M&A
(写真=PIXTA)

M&Aを行う際に、企業価値、すなわち株価をどのように算出すべきなのかといった点は、買い手・売り手双方が最も気にするところといえる。実際のM&Aではどのような株価算出方法を用いて行っているのだろうか。ここではM&Aの株価算出方法について解説していこう。

M&Aの株価計算とは?

M&Aにおいて株価を計算することは、その企業の価値を求める基準をつくることにつながる。すなわち、株価を算定し、その価値に対してどう評価するかを考える、あくまで基準であり、その価格で必ずしも買収・売却するといったわけではない。

なぜならば、企業には目に見えない付加価値がある。例えば、特許などの権利やM&Aを行った後の企業統合・買収効果(シナジー効果。コスト削減効果や売上増大効果など)といったものはその株価には反映されていないため、その価値も考慮する必要がある。

なお、上場企業の場合には、既に市場で株価が決定されている。この株価をもとに、買収企業におけるシナジー効果や土地の含み益など市場価格に反映されていない部分を考慮して、上乗せした価格で買収するのが一般的といえる。

M&Aにおける株式の評価手法の種類と算出方法

未上場企業の株価を算定する場合には、資産面・収益面など様々な角度から企業価値を算出する必要がある。一般的な株価評価手法は以下のとおり。

①簿価純資産価額方式
簿価純資産価額方式は、企業の適正な帳簿価額による純資産価額を発行済株式数で除して算出する方法だ。簿価を用いるため計算が簡便であり、過去に獲得された利益の蓄積である自己資本を基礎とするため、ある程度の収益力も加味されていると考えられる。しかし、含み損益が内在する場合には、実態と乖離した株価が算出される可能性がある。

②時価純資産価額方式
時価純資産価額方式は、会社の資産及び負債のうち、時価の判明するものについては時価で評価替えを行い、評価替え後の時価純資産価額に基づいて1株当たりの株価を算定し、評価額とする方法だ。この方法によれば、会社に内在する含み損益を株価に反映させることができ、簿価純資産価額法の欠点を補うことができる。しかし、将来の収益力が株価に加味されないという問題点もある。

③ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー(DCF)方式
DCF方式は、企業が一定期間の利益計画に基づき、将来獲得すると考えられる資金(キャッシュ・フロー)を適切な割引率によって現在価値に還元したものを評価額とする方法だ。利点としては、将来キャッシュ・イン・フローを生み出すのに必要な投資や、キャッシュ・フローのタイミングを考慮し、また、会計上の恣意性の影響を受けないということがあげられる。ただし、将来の事業を正確に見通すことは難しく、事業計画の作り方によって将来のキャッシュ・フローの予測額や割引率が変動するため、詳細かつ慎重な判断が要求される。

④配当還元方式
配当還元方式は、配当金額を基礎とし、1株当たりの配当金額を一定の資本還元率で還元することにより株式の財産価値を算定する方法。この方式では、過去の配当金額をもとに算出する場合には、配当の多い方が、株価が高く算出される恐れがあり、経営者の配当政策に影響を受けやすいといえる。

⑤類似業種比準方式(国税庁類似業種比準方式)
類似業種比準方式は、上場会社という市場性をもつ株式の価格をモデルに見立てて、類似標本会社と評価会社のそれぞれ1株当たりの配当金額、年利益金額、簿価純資産額を対比させて評価する方法。

ただし、類似業種とする会社の株価平均値について、その算出根拠が示されていないため、内容の妥当性(類似性を含む)を検証する手段がなく、評価対象会社の個別性を対比して検証することができない。このため同業種であっても、評価対象会社と企業実態が全く異なる会社との比較となる可能性がある。

こうした株価算定方法が様々あるのは、どこに視点を置くかで評価が変わってくるためだ。そのため、一般的にはいずれかを用いるというよりは、複数の評価方法をもとに株価を算定する(折衷方式)ことが多い。