今週のマーケット展望では、こう述べた。

<冷静に考えれば米国の金利上昇は日本株にとって好材料。為替の面でも円高が進みにくくなるし、米国株から日本株へのシフトも誘因するかもしれない。2万3000円割れがあれば押し目買いの好機と判断する>

広木隆,ストラテジーレポート
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ただ、もちろんその大前提として米国株が落ち着きを取り戻すということが条件である。かねてから米国株は割高感が指摘されてきた。PERなどは過去の水準に比べれば確かに高いが、それを正当化してきたのは金利が低かったから。金利がここまで上がってくると割高なバリュエーションを許容できないという懸念が出てきたのが、今回の大幅調整につながった背景である。つまり、PERだけ見て割高割安を測るのではなく、金利対比のバリュエーションを見る必要がある。

代表的なのはイールド・スプレッド。PERの逆数である株式益利回りと米国10年債利回りの差を見ると、安全資産である国債よりリスクの高い株式の益利回りが高いのが自然だが、「根拠なき熱狂」と言われた90年代は同じような水準だった。イールド・スプレッドはほぼゼロ近傍で推移している。ITバブルのピークでは株の益利回りが国債利回りを下回る(イールド・スプレッドがマイナスになる)ところまで株が買われた。こういうのをバブルというのであって今はまだそういうレベルではない。

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グローバル金融危機後の高水準のスプレッドからは確かに低下しているが、これはよく議論される通り株が割安というより債券のほうが割高、つまり金利が異常に低かったせいだ。その修正が - 金融政策の正常化の過程で起きてきただけである。

ではスプレッドはいくらなら適正がというと、これは分からない。この期間の平均では1.5%だが、もっと長期の平均では3%程度。ITバブルの時は、マイナスにまでなったが、リーマンショック前は2%程度であった。

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少なくとも現在は過去1年の水準から大きく逸脱していない。3%前後のプレミアムがついている。まだ適正と思われる範囲内にイールド・スプレッドはある。イールド・スプレッドは昨年12月のほうが低く、金利対比のバリュエーションではその時のほうが割高だったのだ。

減税が決まって、足元で大幅に業績が上方修正されて益利回りは上昇している。金利上昇は確かに急ピッチだが、益利回りのほうも上昇していることが見逃されている。

株式相場は雇用統計、特に時給の上昇がポジティブサプライズで文字通り、びっくりしただけだ。冷静になれば平均時給の前年同月比2.9%上昇というのは驚くに当たらない(2016年、2017年にも2.8%上昇という月があった)。とりあえず雇用統計というビッグイベント通過で、金利上昇にも歯止めがかかる頃か。株式市場も早晩、落ち着きを取り戻すだろう。

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驚くに当たらないと言えば、600ドルを超える下げ幅も、普通にあり得ることだ。下げ幅こそ、2008年12月1日に約680ドル下げて以来9年ぶりの大きさだが、当時のダウ平均は8,000ドル台。当時の680ドル安は率にして7.7%安で現在に換算したら2000ドルの下げに匹敵する。先週金曜日の下落は率にすれば2.5%である。日経平均が大発会に700円超も上昇したことを思えば、1日で600ドルを超える下げがあっても驚くには当たらないだろう。

今日の東京株式市場は、市場がスマートかどうかの試金石になる。パニック売りをどこまで冷静にさばけるか、投資家の肝が試される。

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト

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