はじめに
2018年は、いろいろな意味で、日本においてロシアが注目される国となる。
政治等に関わる問題はさておいて、スポーツの世界では、何といっても6月に、サッカーの2018FIFAワールドカップがロシアで開催され、日本チームの活躍が期待されることとなる。それに先んじて、2月には、韓国の平昌(ピョンチャン)で冬季オリンピックが開催される。ロシア選手団の派遣は禁じられているが、ロシアの選手は個人資格での参加の道が残されていて、その動向や活躍等が注目されることになる(*1)。
これだけではない。皆さんご存知かどうかわからないが、2018年は「日本におけるロシア年」であり、「ロシアにおける日本年」でもある。これに合わせて、日本においてはロシアの文化等を紹介する行事が多数予定されている。
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(*1)3月に開催される冬季パラリンピックでのロシア選手団等の対応については、1月26~28日に開かれる国際パラリンピック委員会理事会で最終判断されることになっている。
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ロシアにおける日本年及び日本におけるロシア年の開催について
外務省のWebサイト(*2)によれば、「2016年12月のプーチン大統領訪日の際,日露間における人的交流の拡大に向けた方策の一つとして,2018年に『ロシアにおける日本年』及び『日本におけるロシア年』を相互に開催することで一致し,開催に係る政府間覚書が署名されました。」ということになっている。そして、この覚書によれば、政治、経済、文化、科学、教育、青年、スポーツ、自治体間交流、その他の分野で、各種のセミナー、シンポジウム等を含む二国間関係の様々な分野を包括する大規模行事が実施されることになっている。
このうち、文化の分野では、「日本文化及びロシア文化に関するフェスティバル並びに日本及びロシアの映画祭の開催・テレビ交流の実施、日本語及びロシア語の普及に関する事業、日露関係史に関する外務省の史料の相互展示、日本の美術館・博物館及びロシアの国立美術館所蔵品を含む日本及びロシアの美術品の展覧会の実施」が挙げられている。
また、「ロシアにおける日本年」及び「日本におけるロシア年」のロゴマークも作成され、「あなたの知らない日本があります」、「あなたの知らないロシアがあります」といったキャッチフレーズも作成されている。
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(*2)http://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/jrep/page25_000679.html
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ロシアにおける文化・芸術
ロシアにおける文化・芸術のうち、私が個人的に好きなオペラ、バレエ、オーケストラといった音楽・舞踏の分野においては、ロシアはいわずもがなの世界トップクラスの国である。旧ソ連圏からも含めた有名人の一端を挙げると以下の通りである。
クラシック音楽の世界では、作曲家ではなんと言ってもチャイコフスキーが最も有名であるが、その他にも、グリンカ、ムソルグスキー、ボロディン、リムスキー・コルサコフ、グラズノフ、ラフマニノフ、ミンクス、ストラヴィンスキー、プロコフィエフ、ハチャトゥリアン、ショスタコーヴィチ等がいる。指揮者では、ゲルギエフ、ロジェストヴィンスキー、テミルカーノフ、スヴェトラーノフ、フェドセーエフ等がいる。著名な演奏家としては、ロストロポーヴィチ、ルビンシュタイン、キーシン、クレメル、ハイフェッツ、バシュメット等がいる(*3)。
オペラ歌手では、シャリアピン、オブラスツォワ、ホロストフスキー、ネトレプコ等が、バレリーンでは、プリセツカヤ、アナニアシビリ、ルジマートフ、マラーホフ、ニジンスキー、パブロワ等がいる。
さらに、ボリショイ劇場やマリインスキー劇場は、オペラやバレエで世界的に著名な劇場である。
また、文学の世界では、プーシキン、トルストイ、ツルゲーネフ、ソルジェニツィン、ショーロホフ、ゴーゴリ、チェーホフ、ドストエフスキー等の偉人を輩出している。
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(*3)ロシア以外のソビエト連邦出身やロシア出身で現在は他国の国籍を有している著名な音楽家も多数いる。
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ロシア文化フェスティバル
