17年11月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て通関ベース)は前年同月比15.9%増と、前月の同19.6%増から低下したものの、5ヵ月連続の二桁増を記録した(図表1)。輸出は海外経済の回復を背景に幅広い品目で増加傾向を続けるなか、足元では半導体需要の増加や一次産品の価格上昇が輸出全体を押し上げている。もっとも6カ国の輸出を牽引してきたベトナムでは新型スマートフォン関連の輸出がピークアウトしたかに見え、一段の上昇は見込みにくくなってきている。

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ASEAN5カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、各地域向けで増加傾向が続いている(図表2)。13ヵ月連続の二桁増となった東アジア向け(同16.0%増)を中心に、東南アジア向け(同23.1%増)や北米向け(同11.7%増)、EU向け(同9.4%増)がそれぞれ高水準を維持している。

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タイの17年11月の輸出額は前年同月比13.4%増と、前月の同13.1%増から小幅に上昇して、7ヵ月連続の二桁増を記録した。輸出の伸びは電子機器や自動車・同部品、天然ゴム・同製品を中心に好調が続いており、バーツ高の影響は軽微にとどまっている。一方、輸入額も前年同月比13.7%増(前月:同13.5%増)と小幅に上昇した結果、貿易収支は17.6億ドルの黒字となり、前月から15.5億ドル黒字が増加した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同13.3%増(前月:同13.8%増)と小幅に低下したものの、好調を維持している(図表4)。工業製品の内訳を見ると、機械・装置(同5.2%減)が減少した一方、航空機・船舶・機関車(同351.1%増)や電子機器(同24.2%増)、自動車・部品(同14.6%増)、石油化学製品(同12.7%増)が高い伸びとなった。また鉱業・燃料は同21.5%増(前月:同40.1%増)と低下したものの、石油製品を中心に4ヵ月連続の二桁増となった。一方、農産品・加工品は同12.1%増(前月:同4.6%増)と上昇して3ヵ月ぶりの二桁増となった。コメ(同49.7%増)と加工食品(同13.5%増)が大きく上昇したほか、天然ゴム(同14.1%増)とゴム製品(同39.9%増)が好調を維持した。

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ベトナムの17年11月の輸出額は前年同月比24.1%増と、前月の同32.0%増から低下したものの、10ヵ月連続の二桁増を記録した。輸出は16年後半に主力の電気・電子製品が勢いを取り戻してから政府目標(17年は+6~7%)を上回る伸びが続いているが、足元では新型スマートフォン関連の輸出がピークアウトしたかに見え、先行きは好調を維持しつつも増勢が鈍化すると見込まれる。一方、輸入額は前年同月比18.2%増(前月:同14.2%増)と上昇した結果、貿易収支は6.0億ドルの黒字となり、前月から15.8億ドル黒字が縮小した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が同40.6%増と高水準ながらも、前月の同85.5%増から鈍化した(図表6)。コンピュータ・電子部品は同32.4%増(前月:同26.7%増)と上昇し、18カ月連続の二桁増となった。アパレル関連では織物・衣類が同15.0%増(前月:同15.8%増)、履物が同12.6%増(前月:同13.4%増)と、それぞれ高い伸びを維持している。農産品ではコーヒー(同12.7%減)とコショウ(同32.6%減)が落ち込む一方、コメ(同27.9%増)や野菜(同59.3%増)、カシューナッツ(同21.9%増)などが好調に推移している。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同25.5%増(前月:同36.6%増)、地場企業が同1.8%増(前月:同20.7%増)と、それぞれ低下した。

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マレーシアの17年11月の輸出額は前年同月比18.7%増と、前月の同17.2%増から上昇して5ヵ月連続の二桁増を記録した。輸出の伸び率は年央こそ宗教行事の影響で上下に振れたものの、主力の電気・電子製品を中心に好調に推移している。一方、輸入額も前年同月比19.5%増と、前月の同19.3%増から若干上昇した結果、貿易収支は23.9億ドルの黒字と、前月から0.8億ドル黒字が縮小した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同25.2%増(前月:同16.1%増)となり、主力の電気・電子製品(同25.6%増)を中心に一段と上昇した(図表8)。また化学製品も同24.9%増(前月:同17.4%増)と上昇した。一方、鉱物性燃料は同7.0%増(前月:同24.2%増)と鈍化した。天然ガス(11.6%増)が好調だったものの、原油(同0.6%増)と石油製品(同4.0%増)が伸び悩んだ。また動植物性油脂は同1.1%減(前月:同7.0%増)とパーム油を中心に低下した。

