最近の年末調整や確定申告は頻繁に変更が生じている。2020年分も変更が加わった。変更になったのは「配偶者控除」「配偶者特別控除」で、多くの会社員やアルバイト・パートが気にしているだろう。今回はこの変更点や注意点、手続きについて解説する。
本記事は2022年2月の情報をもとに、最新の情報に更新し、公開しています。
中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。
目次
2020年から配偶者控除、配偶者特別控除がちょっと複雑に
2018年分以降、配偶者控除と配偶者特別控除は大きく変わったが、2020年分以降についてもさらに変更が加わった。変更点は次の2つだ。
●配偶者控除の条件金額が「38万円→48万円」に
配偶者控除を受けるためには、納税者の妻や夫の合計所得金額が一定金額以下でないといけない。従来の条件では、合計所得金額は38万円だったが、2020年分以降は48万円となった。
●配偶者特別控除の金額が変更に
配偶者特別控除は2018年分以降、配偶者の所得だけでなく納税者本人の所得も所得控除額そのものに影響するようになった。例えば、配偶者の合計所得金額が同じ50万円でも、納税者本人の合計所得額が800万円なら控除額は38万円だが、980万円だと13万円しか控除されない。
つまり配偶者特別控除額の枠がより細かくなったわけだが、2020年分以降この細分化されたそれぞれの金額が変更される。
配偶者控除と配偶者特別控除
そもそも、配偶者控除と配偶者特別控除はどのような制度なのだろうか。一度確認しておこう。なお、いずれの制度も納税者自身の年間合計所得金額が1000万円を超えていると適用を受けられない。
●配偶者控除とは
配偶者控除とは、納税者の妻や夫の年間所得が少ないときに納税者側が受けられる所得控除のことだ。この所得控除を受けるにはその年の12月31日時点で次の要件すべてを満たしていることが求められる。
- 1月1日から12月31日までの1年間に得た合計所得金額が48万円以下
- 配偶者が納税者と生計を一にしていること
- 青色申告や白色申告をしている人の事業専従者でないこと
- 法律上の配偶者であること(内縁の妻や夫ではない)
配偶者控除の要件を満たすと、納税者本人の所得税の計算の基準となる所得額から一定額が「配偶者控除」として差し引かれる。配偶者が70歳未満なら最大で38万円、70歳以上なら48万円が控除額だ。この控除額は納税者の合計所得額によって次のように変動する。
[納税者の合計所得金額……控除額(配偶者が70歳未満)/(配偶者が70歳以上)]
- 900万円以下…………………38万円/48万円
- 900万円超950万円以下……26万円/32万円
- 950万円超1000万円以下……13万円/16万円
以前のように「配偶者控除の金額は一律38万円」とはならないので注意しておきたい。
【参考】配偶者控除(国税庁)
●配偶者特別控除とは
配偶者特別控除とは妻や夫の年間合計所得金額が48万円を超えても適用を受けられる所得控除のことだ。この所得控除を受けるには、配偶者控除の2.と3.の要件のほか、給与支払時や年末調整・確定申告で配偶者自身が配偶者特別控除の適用を受けていないことが求められる。
要は夫婦両方が同時に配偶者特別控除を受けることはできない。一方が控除対象外、他方が控除対象となるケース以外は認められない。
2020年分以降、配偶者特別控除額は納税者本人および配偶者それぞれの合計所得金額によって、次のように決まる。
▽納税者側の合計所得額(緑)に対する、配偶者の収入と配偶者特別控除額
▽配偶者の合計所得額 | 900万円以下の場合 | 900万円超950万円以下の場合 | 950万円超1000万円以下 | ||||
48万円超95万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 | ||||
95万円超100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 | ||||
100万円超105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 | ||||
105万円超110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 | ||||
110万円超115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 | ||||
115万円超120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 | ||||
120万円超125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 | ||||
125万円超130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 | ||||
130万円超133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
2018年分から配偶者特別控除の適用額の決まり方が複雑になった。2020年分以降のものと2018年・2019年分のものは一見似ているが、控除金額が異なるので年末調整や確定申告の際はきちんと確認しよう。
配偶者特別控除は配偶者控除と異なり、年齢による控除額の増減は生じない点も留意しておきたい。
【参考】配偶者特別控除(国税庁)
2020年から「〇万円の壁」はどうなる?
