17年10月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て通関ベース)は前年同月比19.5%増と、前月の同13.3%増から上昇し、4ヵ月連続の二桁増を記録した(図表1)。輸出は海外経済の回復を背景に幅広い品目で増加傾向を続けるなか、足元では新型スマートフォン発売を背景とする電子製品需要の増加や一次産品の価格上昇が輸出全体を押し上げている。
先行きの輸出は来年初まで高水準を維持するだろうが、その後はベース効果の剥落や半導体需要のピークアウトを受けて伸び率は一桁台まで落ち着いていくと予想する。
ASEAN5カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、10月は各地域で伸びが上昇に転じた。上昇幅が最も大きいのはEU向け(同21.2%増)となり、13ヵ月ぶりに東アジア向け(同19.4%増)を上回った。また東南アジア向け(同13.2%増)、北米向け(同9.0%増)もそれぞれ高い伸びが続いた(図表2)。
タイの17年10月の輸出額は前年同月比13.1%増と、前月の同12.2%増から上昇して、6ヵ月連続の二桁増となった。輸出の伸びは電子機器や機械装置などの工業製品、天然ゴム・同製品を中心に好調が続いており、バーツ高の影響は軽微にとどまっている。一方、輸入額も前年同月比13.5%増(前月:同9.7%増)と上昇した結果、貿易収支は2.1億ドルの黒字となり、前月から31.4億ドル減少した(図表3)。
輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同13.8%増(前月:同12.5%増)と上昇し、好調が続いている(図表4)。工業製品の内訳を見ると、機械・装置(同2.2%増)が伸び悩んだものの、航空機・船舶・機関車(同20.8%増)や電子機器(同14.6%増)、自動車・部品(同25.1%増)、石油化学製品(同13.1%増)が高い伸びとなった。一方、農産品・加工品は同4.6%増(前月:同4.7%増)と若干低下した。天然ゴム(同23.6%増)やゴム製品(同53.9%増)は引き続き好調だったものの、加工食品(同6.9%増)の伸びが鈍化したほか、コメ(同2.4%減)が低調だった。鉱業・燃料は同40.1%増と、前月の同44.8%増から低下したものの、石油製品を中心に3ヵ月連続の二桁増となった。
ベトナムの17年10月の輸出額は前年同月比32.0%増と、前月の同25.9%増から上昇し、3年半ぶりの高水準を記録した。輸出の伸び率は昨年後半に主力の電気・電子製品が勢いを取り戻して以降、政府目標(17年は+6~7%)を上回る伸びが続いている。一方、輸入額は前年同月比14.2%増(前月:同24.8%増)と低下した結果、貿易収支は21.8億ドルの黒字となり、前月から10.8億ドル増加した(図表5)。
輸出を品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が同85.5%増(前月:同66.6%増)と一段と上昇し、7カ月連続の二桁増となった(図表6)。電話・部品の好調は年後半の新型スマートフォン発売の影響であり、当面は高水準を維持するものと見込まれる。コンピュータ・電子部品は同26.7%増(前月:同33.1%増)と低下したものの、17カ月連続の二桁増となった。アパレル関連では織物・衣類が同15.8%増(前月:同10.7%増)、履物が同13.4%増(前月:同18.8%増)と、それぞれ高い伸びを維持している。農産品ではコーヒー(同24.2%減)とコショウ(同44.2%減)が落ち込む一方、コメ(同58.8%増)や野菜(同35.6%増)、カシューナッツ(同14.0%増)などが好調に推移している。
輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同36.6%増(前月:同28.6%増)、地場企業が同20.7%増(前月:同19.2%増)と、それぞれ上昇した。
マレーシアの17年10月の輸出額は前年同月比17.3%増と、前月の同12.0%増から上昇して4ヵ月連続の二桁増を記録した。輸出の伸び率は宗教行事の影響で上下に振れているものの、主力の電気・電子製品を中心に好調を推移している。一方、輸入額も前年同月比19.3%増と、前月の同12.4%増から上昇した結果、貿易収支は25.0億ドルの黒字と、前月から4.5億ドル黒字が縮小した(図表7)。
輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同16.1%増(前月:同14.9%増)となり、主力の電気・電子製品(同15.4%増)を中心に上昇した(図表8)。また鉱物性燃料も同23.9%増(前月:同10.4%増)と上昇した。原油(同60.3%増)が大きく上昇したほか、石油製品(同12.0%増)も好調だった。このほか動植物性油脂が同7.0%増(前月:同4.2%減)とパーム油を中心に上昇したほか、化学製品も同17.4%増(前月:同1.8%増)と上昇した。
インドネシアの17年10月の輸出額は前年同月比18.4%増(前月:同15.7%増)と上昇し、4ヵ月連続の二桁増を記録した。輸出の伸び率は、コモディティ価格の上昇と資源需要の拡大を受けて高水準で推移している。一方、輸入額は前年同月比23.3%増(前月:同13.1%増)と上昇した結果、貿易収支は9.0億ドルの黒字と、前月から8.8億ドル黒字が縮小した(図表9)。
輸出を品目別に見ると、石油ガスが同33.8%増(前月:同35.6%増)と高水準を維持した(図表10)。非石油ガスでは、輸出全体の7割を占める製造品が同12.7%増(前月:同12.0%増)と若干上昇した。電気機械(同3.4%減)は2ヵ月連続で減少したものの、アパレル(同13.6%増)や自動車・同部品(同9.9%増)が高水準を維持すると共に、鉱石、スラグ及び灰(同75.0%増)が増加した。また鉱業品は同49.2%増(前月:同29.6%増)と上昇した一方、農産品は同8.4%減(前月:同9.2%減)と減少傾向が続いた。
シンガポールの17年10月の輸出額(石油と再輸出除く)は前年同月比23.1%増と、前月(同0.3%減)の下振れから急上昇した。輸出の伸び率は、主力の電子製品と医薬品を中心に上下に振れているものの、石油化学製品の堅調な拡大が続いており、総じて増加基調は続いているものと見られる。なお、総輸出額は前年同月比12.5%増(前月:同4.5%増)、総輸入額も同18.5%増(前月:同9.9%増)と、それぞれ上昇した結果、貿易収支は31.7億ドルの黒字と、前月から8.7億ドル黒字が縮小した(図表11)。
輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約3割を占める電子製品は同6.4%増と、前月の同7.3%減から上昇し、2ヵ月ぶりのプラスとなった(図表12)。電子製品の内訳を見ると、IC(同17.6%増)とPC(同15.1%増)、通信機器(同17.1%増)が前月からプラスに転じた一方、PC部品(同33.1%減)とダイオード・トランジスタ(同27.3%減)はそれぞれ大きく低下してマイナスとなった。また電子製品と同じく全体の約3割を占める化学も同31.9%増(前月:同7.5%減)から大きく上昇して2ヵ月ぶりのプラスとなった。化学製品の内訳を見ると、医薬品が同27.4%増(前月:同35.6%減)と大きく上昇、石油化学製品も同25.2%増(前月:同12.3%増)と好調に推移した。
フィリピンの17年10月の輸出額は前年同月比6.6%増と、前月の同4.9%増から上昇した。輸出は海外経済の回復を受けて電子製品を中心に好調に推移してきたが、足元ではベース効果が剥落して輸出の勢いは弱まりつつある。一方、輸入額も前年同月比13.1%増(前月:同4.4%増)と上昇した。結果、貿易収支は28.4億ドルの赤字と、前月から7.7億ドル赤字が拡大した(図表13)。
輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の約5割を占める電子製品は同13.8%増と、前月の同6.7%増から上昇した(図表14)。電子製品の内訳を見ると、遠距離通信機器(同3.6%減)が低迷したほか、電子データ処理機(同3.7%増)、計測制御機器(同1.7%増)が伸び悩んだものの、主力の半導体デバイス(同15.9%増)が大きく上昇した。
その他9品目については金(同297.0%増)や電子機械・部品(43.3%増)、金属部品(同21.9%増)、バナナ(同20.8%増)、その他鉱業品(同19.6%増)が増加した一方、機械・輸送用機器(同27.4%減)、ココナッツオイル(同26.8%減)、イグニッション・ワイヤーセット(同8.1%減)、その他製造品(同6.2%減)が減少するなど、総じて増加した品目が多かった。
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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員
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