● 2月以降のマクロ金融環境には弊社の想定外の動きがみられる。
● 米国の金利急上昇、これに対する為替の感応度の異変、国内銀行の貸出態度硬化、これらを受けた個人のセンチメントの後退等である。
● 企業のファンダメンタルズは引き続き強いものの、センチメントが半年程度前の状態まで押し戻された感は否めない。19年10月の消費増税も考慮し、日経平均3万円達成の時期を当初の18年度から「19年度中」へと幅をもたせる。
マクロ金融環境の再検証
2月以降、株式市場が神経質な動きを続けている。我々は昨年11月に「3万円への道」を発表、2018 年度末、すなわち2019年3月頃までに日経平均株価が3万円を達成すると予想してきた。
現在も中長期的に日経平均株価が3万円に達するこという考えに変わりはない。企業のファンダメンタルズは引き続き強い。一方足元では、以下のとおり、海外のマクロ金融環境に変化が生じ、これに伴って市場のセンチメントが半年ほど前の水準まで後退している。
米金利上昇とこれに対する市場の感応度
足元では、米国金利が上昇し、日米の金利差が拡大している(図表1)。背景は、17年12月に発表された米国の減税や、それに続くトランプ大統領の大盤振る舞いの予算教書、債務上限引き上げの可能性などである。
これは理論的には、ドル高・円安要因である。実際、米国が金融政策正常化に向けて利上げを始めた2015年以降のデータでみると、殆どの期間で、長期金利差の拡大(主に米国の金利上昇)とドル円レート(ドル高・円安)は順相関となっていた。セオリー通り、米国金利が上昇すれば、ドルが買われるという構図である。
ところが、1月末以降、この相関が崩れ、セオリーとは逆に、ドル円は金利差と逆方向に動くようになった(図表2)。
以前の成長やインフレ率の上昇予想による動きとは異なり、米国の財政懸念による、いわゆる"悪い金利上昇"である。このような時には、ドルへの信認が低下するので、金利上昇は必ずしもドル高・円安には繋がらない。
今後も米国の財政拡大は続くと見るのが妥当である。中間選挙を控える中、支持率を引き上げるにはそれが手っ取り早いからだ。その場合、円高の流れが続く可能性が高い。
円高が続いた場合、日本企業の為替想定(109円台程度)は徐々に引き下げられるだろう。特に、来期初の輸出企業の想定為替レートは保守的となりうる。その場合、来期前半の株価の上値を抑え、目標株価達成を後ずれさせる可能性高まるだろう。
国内金融機関の貸出態度硬化
このところ銀行の貸出の伸びが鈍化している(図表3)。特に、個人向け貸出のスタンスが急速に厳格化に傾いている(図表4)。アパートローンやカードローンなど個人向け融資について慎重姿勢に転じたことが主因とみられる。
さらに足元では、「かぼちゃの馬車」というシェアハウスに対する過度な銀行融資の問題も勃発した。念のため、個人の投資用不動産取得融資の要件を一段と厳しく銀行も出てくるだろう。
こうした銀行の個人向け貸出のスローダウンは、住宅購入や個人の消費活動の鈍化に繋がり、個人のセンチメントを一層冷やしかねない。
市場のセンチメント
弊社が行っている個人投資家アンケート調査にも、足元で大きな変化がみられる。「預金より消費や投資にお金を回すべきだ」と考える投資家層が3月の調査で激減し、およそ半年前の水準に逆戻りした(図表5-1)。マイナス金利導入後の投資意欲が高まったかどうかという質問についても、回復が足踏みとなった(図表5-2)。
市場のセンチメントは株価等の環境によっては、また復活する可能性が高いが、強気に戻るまでの時間をロスした感は否めない。
これらの他には、今のところ、金融環境の大きな悪化はみられない。しかし市場はわずかな問題に対して極めて神経質になっている。
企業のファンダメンタルズは引き続き強いものの、センチメントが半年程度前の状態まで押し戻された感は否めない。19年10月の消費増税も考慮し、日経平均3万円達成の時期を、従来の「2018年度末」から「2019年度中」に修正する。当面、マクロ金融環境を注視していく。
大槻 奈那(おおつき・なな)
マネックス証券 チーフ・アナリスト
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