オーナー社長にとって、会社からどのようにお金を受け取るかは悩みの種です。配当として受け取ると「配当所得」、役員報酬として受け取ると「給与所得」が生じます。また、会社にお金を残しても「自社株の相続税評価」が気になります。
袋小路のようにも思えるこの問題への解決策として、役員退職金の支給は有望な選択肢の一つです。以下では、役員退職金支給のポイントを(1)金額(2)手続(3)損金のタイミングという3つの視点から解説します。
役員退職金はいくら損金にできるか?
役員退職金が節税の観点で優れている理由は、受け取った役員の側では「退職所得」として課税が軽減される一方で、支給した会社の側でも損金に計上できるためです。
退職所得に関しては、勤続年数20年までの年数については年40万円、20年を超える年数については年70万円の退職所得控除額が認められています。例えば、勤続年数23年の役員の場合、退職金の額から1,010万円(=20年×40万円+3年×70万円)の退職所得控除額を差し引くことができます。
また、退職所得控除額を差し引いた金額に1/2を乗じて、課税の対象となる退職所得金額を求めます。さらに、分離課税として他の所得とは別に税率を乗じることにより、累進課税で税率が高くなりすぎないように配慮されています。
ただし、勤続年数が5年以下である特定役員等に対する退職金に対しては、1/2を乗じる措置がないなど一定の制約がありますので注意が必要です。
さて、このように役員個人にとっては優遇された制度となっていますが、会社の損金計上は無制限に認められるわけではありません。役員退職金として支給された金額のうち「不相当に高額な部分の金額」は損金には算入できないことになっています(法人税法34条2項)。
しかし、法人税法などでは金額基準が定められていないため、不相当に高額かどうかは、在任年数、退職の事情、同業他社の役員報酬などを勘案して判断されます。実務上は「功績倍率法」により役員報酬の額を決めるのが一般的です。
具体的には、「最終の役員報酬の月額×役員としての在任年数×功績倍率」により算定します。例えば、10年間にわたり代表取締役(功績倍率を3倍とする)として在任した役員(最終の役員報酬月額120万円)の退職金は3,600万円(=120万円×10年×3倍)と算定されます。ただし、作為的に最終の役員報酬額を前年に比べ大幅に増額させた場合等は、過去5年間の平均の役員報酬月額を算定月額報酬と見なされる可能性もあります。
ただし、功績倍率法で算定した場合でも、同業他社と比較して高額な場合は不相当に高額と判断され、損金計上できない可能性もありますので注意が必要です。
役員退職金を支払うには?
役員退職金を含む取締役の報酬は、会社法上、定款または株主総会で支給額を決めておかなければなりません。そのため、株主総会で役員退職金の支給を決定した際には、株主総会の議事録を残すようにしましょう。これは、後で説明する損金算入の時期を明らかにする意味でも重要です。
なお、株主総会では総額や上限を定めて、各役員への具体的な支給額の決定を取締役会に一任することも可能です。この場合は、株主総会議事録に加え、取締役会議事録の整備が必要になります。
また、役員退職金に関する決まりを「役員退職金規程」などの形で整備しておくことが望まれます。功績倍率法で使用する功績倍率なども規程で定めておくとよいでしょう。なお、功績倍率は代表取締役で3倍程度、専務取締役以下ではそれより低い倍率として定めるのが一般的です。
損金算入のタイミングはどうしたらいいのか
上述のように、役員に対して支給された退職金が適正な額であれば、損金の額に算入されます。その退職金を損金に算入できる時期は、原則として、株主総会の決議などにより退職金の額が具体的に確定した日のある年です。ただし分掌変更時は認められない可能性があるので注意が必要です。
また、退職金を実際に支払った事業年度に会社が損金経理をした場合は、支払った事業年度の損金とすることもできます。
まとめ
役員退職金が不当に高額かどうかの判断に関しては、近年、泡盛の酒造会社の創業者らに対する役員報酬や役員退職金を巡って高裁の判決までが確定しており、引き続き注目を集めています。こうした動向にも気を配りながら万全の準備を整えたいものです。(提供:企業オーナーonline)
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