すべての資産家に共通しているのは、たとえ小銭であっても、ムダなものには一切お金を払わないということだろう。国や地方自治体に納めるお金にしても、脱税はしないが、合法的な税金対策は徹底しているはずだ。そして、資産家たちが最も有効な税金対策の手段として活用しているのが資産管理会社である。所有している資産の名義を個人から法人へと変更するだけで、負担すべき税額が驚くほど違ってくるのだ。

このシリーズの第2回でも触れたように、法人は個人よりも経費を計上しやすいのがその理由の一つである。しかも、所有している資産の規模が大きければ大きいほど、享受できるそのメリットは計り知れないものとなる。

「まだ資産が数億円にすぎない人であっても、資産管理会社を通じて税務処理を行うのがベターでしょう。たとえ非課税枠が少額にすぎないとはいえ、株式投資でいえば、利益を丸取りできるNISA(少額投資非課税制度)を利用しない手はないのと似たような意味合いです」

こう語るのは、第1回から登場している佐山哲哉氏(仮名)だ。彼は元外資系銀行員で富裕層向けのストラクチャーを手掛けていた人物。現在はいくつもの事業を営む資産家となっている。

ここまでの話を整理すると、資産管理会社はNISAのように税制上のメリットを必ずもたらすということだ。さらに、資産額が限られているうちは小さな恩恵にすぎないが、その規模が大きくなれば節税額も軽視できないものとなっていくわけである。

目次

  1. 法人に与えられた「経費の特典」は不動産の売買で特に威力を発揮
  2. 所得税と法人税の違いのみならず、消費税でも法人のほうが有利
  3. クラシックカーは個人で買うべきか、それとも法人で買うべきか?
  4. 損失を出した場合にも得を取るために資産管理会社を活用する

法人に与えられた「経費の特典」は不動産の売買で特に威力を発揮

資産管理会社特集
(画像=ZUU Online)

第1回から繰り返し述べてきたことだが、個人ではなく資産管理会社に入ってきた収益として扱えば、所得税ではなく法人税の課税対象となる。年収5000万円(課税所得ベースで4000万円)以上の所得税と住民税の合計税率が55%であるのに対し、法人税は35%にすぎず、すでにこの時点で20%の差が生じる。

しかも、収益と損金が通算できるうえ、計上できる経費も対象は個人と比べてはるかに幅広い。経費において個人所有のケースと特に大きな違いが出てくるのが不動産だ。資産家には今さら「釈迦に説法」かもしれないが、個人が不動産を転売すると、その代金から取得費用と売却にかかった経費を差し引いた売却益(譲渡所得)に対して所得税と住民税が課される。ただし、その所有期間によって、適用される税率は大きく異なる。

まず、所有期間が5年を超えている場合は「長期譲渡所得」とみなされ、15.315%の所得税と5%の住民税(合計で20.315%)が課される。これに対し、5年以内だった場合は「短期譲渡所得」として扱われ、所得税が30.63%、住民税が9%(合計で39.63%)に跳ね上がってしまう。

こうしたことから、おのずと個人所有のケースでは「5年以内の転売は禁物」との不問律が成り立ってしまう。だが、法人所有では実効税率35%の法人税が課され、5年以内の売却ではこちらのほうが有利になってくる。

さらに、主に富裕層を顧客としてアドバイスを行っている公認会計士事務所のA氏は指摘する。

「残念ながら個人の所有では、不動産の売却にかかった直接的な経費しか差し引けません。ところが、法人の所有であれば直接的な経費はもちろん、商談の場として用いた飲食店での接待交際費など、もっと広範な経費を差し引くことが可能です」

所得税と法人税の違いのみならず、消費税でも法人のほうが有利

所得税よりも20%も低い法人税を適用させたうえで、さらに計上可能な経費をとことん差し引くわけだから、資産管理会社をつくることでかなりの税金対策を行えることは容易に想像できるだろう。もっとも、ここで勘違いしてはならないこともある。

佐山氏はいわゆる“成り上がり”によく見られる行為に関して、次のように苦言を呈する。

「税金として払うぐらいなら、経費として使ってしまおうという発想を抱く人がいますが、私にはまったく理解できません。大袈裟に言えば、100億円の収入を得ても50億円を税金で取られるなら、稼ぎのうちの50億円を経費として使って25億円に納税額を納めようとする行為です。これでは、さらに財を築いていくことは無理でしょう。本当の資産家となりたいなら、キャッシュフローを着実に蓄積させていくことが大前提となってきます」

冒頭でも触れたように、財を成す人はわざわざムダな支出を増やすようなことはしないのだ。あくまで、必要な支出を経費の枠に当てはめているにすぎない。

たとえば自動車にしても、資産家の多くは個人のマイカーとしてではなく、資産管理会社が所有する商用車として購入している。そうすれば、自動車の取得費用を減価償却できるだけでなく、コンスタントにかかってくる費用も経費にできる。

「商用車であってもプライベートで利用する機会も想定されるので、ガソリン代は認められない恐れがあるものの、法人所有なら自動車に関わる税金や駐車場代などの維持費も経費に計上できます」(A氏)

しかも、実は購入時にかかってくる消費税においても、個人と法人では大きな違いが生まれる。今秋には10%への引き上げが予定されているだけに軽視できないことで、A氏はこう説明する。