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インドネシアの17年11月の輸出額は前年同月比13.2%増(前月:同19.6%増)と低下したものの、5ヵ月連続の二桁増を記録した。輸出の伸び率は、コモディティの価格上昇と需要拡大を受けて高水準で推移している。一方、輸入額も前年同月比19.6%増(前月:同23.8%増)と低下した結果、貿易収支は1.3億ドルの黒字と、前月から8.7億ドル黒字が縮小した(図表9)。

輸出を品目別に見ると、石油ガスが同15.2%増(前月:同40.2%増)と高水準ながらも伸びが鈍化した(図表10)。非石油ガスでは、輸出全体の7割を占める製造品が同13.6%増(前月:同12.7%増)と小幅に上昇した。電気機械(同1.3%減)は低迷しているものの、アパレル(同23.6%増)やゴム製品(同18.7%増)、宝飾品(同28.1%増)がそれぞれ好調だった。一方、農産品は同12.2%減(前月:同8.4%減)と減少傾向が続いたほか、鉱業品が同19.0%増(前月:同49.2%増)と鈍化した。

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シンガポールの17年11月の輸出額(石油と再輸出除く)は前年同月比13.5%増と、前月(同22.8%増)から低下したものの、2ヵ月連続の二桁増となった。輸出の伸び率は、主力の電子製品と医薬品を中心に上下に振れているものの、石油化学製品の堅調な拡大が続いており、総じて増加基調は続いている。なお、総輸出額が前年同月比14.0%増(前月:同12.4%増)と上昇する一方、総輸入額が同15.1%増(前月:同18.1%増)と低下した結果、貿易収支は32.6億ドルの黒字と、前月から0.3億ドル黒字が増加した(図表11)。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約3割を占める電子製品は同9.4%増と、前月の同6.4%増から上昇して2ヵ月連続のプラスとなった(図表12)。電子製品の内訳を見ると、IC(同14.1%増)とPC(同16.2%増)、通信機器(同22.4%増)が好調を維持する一方、PC部品(同10.8%減)とダイオード・トランジスタ(同17.4%減)が低迷した。一方、電子製品と同じく全体の約3割を占める化学は同14.4%増(前月:同30.7%増)と高水準ながらも増勢が鈍化した。化学製品の内訳を見ると、医薬品が同7.4%増(前月:同27.4%増)、石油化学製品も同8.6%増(前月:同25.1%増)と、それぞれ低下した。

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フィリピンの17年11月の輸出額は前年同月比1.6%増と、前月の同7.1%増から低下した。輸出は好調の電子製品を中心に堅調な伸びを続けてきたが、足元では減速傾向が見られる。一方、輸入額も前年同月比18.5%増(前月:同13.1%増)と上昇した。結果、貿易収支は37.8億ドルの赤字と、前月から9.6億ドル赤字が拡大した(図表13)。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の約5割を占める電子製品は同12.7%増と、前月の同13.7%増から低下したものの、高水準を維持した(図表14)。電子製品の内訳を見ると、遠距離通信機器(同40.3%減)に加えて電子データ処理機(同0.9%減)と計測制御機器(同4.6%減)が減少したものの、主力の半導体デバイス(同17.8%増)が大きく上昇した。

その他9品目については電極(同418.6%増)や金(同136.7%増)、電子機械・部品(47.5%増)、金属部品(同25.4%増)、雑製品(同14.8%増)が増加した一方、機械・輸送用機器(同33.7%減)、その他製造品(同26.8%減)、ココナッツオイル(同8.0%減)、イグニッション・ワイヤーセット(同0.1%減)が減少するなど、総じて増加した品目が多かった。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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