要旨:

◆日経平均が3万円に到達するというハウスビューの基本観は維持。
◆グローバル経済や本邦上場企業の業績などファンダメンタルズは良好だが、市場のセンチメントが極端に悪化。
◆いったんマーケットが大きく崩れるとセンチメントの回復には相応の時間を要することはリーマンショックおよびチャイナショックで経験済み。
◆すでに日経平均は昨年10月の水準まで引き戻されている。今後、株価が戻るにせよ、発射台が下がってしまっている以上、当初3万円の到達時期と想定していた2018年度末(2019/3月)より後ずれする可能性が高まった。
◆よって従来の見通しも維持したうえで、日経平均3万円到達が1年後ろ倒しの2019年度末(2020/3月)というシナリオをもうひとつ提示することにしたい。

日経平均3万円到達時期 2019年度末(2020/3月)のシナリオ

われわれがマネックス証券のハウスビューとして「日経平均3万円への道」を発表してから4カ月が経つ。昨年11月の記者会見当日、日経平均はザラ場高値2万3382円をつけた。その後年末まで2万3000円絡みでもみ合ったが、明けて2018年、大発会の大幅高であっさりその高値を抜くと1月下旬には2万4000円の大台を終値で回復、3万円に向けて順調な滑り出しかと思われた。しかし、2月に入ると相場は一転。米国発の波乱に巻き込まれ日経平均も暴落を余儀なくされている。

今週5日には日経平均は2万1042円と昨年10月12日以来、約5カ月ぶりの安値を付けた。「上昇100日、下げ3日」という。上げるときはじりじり上げるが、下げるときはあっという間に下がるという株の格言だ。われわれは実際にこの格言通りの株価の動きを何度も見てきた。

広木隆,ストラテジーレポート
(画像=マネックス証券)

いったんマーケットが大きく崩れるとセンチメントの回復には相応の時間を要することはリーマンショックおよびチャイナショックで経験済みだ。リーマンショックでは相場の大底が入るまで、半年を要した。株価が底を打ったのは、引き金となった2008年9月のリーマン・ブラザーズの破綻から半年後の2009年3月であった。急落前の水準を取り戻すまでには米国株でさえ2年以上の期間が必要だった。「100年に1度の危機」といわれたリーマンショックと比較するのは適切ではないかもしれない。では2015年夏のチャイナショックの時はどうか。

広木隆,ストラテジーレポート
(画像=マネックス証券)

2015年8月に中国人民銀行が人民元の実質的な大幅切り下げに踏み切ったことをきっかけに世界の株式市場は同時株安に見舞われた。その後、すぐに戻りをたどったものの年末~翌年初めにかけて再び市場は動揺し、最終的に相場が底を打ったのは2016年2月。この時も市場が底入れするのに半年を要したことになる。2番底を入れてからすぐにダウ平均はチャイナショック前の水準を回復したが、日経平均はBREXITショックでさらに安値をつけ、その年後半の「トランプ・ラリー」を経てもチャイナショック前の水準回復には至らなかった。チャイナショック前の水準を取り戻したのは、日経平均が16連騰の新記録を打ち立てた昨年秋のラリーまで待たなければならなかったのである。

今、日経平均はその水準まで引き戻されている。昨年10月と言えば上述した通り、日経平均が16連騰の新記録を作るなどもっとも勢いのあった時だ。そこから1月下旬の高値まで3カ月かけて上げていった。その水準に戻るには、3カ月は見ておく必要があるかもしれない。僕は今月中にも一番底が入ると見ている(節分天井、彼岸底だ)。しかし、そこから戻すのに3カ月。3月本決算が出そろう後の5月後半から6月ごろか。これだけで、今年の前半をすでに失うことになる。

さらに言えば、リーマンショックとチャイナショックのケースでは、一番底の半年後に二番底が来た。それらに倣えば、今月に底入れ、決算発表通過で一旦戻しても、9月ごろに二番底ということになろう。9月に最終的に相場が落ち着き、年末にかけて戻り相場を辿るという見通しだが、年の後半は米国の中間選挙、2019年秋の消費増税の最終決定などをにらみながらどこまで戻りの勢いを保てるかわからない。

こう考えると、今年の11月にようやく昨年11月のスタートラインに戻って、そこから仕切り直し、ということになる蓋然性が低くない。これが、日経平均3万円到達が1年後ろ倒しの2019年度末(2020/3月)というもうひとつのシナリオである。

従来シナリオの実現性

上記は「もうひとつの」シナリオであって、従来からの見通し、すなわち2018年度末(2019/3月)に日経平均が3万円になるというビューを棄てるものではない。なぜなら、マクロ、ミクロの両面からファンダメンタルズはむしろ一段と良好になっているからである。例えば、「3万円への道」を打ち出した当初、その根拠に挙げた企業業績は大きく上方修正されている。その当時、僕は日経平均のEPSについて今年度(2018/3月期)の着地(本決算発表時)は1640円程度とはじいていたが、すでに現在1690円と想定を超えている。

広木隆,ストラテジーレポート
(画像=マネックス証券)

足元は良いが来期の業績はどうか。クィックコンセンサスによれば来期は7%増益の見通しだが、日経新聞が書くように「円高がじゅうぶん織り込まれていない」。しかし、僕は円高はここまでと思う。(詳しくはこちらをご参照)

その後出てきたトランプ政権による保護主義への懸念はどうか。保護主義でドル安容認ではないか、と言われるが、現実問題として利上げに動く米国と、おそらく利上げは遥か彼方の日本では、投機以外で円高にはならない。保護主義的な政策はマンデル=フレミングの国際マクロ経済理論からいっても自国通貨高(ドル高)を招くことは経済学の常識である。よって短期的な ‐ これもセンチメントの悪化によるなどの ‐ 円高は発生しても恒常的、基調的な円高は進まないと考える。

米国では30年ぶりの税制改革が実現し、景気への効果が出るのはこれからだろう。国内では黒田日銀の新体制も発足し、安倍首相は秋の総裁選でおそらく3選を決め、「アベノミクス」と金融緩和路線が続く。出口論に対する根強い市場の邪推は徐々に後退するだろう。秋には新元号も発表され、新しい時代が始まる高揚感が高まるだろう。来春には新しい天皇陛下の即位で祝祭ムードも一色となるだろう。

本来であれば明るい材料も山ほどある。ただし、今はそれに目が向かない。ひとえにセンチメントの悪化である。

株価が、ファンダメンタルズとセンチメントの掛け算 ‐ 例えば企業業績(EPS) ×バリュエーション(PER) -  で決まるとすれば、ファンダメンタルズは上向きだが、センチメントが大きく下に振れている。さらに悪いことは、センチメントは株価自体に左右される。ファンダメンタルズから離れて、株価の動き自体が投資家のセンチメントを悪化させ、さらなる株安を招くという悪循環。この悪いループをジョージ・ソロスは「レフレキシビティ(再帰性)」と呼んだ。バブルと暴落が発生する根本的な市場メカニズムである。

広木隆,ストラテジーレポート
(画像=マネックス証券)

センチメントの悪化が落ち着けば、市場はファンダメンタルズに目を向けるだろう。日経平均の今期EPS1700円、来期は5%増益でも1785円。PERの過去平均15.5倍に戻れば2万7667円。「レフレキシビティ」は上方にも働くから、その時の市場のムード次第で3万円はじゅうぶん可能だと考える。

広木隆,ストラテジーレポート
(画像=マネックス証券)

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト

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