前回の「2018年1月の雇用統計プレビュー」レポートのタイトルは「3度目の正直」。僕はこう述べた。

<DeepMacro社は、過去2回の反省からだろう、「S&P500の売り」を推奨していない。これは嫌な気がする。強い指標で、「S&P500の売り」となるのは金利上昇が嫌気される場合、じゅうぶんあり得るシナリオだ。確かにこれまでの株式市場は強い景気指標を素直に好感してきたが、最近の相場は金利上昇に対してナーバスになっている。DeepMacro社がS&P500の売り推奨をやめた途端、NFPが強めに出ても、それを受けた金利上昇を嫌って米国株は下げるかもしれない。「3度目の正直」に注意しておきたい。>

果たして、強い雇用統計を受けてダウ平均は665ドル安と大暴落した。前回のレポートは、雇用統計で株価急落を予想した数少ないレポートのひとつとなった。そのわりにはページビューが少なく残念である。

さて今回もDeepMacro社は「強めの数字」を予想しているが、はっきり言って、もうNFPはさほど注目が高くない。前回金利の上昇を招いたのは平均時給の伸びである。そして平均時給はテクニカル的な要因で増加していた面があり、今回、その特殊要因が剥落してもとの伸びのペースに戻るかというのが最大の注目点である。詳しくはこちらのレポート(「日本株は米国金利上昇で買われる」)をご参照されたい。

Q1. DeepMacroのビッグデータは、大幅増となった先月1月よりも、さらに高いNFPを予測しているか?

A1. 答えはYes。われわれのDeepMacro予測は2月の民間の非農業部門雇用者数(NFP)を22.6万人増と予測している。先月の結果は19.6万人増、2月の市場コンセンサス予想は19.8万人増である。つまり、われわれのデータは、株式市場のボラティリティ急騰に拍車をかけた先月1月の強い結果よりも、さらに強い数字となる可能性を示唆している。

Q2. この場合、DeepMacro戦略が推奨する取引とは?

A2. 答えは、金利(債券)の売り、米ドルの買い、である。
DeepMacroトレーディング戦略は、(NFPに対する)DeepMacro予測と市場のコンセンサス予想のギャップに基づいて決定される。DeepMacro予測が市場コンセンサスよりも高い場合は金利の売り、米ドルの買いを、DeepMacro予測が市場コンセンサスよりも低い場合は金利の買い、米ドルの売りを推奨する。

これはDeepMacro予測の方が、市場予想よりも、雇用統計発表後の市場の方向性と相関していることが確認されているためだ。つまり、労働市場のファンダメンタルズの実態に対する評価において、ボトムアップのビッグデータによって裏付けられた見方と市場の見方とが合致しているようなのである。

われわれはこの戦略のみに基づいてトレードするべきか。おそらくそうではないだろう。(われわれの戦略が先月13%のリターンをもたらし得たことは喜ばしいことだが)むしろわれわれは、投資家はこの戦略を参考にして雇用統計の発表に備えたリスク管理を行うことができると考えている。例えば、現在DeepMacro FX-1 ポートフォリオでは、日本円、ユーロ、英ポンド、ノルウェー・クローネに対して米ドルのショートポジションを推奨している。(その他G10通貨に対しては米ドルのロング)投資家の方は、今回のDeepMacroのNFP予測に基づいて、これらの通貨に対する米ドルのショート幅を軽くしてみるのも良いかもしれない。

グローバル・マクロ,米国雇用統計プレビュー
(画像=マネックス証券)

雇用に関するわれわれの主要なデータソースは、3万社に及ぶ米国企業の人事ウェブサイトに掲載される求人情報である。企業が求人広告をウェブサイトに掲載した時点でわれわれはそれを新規の「求人」とカウントし、掲載が取り下げされた時点で求人が「埋まった」=「採用」された、と判断している。新たな求人は企業側の労働需要の増加を意味し、雇用の伸びの先行指標となる。また、これら新規求人データの総数は、DeepMacro「成長ファクター」によって計測される景気サイクルの全般的な強さなどの他の変数と合わせて分析することで、毎月のNFPに対する説明力を持つことがわかってきている。

グローバル・マクロ,米国雇用統計プレビュー
(画像=マネックス証券)

今月のDeepMacro予測について、もう少し詳しく見てみよう。

●新規求人数は、1月の8.8%上昇に対し、今月は先月から1.0%のみ上昇。
●推定の新規採用数は、1月の10.4%上昇に対し、今月は2.3%の減少。
●景気サイクル全般を計測するDeepMacro成長ファクターは、2月に約0.4標準偏差上昇。われわれのモデルでは、この成長ファクターの上昇が新規求人数と新規採用数の弱い結果を埋め合わせていると解釈している。

Figure2は、3万社の米国企業の人事ウェブサイトをスクレイピングすることで取得した新規求人数と新規採用数を示している。グリーンの網掛け部分は2月分、グレーは1月分を表す。これらのデータでは1ヶ月あたり100万件以上の新規求人と新規採用の情報をカバーしている。これは、企業、セクター、職業別の雇用活動の詳細を示す膨大な量のデータである。

2月の雇用活動は1月の平均レベルと同程度の水準からはじまった。しかし、新規求人に関しては月末までに落ち込んでいったように見える。おそらくこの落ち込みの大半は月後半にかかっており、2月のNFPレポートにはまだ反映されていないだろう。したがって、今月のDeepMacro 予測は1月の予測とかなり近いものとなっている。

われわれはNFPを予測するにあたって、DeepMacro「成長ファクター」にも注目している。このファクターは2月に上昇した。成長ファクターは、経済のあらゆる側面からのデータに基づいて算出されているため、われわれのインターネット上のビッグデータでは捉えることが難しい雇用活動(例えば、インターネット上で行われていない雇用活動など)についても捕捉することができる。今月、成長ファクターが上昇したことで、DeepMacroのNFP予測は市場コンセンサスを上回る水準をキープしている。

拡大しているが、上限あり

DeepMacro予測は市場コンセンサスを上回っているが、ここ数ヶ月の予測と比べると低いものとなっている。つまり、われわれが使用するボトムアップのデータは、緩やかな減退傾向を示している。Figure2で示されるように、直近の雇用活動のピークは昨年10月から11月にかけての期間であり、ここ最近ではない。確かに、昨年秋の時点で短期金利の水準は強い労働市場を反映しはじめていたが、長期金利や株式市場のボラティリティについてはそうではなかった。

ここで一歩下がって、歴史的な観点から最近のNFPを見てみよう。Figure3は1940年以降のNFPの前年比変化率の推移を示した公式データである。ここから3つの目立ったパターンが見て取れる。第一に、雇用者数の拡大の期間が過去の水準と比べて長くなっている。第二に、拡大の規模(大きさ)が小さい。そして第三に、拡大が減速している。現在の失業レベルでは、雇用者が提供する仕事を担う労働者の数が足りないのだ。

グローバル・マクロ,米国雇用統計プレビュー
(画像=マネックス証券)

DeepMacro成長ファクターはまさにこれと同じことを示している。今回の米国の(景気サイクルの)拡大は、持続期間は長く、規模は控えめで、勢いには上限がある。ただしこれは、金利がこれ以上上がらないことを意味するものではない。むしろ、今回のような余剰労働力がほとんど使い果たされている状況下において、金利は上昇する傾向にある。さらに成長が加速しない場合においても、である。したがって、今回の結論はQ2への回答で述べた通りだ。雇用統計発表時のリスクに備えて、金利の売り、米ドルの買い、である。

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト

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