業種別(2015年基準)では、飲食宿泊業が35.2%で未満率が最も高く、次は、不動産賃貸業(19.8%)、協会及び団体(19.2%)、卸・小売業(16.4%)等の順となった(図表3)。企業規模別では、相対的に零細企業の割合が多い従事員数5人未満企業の未満率が27.9%で最も高く、最低賃金未満の時給で働いている労働者の約95.5%が、従事員数100人未満の企業で働いていた(図表4)。

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一方、年齢階級別の未満率は、19歳以下(53.9%)、60歳以上(37.0%)、20~24歳(22.8%)、55~59歳(12.5%)、50~54歳(9.7%)、25~29歳(6.2%)、40~49歳(5.9%)、30~39歳(4.1%)の順で高かかった(図表5)。

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結びに代えて=なぜ最低賃金は守られないのか

このように韓国における未満率が高い理由としては、(1)最近の景気低迷により大幅な最低賃金の引き上げに対応できない中小・零細企業が増えていることや(2)最低賃金を支給していない企業に対する摘発・監督や処罰が適正に行われていないことなどが考えられる。

2009年に15,625件だった最低賃金の違反件数は、2015年には1,502件に激減しているが、労働者が申告した最低賃金の違反件数は、2012年の717件から2014年には1,685件までむしろ増加している。最低賃金の未満率が改善されていないにもかかわらず、最低賃金の違反件数が減少しているのは最低賃金に対する摘発・監督体制に問題があることを意味するだろう。

さらに、最低賃金を違反した企業に対する処罰件数は2015年時点で19件(違反件数の1.3%:司法処理(*3)10件、罰金刑9件)にすぎない。このように処罰件数が少ない理由は、最低賃金に違反した企業に「是正命令」が優先的に出されるからである。

最低賃金制度を違反した企業は3年以下の懲役や2000万ウォン以下の罰金刑に処されることになっているものの、企業が「是正命令」を遵守し、滞納していた賃金を労働者に支払えば、今まで最低賃金制度を違反したことに対する何の処罰も受けずに継続的に企業活動をすることができる。

このような軽い処罰基準は、「運悪く摘発されたら、その際に対応すればいい」という意識を企業に広げた可能性が高い。最低賃金の未満率を下げるためには、より勤労監督や処罰基準を強化する必要がある。

また、労働者の生活の質を向上させるために最低賃金を引き上げることも大事であるが、法律で決まっている最低賃金を守るようにすることが何より重要である。そこで、最低賃金制度の実効性を高めるためには、日本が実施している地域別最低賃金や特定(産業別)最低賃金の導入を中長期的に考える必要性があるかも知れない。

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(*3)「司法処理」とは、労働基準監督官が労働基準法、労働安全衛生法等の違反被 疑事件として、検察庁へ送検するための処理のことをいう。
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金 明中(きむ みょんじゅん)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員

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