韓国国会は12月9日、朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾を可決した。朴大統領側近のスキャンダルが発覚してから約1月半、韓国の国政は機能不全に陥ったが、株式市場はどう動いているのだろうか。スキャンダル事件と韓国株式市場の動きをみてみよう。

KOSPI指数とスキャンダル 時系列で動向を見る

朴大統領のスキャンダルが発覚したのは2016年10月24日。ケーブルテレビ局JTBCが、独自ルートで入手した崔順実氏のパソコンに保存されたファイルを分析したところ、朴大統領の演説文があらかじめ伝達されていたと報道。崔順実氏の政治関与疑惑が浮上し、韓国総合株価指数(以下、KOSPI)は10月24日の2047.47から10月26日には2013.89と小幅ながら下落した。

10月27日にわずかに持ち直したものの、大統領退陣要求デモが行われた翌週は下落が続いた。10月27日から28日にかけて、サムスン電子29.7%減益をはじめ、LG、SKなど韓国の大手企業が2016年第3四半期に軒並み減益となったことが発表された。10月31には韓国政府の産業関係長官会議で「造船産業競争力強化対策」を発表。現代重工業、サムスン重工業、大宇造船海洋など造船3社が2018年までに、人材を6万2000人から4万2000人まで32%削減、ドック数も31カ所から24カ所と23%縮小することが公になった。

韓国大手企業の景況悪化による先行き懸念から11月2日には1978.94まで落ち込んだが、翌3日から上昇に転ずる。韓国検察は11月1日、スキャンダルの中心人物である崔順実(チェ・スンシル)氏を逮捕。スキャンダルを解明するため、サムスン電子を手はじめに大手企業を捜査することを発表し、サムスン電子も捜査に積極的に協力すると述べている。経済要因による株価のプラス要因はみられないため、スキャンダル解明への期待によるものだろう。

2016年11月8日、検察はサムスン電子の捜査に着手する。全容解明への期待が高まったが、翌9日にトランプ氏のアメリカ大統領当確のニュースが伝えられると、KOSPIは前日の2003.38から1958.38へと大幅に下落。翌10日には2000台まで持ち直したものの、以降12月初めまで1960から1990前後の小幅な値動きが続く。

12月5日からKOSPIは上昇する。5日の1963.36から8日には2031.07とスキャンダル発覚前の水準に戻った。 前週末の3日未明、韓国野党と無所属議員171人は朴大統領の弾劾決議案を国会本会議に提出。大統領の弾劾決議は国会議員の3分の2の賛成が必要で、国会300議席のうち与党セヌリ党が129議席を有する。

弾劾決議の日を巡って野党各党で意見がわかれたが、与党内の反主流派が11月7日18時までに大統領から明確な退陣時期が示されなければ弾劾決議に賛成するという意向を示唆し、これを受けて野党は12月9日採決で合意に達した。

鍵を握る与党セヌリ党の反主流派は31人で、野党および無所属議員と合わせると弾劾決議に必要な3分の2を超える。与党が要望する4月末退陣に大統領が応じれば弾劾決議は否決され、大統領が応じなければ弾劾決議は可決される。いずれにしても停滞している国政に光明が見える。これに市場が反応したのだ。

ろうそく集会で明暗がわかれた業界

JTBCがスキャンダルを報じた直後の2016年10月26日から毎週土曜日の夕方に大統領の退陣を求める‘ろうそく集会’が行われたが、韓国毎日経済新聞によると、業界によって明暗が大きくわかれたという。

防寒用品は好調だ。11月のソウルはとても冷え込み、朝晩は氷点下まで下がる。集会に参加する人たちの間で防寒用品の需要が高まり、オンラインモールの‘オークション’では、前年同時比でホットパックとカイロが29%増、マフラーとスカーフ30%増、手袋67%増、耳あて付き帽子46%増となった。アウトドア業界もダウンジャケットの売上が20%から最大60%の売上増になっている。

韓国ダイソーなど電池ろうそくの月間販売量は通常の10倍にのぼった。多くの人が集まる光化門周辺では早々に品切れとなり、毎週続く集会で本社倉庫の在庫もなくなったという。マットや韓国の国旗である太極旗も大量に売れている。

売上げが減少した業界もある。韓国ではテレビホームショッピングが人気だが、あるホームショッピングは、土曜日の売上が前年同期比で48%減となった。大統領の退陣を求める集会はテレビホームショッピングの売上の30%が集中する週末にピークを迎えるが、週末のニュースの平均視聴率は40%を超えている。

今後の見通し

朴大統領の弾劾決議案が可決した翌週、KOSPIは前週末の終値2024.69をやや上回る2031.95で始まったが、前週末と同水準の2027.24で取引を終えた。

弾劾決議は国会を通過したとはいえ、朴大統領の退陣は弾劾決議から180日以内と定められた憲法裁判所の判決まで持ち越される。次期大統領の有力候補は、現国連事務総長の潘基文(パン・ギムン)氏、共に民主党前代表の文在寅(ムン・ジェイン)氏、城南市長の李在明(イ・ジェミョン)氏だが、いずれも支持率は低調で予断を許さない。

スキャンダルの解明が進むと大手財閥など韓国財界に飛び火する可能性が大きく、KOSPIは一時的に落ち込むだろう。全容がクリアになれば長期的にはプラスに転じる期待はあるが、国政もKOSPIもしばらくは混迷が続きそうである。(韓国在住CFP 佐々木和義)

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