「仮に10%への引き上げ後に1000万円の自動車を購入したとすると、個人なら消費税がかかるので1100万円を支払うことになります。ところが、法人による購入なら消費税分の100万円が還付されるケースも出てくるのです。なぜなら、事業のために必要とする自動車の購入であれば、消費税を負担しなくてすむからです。その自動車は事業に用いられているので、消費税の最終負担者にならないというのが税制上の解釈です」

ただし、その自動車を資産管理会社のオーナーや役員がもっぱら趣味に用いているのが実情であれば例外となる。その一方で、税務当局に対してそれなりに説明できる状況証拠さえ用意しておけば、不動産を法人名義で購入し、消費税の負担を免れることも可能だ。

A氏と事務所をともにするパートナー会計士のB氏は語る。

「セカンドハウスにしても、個人所有なら購入時に建築費の10%に相当する消費税を負担することになりますが、資産管理会社の名義にすれば消費税が控除されます」

クラシックカーは個人で買うべきか、それとも法人で買うべきか?

自動車の話に戻り、転売する局面のことを念頭に置いてみたい。どんな高級車であって、中古になれば必ず新車価格よりも値下がりしていくのが宿命だが、唯一の例外として挙げられるのがクラシックカーである。

「担当しているお客様がクラシックカーの購入を検討している際に迷っていたので、私は法人の名義にすることを進言しました。なぜなら、売却する際に予期せぬ高額の税金が発生することを回避すべきだと思ったからです」(B氏)

仮に5000万円で買ったクラシックカーを10年経ってから転売しようとしたら、1億円の値段がついたとする。個人で所有していた場合、譲渡所得は単純に「取得価格×減価償却」という式で算出され、10年後に簿価がゼロになっているので、1億円がすべて儲けだとみなされてしまうのだ。

「ところが、法人の所有なら投資目的で購入したという名目で、減価償却をしないという選択も可能です。そうすると、売値の1億円から買値の5000万円を差し引いた5000万円が譲渡益となります」(B氏)

クラシックカーでも古美術品に該当すれば個人でも減価償却を避けられるが、そのハードルがかなり高いという。2015年1月1日以降に取得し、その価格が1点100万円以上の美術品などは原則として「非減価償却資産」とされるが、「時の経過によりその価値が減少することが明らかなもの」は「減価償却資産」とみなすというのが税制上の解釈である。

国税庁は具体例として、①会館のロビーや葬祭場のホールのような不特定多数の者が利用する場所の装飾・展示用に取得したもの(有料公開するものを除く)、②移設が困難で当該用途にのみ使用されることが明らかなもの、③他の用途に転用すると美術品などとしての市場価値が見込まれないもの−−を挙げている。

もちろん、転売時よりも目の前の節税にフォーカスを当てて、あえて減価償却してしまうことを選択する資産家もいる。「通常の自動車が5年であるのに対し、クラシックカーなら2年で一気に償却できる」(B氏)からだ。

損失を出した場合にも得を取るために資産管理会社を活用する

「損して得取れ」とのことわざもあるが、運用に取り組む際に資産家は見込み違いだったケースも想定したうえで、資産管理会社を通じて投資を行っているようだ。

「株式の売却益(譲渡益)を得た場合、個人の口座を通じたものなら20%の税率が適用されますが、資産管理会社を通じたものなら法人税(実効税率35%)が課されます。利益が出たケースだけに目を向ければ、明らかに個人のほうが有利です。しかしながら、損失を被ったケースでは事情が異なってきます。個人の場合に認められている損益通算は、上場株式同士に限られたもので、当然ながら給与などといった他の所得も対象外となります。その点、法人なら株式はもちろん、他の投資や事業で得た収益とも損益通算を行うことが可能です」(A氏)

あるいは、個人の口座で所有している“塩漬け株”の処分に法人の口座を用いるというのも一考だろう。買値まで株価が回復しそうにないと見切った銘柄を法人の口座に移管したうえで売却すれば、確定した損失を他の所得からも差し引けるようになる。

損失を被るケースを念頭に置くことは、不動産においても同様だと言えよう。個人が不動産で値上がり益(譲渡益)を得た場合は別のところで前述したように、5年以内に売ったパターンを除けば、法人所有の場合よりも適用される税率が低くなる。

だが、現実的に不動産を買値よりも高く売るのは容易ではなく、損失を被ることも少なくない。個人が不動産の売却で損失が出しても給与などの他の所得から差し引くことはできないが、法人なら先にも述べたように幅広く損益通算が可能であるうえ、その年だけで処理しきれない規模の損失なら、最長10年間にわたって繰り越せる。

このように、グッドシナリオだけではなくバッドシナリオも念頭に置けば、おのずと資産管理会社を通じた投資のほうが融通も利くし、有利に働くことが多いと言えるのだ。

さて、第3回までは資産管理会社のさまざまなメリットや資産家たちの活用の実態について見てきたが、次回はあえてデメリットや注意点にも触れることにする。世の中にいいこと尽くしのものは存在せず、そんな話が舞い込んできたら、それは詐欺だと断じて間違いない。

重要なのは、メリットだけに囚われずに留意すべきポイントにも目を向け、そのうえで適切な活用を図ることだ。無論、そういった割引材料を踏まえてもメリットのほうがはるかに魅力的だからこそ、富裕層の多くが資産管理会社を活用しているわけである。

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