はじめに

韓国政府は、労働者の生活を安定させることや働く意欲を高める目的で、1988年1月1日(1986年12月21日に最低賃金法を制定)に最低賃金制度を施行し、現在に至るまで約30年間にわたり、最低賃金制度を実施している。しかしながら、まだ最低賃金を守っていない企業が多く、最低賃金未満の時給で働いている労働者の割合(以下、未満率)は2015年時点で11.5%に達している(*1)。

最低賃金の適用を受ける使用者は、国が定めた最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならず、それに違反した場合は罰金等のペナルティを課せられるものの、韓国ではまだ最低賃金を守らない企業が多い。なぜこのような現象が起きているだろうか?本稿では未満率を中心に韓国における最低賃金の現状について論じたい。

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(*1)日本が1959年4月15日から最低賃金制度を施行していることと比べると、韓国における最低賃金はかなり遅れて導入された。
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最低賃金や未満率の現状

日本が地域別に異なる最低賃金が適用されていることに比べて、韓国では全国的に統一された一つの最低賃金が適用されている。

韓国では雇用労働部長官が毎年3月31日まで、政労使の委員で構成されている最低賃金委員会に最低賃金の審議を依頼し、最低賃金委員会は依頼日から90日以内に審議を行い、最低賃金案を雇用労働部長官に提出すると、雇用労働部長官は8月5日までに新しく適用される最低賃金を決定・告示する(*2)。最低賃金委員会で決まった最低賃金は次の年の1月1日から12月31日まで適用される。

2016年8月に告示された2017年の最低賃金は6,470ウォンで今年の6,030ウォンに比べて7.3%も引き上げられた。これは1988年に最低賃金が施行されてから29回連続の引き上げであり、この期間の平均引上げ率は9.5%に至る。日本の最近(2000年から2015年まで)の最低賃金の平均引上げ率1.3%と比較すると、韓国の最低賃金の引き上げ率の高さが分かる。

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最低賃金の引き上げ率が高いことなどを原因として、韓国では最低賃金を守っていない企業が多く、最低賃金未満の時給で働いている労働者の割合は2002年の4.9%から継続的に上昇傾向にあり、2015年には11.9%に達している。これは2015年の日本の未満率1.9%の約6倍に該当する数値である。

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(*2)雇用労働部長官は、最低賃金委員会が提出した最低賃金案により最低賃金を決めることが難しいと判断した場合は20日以内にその理由を挙げ、委員会に再審議を要請することができる。
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