• 11月の人民元相場(対米ドル)は基準値・市場実勢ともに大きく下落した。トランプノミクスに対する期待が高まって米ドルが全面高の展開、人民元も米ドルに対して下落した。なお、経済面では中国では景気の小康状態が継続、米国では景気の緩やかな拡大が継続した。
  • 今後2017年3月末に向けての人民元(市場実勢)は、米中金利差の縮小傾向を背景に米ドルに対して弱含みの展開を予想している。但し、トランプノミクスへの市場の評価が固まる過程では、曖昧なままに膨らんだ期待が剥落して大幅なドル高修正となる可能性もある。従って、想定レンジは1米ドル=6.5~7.1元と広めに設定しておきたい。

11月の動き

11月の人民元相場(対米ドル)は基準値・市場実勢ともに大きく下落した。8日に実施された米大統領選では、大方の予想に反しトランプ候補が当選、直後の市場では若干の混乱があったものの、トランプ次期大統領が勝利宣言で“対立”よりも“協調”を強調したため、トランプノミクスに対する期待が次第に高まって、米ドルが全面高の展開となり、人民元も米ドルに対して下落した。なお、経済面では、中国で景気の小康状態が継続する一方、米国では景気の緩やかな拡大が継続した。

市場実勢(スポット・オファー、中国外貨取引センター)の当月高値は1米ドル=6.7595元(11/4)、当月安値は同6.9285元(11/24)、11月末は同6.8951元と前月末比1.7%の元安・ドル高で取引を終えた(図表-1)。

他方、基準値は市場実勢とほぼ同様の値動きとなり、当月高値は1米ドル=6.7491元(11/3)、当月安値は同6.9168元(11/25)、11月末は同6.8865元と前月末比1.8%の元安・ドル高となった。なお、日本円が米ドルに対して大きく売られたため、11月末の人民元(対日本円)は100日本円=6.07285元(1元=16.5円)と前月末比6.2%の大幅な元高・円安となった(図表-2)。

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世界通貨の動きを見ると、主要通貨では日本円が米ドルに対して前月末比7.8%下落、ユーロも同3.2%下落した。新興国通貨を見ても、ブラジル(レアル)が同6.4%下落、マレーシア(リンギット)が同6.1%下落、その他アジア通貨も軒並み同2-4%程度下落している(図表-3)。従って、人民元は米ドルに対しては下落したものの、米ドル以外の通貨に対しては上昇している(図表-4)。

また、今年2月以降、中国人民銀行はバスケット構成通貨に対する安定を重視したコントロールを実施、構成通貨の中で米国に次いでシェアの大きい欧州のユーロに対する連動性を強めている。人民元の変動性(ボラティリティ)は依然として相対的に小さいものの、上下変動のタイミングはユーロの動きと一致することが多くなってきた。11月に関してもその傾向は続いていた。

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今後の展開

さて、今後2017年3月末に向けての人民元(市場実勢)は米ドルに対して弱含みの展開を予想している。また、この期間中には、現時点では想像の域をでないトランプノミクスがその実像を現すとともに、その問題点や抵抗勢力の強さも明らかとなるだろう。

前述のとおり11月の相場展開を見ると、トランプノミクスに対する期待が先行し、米ドル全面高になった面がある。即ち、実質成長率の加速を伴う良い物価上昇(金利上昇)なのか、保護主義的な政策が前面にでて実質成長率が低迷したままでの悪い物価上昇(金利上昇)なのかも確信できぬままに、いずれにせよ金利は上昇するので米ドルは他通貨に対し上昇するとの見立てだと思われる。従って、2017年3月末に向けての人民元は波乱含みであり、想定レンジは1米ドル=6.5~7.1元と広めに設定しておきたい。

また、経済面を確認しておくと、米国では緩やかながらも景気拡大傾向が持続しており、12月には利上げを想定している。一方、中国では、1日に公表された11月の製造業PMIが51.7%と前月を0.5ポイント上回るとともに、非製造業PMI(商務活動指数)も前月を0.7ポイント上回ったことから、13日に発表される需要面の景気指標も改善する可能性が高い。

しかし、CPI上昇率は政府見通しを下回っており、中国人民銀行が利上げに動く可能性は低い。従って、米中金利差は縮小傾向となる可能性が高く、人民元は売られやすく米ドルに対して弱含みの展開を予想している。

但し、トランプノミクスへの市場の評価が固まる過程では、曖昧なままに膨らんだ期待が剥落して大幅なドル高修正となる可能性もある。当面の間は人民元の急反騰にも注意する必要がある。

三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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