日本において、ロシアの文化芸術に触れる場としては、ロシア政府の主導で、2006年から毎年「ロシア文化フェスティバル」が開催されている。フェスティバルでは、ロシアからの有名指揮者や音楽家の演奏、オーケストラのコンサート、合唱、演劇芸術、サーカス、バレエ、展覧会、映画等の文化・芸術イベントが行われ、ロシア文化に触れる良い機会となっている。
2018年のロシア文化フェスティバルは、6月12日に、サントリーホールでのミハイル・プレトニョフ指揮によるロシア・ナショナル管弦楽団の演奏(オール・チャイコフスキー・プログラムで、チャイコフスキーの歌劇「イオランタ」等)で開幕する。その後、各種のイベントが行われていくことになる。フェスティバルのさらなる詳細は2月頃に公表されるとのことである。
ロシア・イン・ジャパン
民間団体ベースでは、電通、ガスプロム・メディア・ホールディング、東京急行電鉄及び日本経済新聞社の4社は、「『日本におけるロシア年』を契機に、より多くの皆さまにロシア文化を体験し、興味をもっていただきたいという理念のもと、ロシア文化を日本に紹介するプロジェクト『ロシア・イン・ジャパン実行委員会』を立ち上げました。」(ロシア・イン・ジャパン(Russia in Japan)Webサイトより、以下同様)とし、「2018年の日露交流年(日本では「日本におけるロシア年」)から2023年までの5年間に渡り、ロシア文化を様々な視点からお届けし、日本におけるロシア文化浸透に向けて取り組んでまいります。」としている。
可愛らしいロゴマークも作成し、「ロシアと日本の楽しい文化の交流を表現するためにロシアのマトリョーシカと、日本のこけしが仲良く並んでお互いの魅力を伝え合い、認め合う気持ちを表現しています。」と説明している。「日本におけるロシア年」を契機に、より多くの皆さまにロシア文化を体験し、興味をもっていただきたいという理念のもと、ロシア文化を日本に紹介するプロジェクト「ロシア・イン・ジャパン実行委員会」を立ち上げました。
その一環として、6月には「トランス=シベリア芸術祭in Japan2018」(Bunkamuraオーチャードホー)が予定されている。「『トランス=シベリア芸術祭』は、世界的に有名なヴァイオリニストであるワディム・レーピン氏が「『芸術を"旅"と考え、東西の懸け橋にしたい』と、"シベリア横断"という意味を込めて名付けた公演」と説明されている。なお、トランス=シベリア芸術祭は、2014年にロシアで初めて行われ、2015年はイスラエルで、2016年、2017年には日本で開催されている。
11月には、国立トレチャコフ美術館展がBunkamuraザ・ミュージアムで開催される。
これ以外にも、ロシアバレエ映画会やブックフェア、フードフェアなども開かれるとのことである。
最後に
以上、「日本におけるロシア年」に関係する状況について紹介してきた。私自身はロシアの専門家でも何でもなく、単なるロシアの文化・芸術の一愛好家である。
ロシアを最初に訪れたのは、今から20年以上も前の年末年始の真冬の時期であり、零下20度や30度にもなる厳しい寒さを経験した。観光のためのグループツアーに参加して、モスクワとサンクトペテルブルグの2大都市を中心に回った。当時は旧ソ連の国営旅行会社であるインツーリストが外国人旅行者を受け入れる唯一の旅行社で、その日程等は国家によって管理されていた時代であった。現在は近代化されているモスクワのシェレメーチエヴォ国際空港は、当時はかなり寂しい雰囲気であったと感じた記憶が残っている。ただし、ボリショイ劇場とマリインスキー劇場でオペラやバレエを楽しむことができ、大変充実したものだった。 このような形でロシアの文化・芸術の一端に触れたことで、私自身はロシアに対しては良いイメージを持っている。
ロシアの文化で興味深いのは、今回紹介したような音楽・舞踏、文学、美術等にとどまらず、演劇、映画、スポーツ、料理等と幅広い。日頃は、政治や経済のニュースで接する機会の多いロシアであるが、2018年は「日本におけるロシア年」ということで、各人が各人の興味関心に応じて、ロシアの文化にさらに触れていく良い機会であると思われる。そうしたことを通じて、日本人一人ひとりがロシアに対する理解をより一層深めていくことが、今後の日本とロシアの良好な関係を築き上げて行く上で大変重要であると思われる。皆さんも今年は何かロシアの文化に触れてみてはどうですか、きっと楽しめるのではないかと思われます。
中村亮一(なかむら りょういち)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 取締役
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