整理そのものを目的にしてはならない

だが社員にしてみれば、いきなり上から「モノを減らせ」と言われても、戸惑いや反発のほうが大きいはず。モノを減らす改革に取り組む企業は多いが、うまくいかないケースも少なくないのは、社員の理解を得るのがそれだけ難しいからだ。だが、谷田氏が社内に発信したメッセージは意外なものだった。

「社員には、『将来、皆さんが自宅でも仕事ができるようにするために、改革を受け入れてほしい』と伝えました。なぜ会社に来なければ仕事ができないかと言えば、必要な書類やモノがすべてオフィスに置いてあるからです。でも、モノを最小限に減らし、ペーパーレス化を進めれば、パソコンやタブレット一台でどこでも仕事ができます。

私が在宅勤務の実現について真剣に考えるようになったのは、社長就任後に2名の社員が退職したのがきっかけでした。私は自分のマネジメントに問題があったのかと思い、その社員たちに『自分に悪いところがあったら改めたいので、辞める理由を正直に教えてほしい』と頼んだのです。すると2人とも、親の介護が理由だと打ち明けました。家で親の面倒を見ながら、オフィスまで毎日通うのは難しいと言うのです。

これにはショックを受け、『こんな形で社員を失うのは耐えられない』と思いました。それで、社員が在宅でも仕事ができる環境を作ろうと決心したのです。

私は経営者として、社員が育児や介護で会社に来られないことがあるなら、『どうぞ家で仕事をしてください』とOKを出したい。つまり、目指す目標は在宅勤務を可能にすることであり、その手段として、自分のモノはこのロッカーに入る量に収めてほしい。そう言って社員を説得したのです。単に『モノを減らせ』『整理しろ』と命令するだけでは、協力してもらえなかったでしょう」

つまり、整理そのものを目的化しても、たいていの人はなかなか実践できないし、長続きもしないということだ。

「ダイエットも同じですよね。体重を減らすことを目的にしても続かない。その先に『おしゃれな洋服が着たい』『カッコ良くなって異性にモテたい』といった楽しい目標があるからこそ、『運動は嫌いだけど頑張ってみよう』『甘いものを食べたいけれど我慢しよう』と思える。『会社をきれいにするため』と言われてもなかなか動く気になりませんが、『自分の将来のため』と思えば、やってみようと思うものです」