以上が2020年分以降の配偶者控除・配偶者特別控除のそれぞれの制度の内容だ。税制改正により変更が生じたわけだが、世間でよく言う「〇万円の壁」に影響はあったのだろうか。
●103万円・150万円・201万円の壁とは
ここで「〇万円の壁」について確認しておこう。具体的には「103万円の壁」「150万円の壁」「201万円の壁」がある。それぞれの内容は次のようになっている。
1.103万円の壁……納税者本人が配偶者控除を受けるための配偶者の給与年収の上限ラインだ。妻や夫のアルバイト・パートの年収が103万円以下であれば、一家の稼ぎ手である納税者本人は年末調整や確定申告で配偶者控除を受けられる。なお、アルバイト・パートが103万円以下であれば、配偶者自身の納税額は0円となる。
2.150万円の壁……納税者本人が配偶者特別控除を38万円満額受けるための配偶者の給与年収の上限ラインだ。ただ、先ほど見たように、納税者本人の合計所得金額によってはもっと少ない金額が控除額となる。
妻や夫のアルバイト・パートの年収が150万円以下であっても、106万円を超えると勤務先での社会保険の加入義務が生じ、130万円を超えると納税者本人の社会保険の扶養対象から外れてしまう。
3.201万円の壁……納税者本人が配偶者特別控除を受けるための配偶者の給与年収の上限ラインである。
繰り返しになるが、この2つの所得控除を受けるには納税者自身の合計所得金額が1000万円以下でなくてはいけない。納税者がサラリーマンであれば給与年収はだいたい1200万円前後が控除の目安となる。
●それぞれの壁は変わらない
2020年分から配偶者控除・配偶者特別控除の制度に変更が生じたが、103万円、150万円、201万円それぞれの壁には影響がない。控除を受けるための条件になる所得額上限が引きあがった一方、給与所得控除額は下がったからだ。
例えば103万円の壁は以前、「配偶者自身の合計所得金額38万円+給与所得控除額65万円=103万円」で計算していた。2020年の条件変更によりこの38万円という枠は48万円になったが、その一方、給与所得控除の最低ラインは65万円から55万円に下がったのだ。結果「48万円+55万円=103万円」で、壁となる数字に変更はない。
これと同じ現象は150万円の壁・201万円の壁にも生じている。そのため、この2つの控除を考えるときの配偶者の年収の目安は以前と同じだ。
●恩恵を受けるのは自宅起業の妻がいるサラリーマン
「壁が変わらないなら制度変更の意味がないのでは?」と思う人もいるかもしれないが、実際には恩恵を受ける夫婦もいる。それは、妻がハンドメイドやピアノ、アートなどの教室など、扶養される側の配偶者が自宅で開業して稼いでいるケースだ。
自宅開業で得た収入は給与所得ではなく「事業所得」か「雑所得」に該当する。この所得額の計算は「総収入金額-必要経費」で行う。所得とはいわば最終利益だ。
簡単に言うと、自宅開業で稼いでいる妻で配偶者控除を受ける目安が、以前は最終利益38万円だったのが2020年分から48万円になったということである。なお、これと似たような現象は配偶者特別控除にも起きている。独立して稼ぐ妻のお財布がちょっと重くなっても夫の配偶者控除への影響は薄いのだ。
これは株の売買(譲渡所得か事業所得か雑所得)や賃貸業(不動産所得)で稼いでいる配偶者を扶養にしているケースにも当てはまる。気になる人は配偶者の所得の所得区分を確認し、それぞれ所得額を計算してみるとよい。
2020年以降の配偶者控除・配偶者特別控除の注意点
2020年分以降の配偶者控除・配偶者特別控除の制度について見てきた。2018年分から複雑になったが、今回より分かりにくくなっている。特に次の3つには注意しておきたい。
●配偶者控除額そのものは変わらない
いろいろな数字が出てきて混乱しやすいが、配偶者控除・配偶者特別控除そのものの上限額は変わらず「38万円」だ。一番大きな変更点は「自分の配偶者の所得がいくらだったら配偶者控除(または配偶者特別控除)は受けられるのか」という点であることを覚えておこう。
●納税者の合計所得金額で控除額が変わる
2018年・2019年は納税者の合計所得金額で控除額が変わるのは配偶者特別控除だけだった。2020年分以降は配偶者控除の額も変動する点に注意しよう。
●必ず所定の用紙で計算しよう
配偶者控除・配偶者特別控除の控除額が以前ほどシンプルな仕組みではなくなった。丁寧に一つ一つたどるように計算しないとミスが生じるだろう。年末調整で完結するなら「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に配偶者の年間の合計所得額を書けばよいだけだが、確定申告ならば自分で計算しなくてはならない。税務署が配布している確定申告のパンフレットに計算欄があるのでそちらで計算するようにしよう。
配偶者控除、配偶者特別控除を受けるための手続き方法
最後に配偶者控除・配偶者特別控除を受けるための手続きを確認する。
年末調整でこういった制度を受けるなら、既述の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に配偶者の氏名、生年月日、マイナンバーのほか、年初から年末までに得た配偶者の所得額の合計を記入する。
【参考】[手続名]給与所得者の扶養控除等の(異動)申告(国税庁)
確定申告なら、確定申告時期の間際になると、確定申告書とともに計算や記入方法に関するパンフレットが税務署から配布される。こちらのパンフレットの中に計算欄が設けられるのでこちらで必ず計算しよう。
【参考】確定申告書B(国税庁):PDF
なお、多くの人が間違えやすいが、所得額はもらった給料や売り上げそのものではない。給与所得なら「給与年収-給与所得控除」、事業所得や雑所得などなら「総収入金額-年間の必要経費の合計額」になる。ただ、所得計算は所得区分ごとに異なる。自分の配偶者の稼ぎの所得区分と計算方法を確認し、控除漏れがないようきちんと確認しよう。
2020年分以降、年末調整・確定申告ともに必要書類が変更される。今年の11月~12月頃、国税庁から新たな様式やパンフレットなどの情報が出るはずなので意識しておこう。
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配偶者特別控除と配偶者控除にまつわるQ&A
配偶者特別控除とは?
配偶者特別控除とは妻や夫の年間合計所得金額が48万円を超えても適用を受けられる所得控除のこと。条件としては、以下を満たしている必要がある。
- 1月1日から12月31日までの1年間に得た合計所得金額が48万円以下
- 配偶者が納税者と生計を一にしていること
- 青色申告や白色申告をしている人の事業専従者でないこと
- 法律上の配偶者であること(内縁の妻や夫ではない)
配偶者控除とは?
配偶者控除とは、納税者の妻や夫の年間所得が少ないときに納税者側が受けられる所得控除のこと。
2020年以降の配偶者控除・配偶者特別控除の注意点は?
注意点は以下の3つ
- 納税者の合計所得金額で控除額が変わる
- 必ず所定の用紙で計算
- 配偶者控除額そのものは変わらない
公開日:2018年3月27日
更新日:2022年2月17日
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