家資本主義のメリットが生かせるという点である。国家資本主義の中国では、過剰投資・過剰債務を抱える非金融企業も、そこに資金を供給している金融セクターも国家の支配下にある企業が多い。従って、新しい成長モデル構築の進捗に合わせて、従来の成長モデルの調整ペースを決めるなどコントロールすることがある程度可能だと思われる。

但し、国家資本主義には情報統制が厳しくなりすぎるというデメリットもある。前述のとおり過剰投資・過剰債務を調整した後の経済成長率は5%前後と見ているが、厳しい情報統制が中国国民のイノベーションの障害になるようだと、調整後の経済成長率は更に低下する恐れがあるだろう。

三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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