親にとって愛着の薄い場所から始めよう

実家の整理は、親にとって愛着がそれほどない場所から着手しましょう。とくに庭や廊下などは、「庭にモノが多いと防犯上よくないらしいから、片づけておこう」「夜中に安心してトイレに行けるように、廊下をきれいにしておこう」といった言い方をすれば、親も納得しやすいはずです。

子供としては通帳や貴重品のことが気になると思いますが、いきなり財産の話を持ち出すのはNG。親は「金が目当てなのか!」と腹を立てたり、落胆したりして、いくら整理を勧めても「放っておいてくれ」と意固地になる可能性があります。

整理をする際に最も大きな壁になるのが、「親が”捨てる/捨てない”を判断できない」ということ。親世代はモノを「捨てる」のに抵抗があるので、「要るモノと要らないモノに分けよう」という言い方をしましょう。そして、「要る/要らない」の判断に3秒以上迷ったモノは「一時保管箱」に入れます。それを親の目につきにくい場所に置いておけば、しばらくすると親も存在を忘れてしまうので、あとで処分しやすくなります。

実家の整理には、自分の家の整理とは違った段取りやルールが必要になります。下に「実家の片づけ・5つの鉄則」を紹介しますので、参考にしてください。

◆実家の片づけ・5つの鉄則

1 出ているモノを片づける
玄関の靴や床に置かれた新聞、テーブルの上の日用品など、親の家には出しっぱなしのモノが多いので、まずはそれらを片づけます。
2 片づけは下から上へ
転倒を防ぐため、先に足元にあるモノを片づけ、そのあとで高い場所のモノを片づけます。
3 収納ワザを使わない
高度で手間のかかる収納術は高齢者にとって面倒なだけで、長続きしません。
4 生活習慣を優先
親の生活習慣を無視してモノの置き場所や収納の仕方を変えることは控えましょう。
5 押入れ・納戸はあと回し
先に手をつけると収拾がつかなくなるので、とりあえずあと回しでかまいません。

”リバウンド”防止にはこまめなコミュニケーションを

いったん整理したのに、半年ぶりに帰省したら、また実家がモノであふれていた……。こんなリバウンドを防ぐには、実家に足を運べない期間も、電話やメールでこまめに親とコミュニケーションを取ることが大切。ゴミの収集日を調べておき、「そういえば、今日はゴミ出した?」といった会話をすることで、ゴミの出し忘れや溜め込みを予防できます。

親の消費行動にも注意を払いましょう。高齢者が一人で買い物に行くと、不要なモノを購入したり、使わないのに同じモノを複数買ったりしがちです。会話の中でさり気なく「何かほしいものある?」と聞いて、「新しいお鍋を買おうかな」などといった答えが返ってきたら、「だったら、帰省したときに一緒に買いにいこう」と提案してください。

また、一人暮らしの高齢者は、いざというときの不安から大量に買い溜めをする人が多いので、「何か足りなくなったら、すぐに送るから」と言えば安心します

財産に関する情報は防災などを理由にさり気なく

将来に備えるには、モノの整理だけでなく、情報の整理も必要です。実家の名義はどうなっているのか。預貯金や保険、株式などはどの金融機関にどれくらい保有しているのか。これらの情報は親しか知らないので、本人に整理してもらうのが一番です。

ただし、前述のとおり、いきなり財産やお金のことを聞くのはNG。一緒に実家を整理しながら、さり気なく話題に出すようにしましょう。共通のゴールである「親の安心・安全」を切り口に、「防災用の持ち出し袋の中に貴重品のリストを入れておくと安心だよ」といった言い方をするのがコツ。あるいは、「郵便貯金を放っておくと、休眠口座になって引き出せなくなるかもしれないらしいよ」といった話題を持ち出して、「一度、通帳を整理してみたら?」と促すのもいいでしょう。

「この家は古くて使い勝手が悪いから、リフォームを考えてみない?」と相談し、親が興味を示したら、「リフォームするなら、予算はどれくらいかな?」といった聞き方でお金について確認する方法もあります。とはいえ、くれぐれも親の意志や気持ちを尊重することを忘れないでください。

渡部亜矢(わたなべ・あや)〔一社〕実家片づけ整理協会代表理事
1965年、神奈川県生まれ。銀行、出版社などを経て、2016年より〔一社〕実家片づけ整理協会代表理事。少子高齢化社会に特化した「実家片づけアドバイザー」育成講座や、親子で取り組む生前整理、空き家問題、物とお金の整理術、遺品整理などの講座を開講し、講師育成、出張片づけサービスなどを展開中。著書に『カツオが磯野家を片づける日』(SB新書)、『プロが教える実家の片づけ』(ダイヤモンド社)など。(取材・構成:塚田有香)(『 The 21 online 』2016年11月号より)

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