2017年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比4.0%増(*1)と、前期の同4.3%増から低下したほか、Bloomberg調査の市場予想(同4.0%増)を下回る結果となった。

タイGDP
(画像=PIXTA)

なお、2017年通年の成長率は前年比3.9%増(2016年:同3.3%増)と上昇し、11月の政府の成長予測(3.9%)と一致した。

10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、政府部門の鈍化が成長率低下に繋がった(図表1)。

民間消費は前年同期比3.5%増と、前期の同3.4%増から僅かに上昇した。財別に見ると、半耐久財と非耐久財が低調に推移する一方、耐久財とサービスが堅調に拡大した。

政府消費は同0.2%増(前期:同1.8%増)と、公務員給与こそ増加したものの、財・サービスの購入を中心に低下した。

投資は同0.3%増と、前期の同1.2%増から低下した。投資の内訳を見ると、民間投資は同2.4%増(前期:同2.5%増)となり、民間設備投資(同3.4%増)が底堅く推移する一方、民間建設投資(同2.3%減)の低迷が響いて低下した。公共投資は同6.0%減(前期:同1.6%減)と低下し、公共設備投資(同2.9%減)と公共建設投資(同7.1%減)が揃って減少した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+0.5%ポイントとなり、前期の+1.0%ポイントから縮小した。まず輸出は同7.4%増(前期:同6.9%増)と上昇した。うち財貨輸出は同6.6%増(前期:同8.2%増)と低下した一方、サービス輸出は同9.7%増(前期:同2.6%増)と上昇した。また輸入は同7.5%増(前期:同6.5%増)と上昇した。うち財貨輸入が同8.3%増(前期:同9.2%増)と低下した一方、サービス輸入が同3.8%増(前期:同5.0%減)と上昇した。

タイGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

供給項目別に見ると、主に農業の落ち込みと製造業の鈍化が成長率低下に繋がった(図表2)。

農林水産業は前年同期比1.3%減と、前期の同9.7%増から大きく低下した。農業・林業(1.2%減)は洪水の影響を受けたコメをはじめ、キャッサバ、大豆などの主要農産品を中心に減少した。また漁業(同2.4%減)も悪天候を受けてエビの生産減を受けて低迷した。

非農業部門では、まず製造業が同3.0%増と、輸出関連産業を中心に底堅く推移したものの、前期の同4.2%増から低下した。製造業では、自動車やコンピューター・部品などの資本・技術関連産業(同5.9%増)、化学・同製品やゴム・プラスチック製品などの素材関連(同5.9%増)がそれぞれ上昇した、食料・飲料や宝飾品などの軽工業(同1.9%減)は外国製たばこの値下げを受けて減少した。また建設業は同5.3%減(前期:同1.6%減)と民間部門と公共部門が揃って減少して3期連続のマイナスとなった。一方、電気・ガス・水供給業は同3.4%増(前期:3.1%増)と小幅に上昇した。

全体の6割弱を占めるサービス業は引き続き景気の牽引役となっており、伸び率の上昇した業種が多かった。卸売・小売業が同6.9%増(前期:同6.4%増)、不動産業が同5.6%増(前期:同4.7%増)、ホテル・レストラン業が同15.3%増(前期:同6.9%増)、運輸・通信業が同8.9%増(前期:同7.4%増)とそれぞれ上昇した。一方、金融業が同4.2%増(前期:同4.6%増)と低下した。

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(*1)2月19日、タイの国家経済社会開発委員会事務局(NESDB)は2017年10-12月期の国内総生産(GDP)を公表した。なお、前期比(季節調整値)の実質GDP成長率は0.5%増と前期の同1.0%増から低下した。
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10-12月期GDPの評価と先行きのポイント

10-12月期は成長率が小幅に低下したものの、4%程度の高水準を維持した。投資は依然として低調に推移しているものの、輸出の好調と民間消費の回復が景気に明るさをもたらしている。

輸出は財貨輸出とサービス輸出が揃って好調に推移している。まず財貨輸出は、世界的に需要が拡大している通信機器やハードディスクドライブなどの電気電子製品、アフリカ向けのコメ、そして主力の輸出品である自動車も原油価格の上昇で購買力が向上した中東向けおよびオーストラリア向けを中心に堅調に拡大した(図表3)。また訪タイ外国人観光客数は、10-12月期が前年同期比19.5%増(前期:同6.4%増)となり、経済が回復したロシアからの観光客が増えたほか、中国人観光客も違法格安ツアーの取り締まり強化で落ち込んだ前年同期から大きく増加した。

民間消費も堅調に拡大している。訪タイ外国人観光客数の増加を背景に、非農業部門の収入は観光関連のサービス部門を中心に増加傾向を続けている。またインフレ率も中央銀行の目標(1~4%)を下回って推移し、消費者信頼感指数は上昇基調にある(図表4)。

タイGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

一方、投資は依然として低調だ。輸出拡大を背景に製造業の設備稼働率が上向き、企業信頼感指数も上昇傾向にあるなか、民間投資は底堅く推移しているが、公共投資は政府調達・供給管理法の改正の影響で執行が遅れたほか、水利施設や道路の建設プロジェクトが終わりに近づいて落ち込んだ。

先行きのタイ経済は、高成長を記録した2017年から成長ペースが落ちるだろうが、3%台後半の堅調な伸びを維持しそうだ。海外経済の成長による輸出の拡大が続くなか、雇用・所得環境が改善して民間消費の拡大も続くだろう。また現在低調な投資も輸出型製造業を中心とする設備投資に加え、東部経済回廊などの開発プロジェクトや遅れていた予算執行が持ち直すと見込まれることから、建設投資の落ち込みも和らぐだろう。

良好な経済環境が続くと見込まれる一方で、政治の動きは不透明化しつつある。高級腕時計を所持していたプラウィット副首相の不正疑惑により、軍政に対する抗議活動が拡大、国民の間で総選挙実施を求める声は高まってきている。総選挙の実施時期を巡っては、昨年10月にプラユット首相が18年11月に行なうと述べていたものの、その後政府は19年1~2月へと延期する見通しを示している。今後、抗議集会やデモが拡大することになれば、軍事政権は自らを支持する翼賛政党結成のための時間稼ぎをいつまでも続けることは難しくなるだろう。またデモ参加者と治安当局の衝突に発展する展開にも注意が必要だ。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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