大企業の巨額損失が大きなニュースとなるなか「のれん」という平仮名表記の言葉を目にする機会が増えているのではないだろうか。しかし、よく聞く「のれん」とはどういうものか、いざ説明しようとしてもよく分からないという方もいるだろう。今回は「のれん」について解説していきたい。

(写真=FuzzBones/Shutterstock.com)
(写真=FuzzBones/Shutterstock.com)

「のれん」とは

「のれん」とは、会計上の勘定科目のひとつである。企業を買収する際に発生するもので「買収価格」と「被買収企業の純資産」との差額として「資産」に計上されるものだ。例えば、買収価格を100億円、被買収企業の純資産を40億円とした場合、差額の60億円が「のれん」として資産に計上される。多くの場合、買収価格が被買収企業の純資産を上回るため、その差額分を被買収企業のブランド力やノウハウ、将来性といった目に見えない資産価値と考え、「のれん」とするわけだ。

会計用語ではなく、一般的にいう「のれん」とは、その会社の名前や屋号となるものを指すことが多い。例えば家電製品などは、たとえ機能や外観に大きな差がなくても、認知度が高いメーカーと低いメーカーでは、同じ価格帯であれば前者を購入する人が多いだろう。この行動は、ブランド名に対する安心感や親近感の表れであり、これこそ、会社名やブランド名が持つ無形資産といえる。

日本において「のれん」は特に重要視されるといわれている。例えば、イギリスの名門ファッションブランドのライセンス使用権利を取得して洋服を製造販売していたとあるアパレル企業は、ライセンス契約終了によって、そのブランド名で洋服を売り出せなくなった。これにより、全く新しくブランド名を付けて販売を行ったが、品質は従前とほぼ同じであるにも関わらず、売上が大きく減少してしまったという。

反対に、経営不振に陥ってしまったデパートを同業他社が買収して経営を存続させることもある。それだけ、長期間かけて築いた「のれん」は重要なものと言うことができる。

「のれん」が減損処理につながる理由

のれん」は日本において重視されるとともに、多くの日本企業は「のれん」を毎年償却する。しかし、「のれん」を会計処理で毎年償却するというのは日本独特のもので、アメリカでは「のれん」を毎年償却することは一般的ではない。アメリカなどにおいては、企業の価値が損なわれたときに減損処理をする。反対に言うと、価値が減少していないうちは、ずっと資産に計上したままとなる。

なぜ日本は、基本的に「のれん」を毎年償却するのだろうか。日米での会計文化の違いと言ってしまえばそれまでだが、日本では「のれん」のような無形資産は時間の経過とともに価値が下がると考えられている一方、アメリカの場合は、無形資産の価値は経営手腕次第という考え方が根強いからだ、と言われている。

「のれん」を重視し過ぎるのも禁物

リーマン・ショック後の不況から脱するため、日米欧をはじめとする各国各地域の中央銀行は、大量のマネーを市場に供給する量的緩和政策を採ってきた。国・地域によって、未だに供給を続けている場合もあれば、既に供給を停止している場合もあるが、少なくとも大量のマネーは市場に滞留したままである。

そのカネ余りを背景に、世界中のリスク資産価格は上昇傾向にあり、低金利も相まって企業買収 (M&A) も活発だ。しかし、上記の通り「のれん」とは目に見えない無形資産を数字にしたものだ。もちろん専門家が様々な角度から計算して出している数字ではあるものの、日米で会計処理が異なったり、どのようにして「のれん」金額が算出されたのか不透明であったり、そもそも近年の株高で実態よりも割高な企業買収になってしまっていたりなど、問題の火種がないわけではない。

たとえ世間をあっと驚かすビッグディールが行われたとしても「のれん」が過大評価されていないか、一度立ち止まって検証することが重要だ。

(提供: 大和ネクスト銀行

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