「資産管理会社を設立したほうが何かと有利ですよ」――。一代で財を成した人は、資産が目覚ましく増えていく最中で顧問税理士などからこう囁かれたことがあるはずだ。一方で、代々の資産家にとっては「今さら?」と受け止められる言葉かもしれない。
外資系金融機関で富裕層向けに税務対策商品を提案し、独立して数々の事業を営み、現在は自分自身が顧客としてプライベートバンクを利用している佐山哲哉氏(仮名)は指摘する。
「提案される側のみならず、税理士も含めて提案する側にも、本当に何をどうするのが最善であるのかを網羅的に把握している人が乏しいというのが日本の実情です。単に、『複数の賃貸不動産を運用しているなら、法人を設立してその所有にしたほうが有利ですよ』といった薄っぺらな提案にとどまりがちです。その法人を活用すれば、さらにさまざまなメリットが得られるにもかかわらず、そこまで言及されるケースは乏しい」
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ネット全盛の世でも、本当に有益な情報を得ているのは一握り
資産管理会社とは、不動産や株式などといった所有資産を管理するために設立する法人だ。事業を通じて利潤を追求するのではなく、オーナーの資産をより有利に運用・管理することが狙いであり、いわゆる「プライベートカンパニー」である。
「資産管理会社」というキーワードでインターネット検索を行えば、膨大な情報がヒットするはずだ。だが、その大半は真の資産家向けに提供されているものではないと表現しても過言ではなさそうだ。たとえば、資産管理会社の定款をどのようにすべきかに関して、よく見受けられるのが次のような主旨のものだ。
「新たな物件を取得するための融資を受けることを念頭に置けば、有価証券への投資などといった不動産関連以外の事業目的を記載すると、損失を被って返済が滞るリスクがあると銀行が判断する恐れがあります」
確かに、一般的な給与所得者が副業として不動産経営に手を染めるケースであれば、至って真っ当なアドバイスであると言えよう。しかしながら、すでに相応の資産を形成している人が融資の審査を心配するはずがない。佐山氏はさらにこう喝破する。
「先にも述べたように、資産家の資産保全や運用・管理に関して広範な知識を持ち合わせている専門家は数少ないのが日本の実情。しかも、そういった真のプロフェッショナルであっても、気前よく誰にでも伝授するはずがありません。外資系銀行時代の私にしても、特定の人にしか提案しなかった事案がたくさんあります。ネット全盛の今は学歴や所得などに関係なく、誰もがありとあらゆる情報にアクセスできると思われがちですが、現実には完全に線引きされています。ごく一部の限られた富裕層だけが万全の提案を得られ、本当の意味で資産管理会社を有効活用しているのです」