なぜ、こんなに多くの人が証券会社で株を買い、銀行で投資信託を買うのだろう。
なぜ、FP(ファイナンシャルプランナー)と称する人たちは投資の必要性を力説し、政府までもが「貯蓄から投資へ」といったスローガンを掲げるのだろう。苦悩する女性行員のつぶやきにこの国の金融商品販売の本質を垣間見たような気がした。

誰かが利益を得れば、誰かが損をする

銀行,投資信託
(写真=Thinkstock/Getty Images)

「これってネズミ講みたいなものですよね?」新人の女性行員がつぶやいた。「お客さんが買った投資信託は、もっと高い値段で買ってくれる人がいなければ損をする。相場は永遠に相場が上がり続けることはないから、いつか必ず誰かが貧乏くじを引いて大損をする」

世代の違いだろうか。最近の新人は時々ぶっ飛んだことを言う。「ネズミ講」という表現が適切かはともかく、苦笑するしかなった。

「でも、あながち間違いじゃない」私はそう言った。「相場というものは、ある意味『リスクの押し付け合い』の側面がある。確かに、セールストークで巧みにリスクを押しつけ合っているようなところもある」そう、我々が真剣に取り組んでいるこの仕事も、結局のところはネズミ講に過ぎないのかも知れない。

もちろん、多くの人は決してそうではないと反論するだろう。しかし、長らく金融商品の販売に携わってきた私にとって「投資」はまさにネズミ講のような世界だ。あるいは「ゼロサムゲーム」と言えば良いだろうか。

誰かが利益を得れば、その分誰かが損をする。

あなたが得た利益は誰かの損失のもとに成り立っている。マーケットに資金が流入し続ける限りはそれが表面化しない。しかし、一旦資金の流入が止まってしまったなら、あなたは身をもってその意味を知ることになる。

永遠に上昇し続ける相場はない。ブラックマンデー、ITバブル崩壊、リーマンショック。忘れた頃にマーケットは必ず投資家に「それ」を思い出させることになる。

システムを維持するために必要なこと

こうしたシステムを破綻させないためには何が必要か。マーケットに資金を注入し続けるしか方法はない。

だから政府は「貯蓄から投資へ」といったスローガンを掲げる。証券会社や銀行は「老後の生活には運用が欠かせない」と投資に興味がない人の危機感をあおる。公正中立であるべき独立系FPまでもがその片棒を担ぎ「おすすめの投資信託はこれだ」なんて言い出す。そして、あろうことか日銀がETFを買う。年金が株を買う。ずっとこれを続けなければならない。そうしなければ、そのシステムは破綻してしまうのだ。

「心が痛みます」女性行員の苦悩

今年大学を卒業したばかりの女性行員が「ネズミ講」と発言した背景には何があるのか。彼女は投資信託を販売することに疑問を感じるようになったのだという。

「心が痛みます」と彼女は言った。投資信託という理屈はなるほど素晴らしいと納得できる。簡単に世界中の様々なものに投資ができる。ロシアやブラジルの株式だけではなく、金や原油にまで簡単に投資することができる。しかも、少額で分散投資することが可能だ。それがどんなに素晴らしいことであるかは理解できる。「私のアドバイスでお客様が利益を出し、喜んで頂ければこんなに嬉しいことはありません。でも……」と彼女は言う。

そう、我々銀行員は「どんな日でも」笑顔で投資信託を売り続けなければならない。雨の日も晴れの日も、株価が暴落しようが、暴騰しようが成果を求められ続けることにストレスを感じないほうがどうかしている。

「いまは買い時ではない」心の底でそう思いながらも、投資信託を売り続けなければならないのだ。

それは現場からの「悲鳴」だ

リーマンショックから間もなく10年。最近は相場が下がれば「日銀が買い支える」という、ぬるま湯のような相場しか知らない営業担当者が増えている。

投資家だって同じだ。あの時経験した恐ろしい相場ももはや遠い過去の記憶だ。投資家が我先に相場から逃げだそうとパニックに陥ったときの状況がどんなに酷いものか、それを語ることのできる人はもはや周囲にわずかしかいない。

危機から既に多くの時間が経過した。皆が思考停止状態に陥っている。そんななかで1人の女性行員がつぶやいた「ネズミ講」という言葉は実に本質を突いているように思えてならない。

投資は無条件に我々に「バラ色の未来」をもたらしてくれるわけではない。投資をする必要のない人だっているはずだ。投資に向かない性格の人だっているはずだ。それでも、我々は無節操に投資の「バラ色の未来」を説き続けなければならないのだろうか。

「投資信託はネズミ講かも知れない」そう心を痛める女性行員に対し、心のケアができる上司や先輩がどれだけいるだろうか。

そんな状況でも銀行の官僚主義者たちは相変わらず同じセリフを繰り返す。「なぜ売れないんだ」「どうするんだ」と。最も立場の弱い人間にそう詰め寄ることで、このネズミ講のようなシステムが維持されている。それが現場の実態なのだ。(或る銀行員)

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