家族の一大イベントである出産にはかなり費用がかかる。国からの出産育児一時金だけではマイナス分は取り戻せないだろう。今回は、出産にかかった費用を医療費控除として確定申告することで税金を還付してもらい、出産費用を実質的に節約する方法を紹介する。

高村 浩子
高村 浩子
国家資格キャリアコンサルタント/ファイナンシャルプランナー(日本FP協会認定AFP)
生損保、証券、銀行などの金融機関勤務を経て独立。敬遠されがちなお金の話を広い世代に向けて発信しています。マネープラン、キャリアプラン、ソーシャルプランを融合したライフデザインで100年時代を自分らしく生きる!を提唱中

目次

  1. 出産した年は確定申告の可能性大
  2. 控除とは
  3. 医療費控除とは
    1. 出産時に医療費控除の対象になるもの、ならないもの
    2. 医療費控除対象になるもの
    3. 医療費控除対象にならないもの
  4. 医療費控除のメリット
    1. メリット1 還付金を受け取れる
    2. メリット2 次年度の税金が安くなる
    3. メリット3 保育費が安くなる可能性がある
  5. 医療費控除額の計算方法
    1. 医療費控除額の計算例
    2. Aさんの場合(出産にかかった費用:60万円/出産育児一時金:42万円)
    3. Bさんの場合(出産費用:65万円/出産育児一時金:42万円/高額療養費:10万円/医療保険金:5万円)
  6. 還付金はいくら返ってくるのか
    1. 還付金の計算方法
    2. Cさんの場合(課税所得金額:400万円/医療費控除額:10万円)
    3. Dさんの場合(課税所得金額:2000万円/医療費控除額:10万円)
  7. 確定申告から還付金を受け取るまでの流れ
    1. 還付金はいつ振り込まれるか
  8. 医療費控除を受けるために準備するもの
    1. 確定申告書
    2. 医療費の明細書
    3. 医療費の領収書
    4. 医療費通知書
    5. 勤務先で年末調整後にもらう源泉徴収票
  9. 知っておくと得する豆知識
    1. 医療費控除は過去5年までさかのぼって申告が可能
    2. 還付金を早く受け取りたい場合
    3. 共働きの場合は所得の高いほうが申告するとお得
    4. 出産する年は家族の治療も済ませる
    5. 忙しい人はe-Taxがおすすめ
  10. 出産で医療費控除する際の注意点
    1. 領収書と医療費通知書はしっかり保管
    2. 保険金や補てん金を差し引くことを忘れずに
    3. 「セルフメディケーション制度」との併用は不可

出産した年は確定申告の可能性大

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(画像=Creativa Images / Shutterstock.com)

自営業者にとっては当たり前の「確定申告」だが、給与所得者は苦手意識があるかもしれない。しかし年末調整では控除されない「医療費控除」に関しては必要な制度だ。

そのため、「出産をする年は確定申告をして還付を受けるもの」と認識を切り替えてしまおう。

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控除とは

税金は所得に対して課されるものだが、受け取った給与がすべて所得として計算されるものではない。基礎控除や生命保険料控除、一定額を超えた医療費を対象とする医療費控除など、個々の実情にあった支出を「控除」という形で収入から差し引くことができるのである。

こうして収入から各種控除を差し引いて残った金額が「所得」となる。給与所得者が毎月の給与から差し引かれている税金には、主に住民税と所得税がある。このうち、住民税は前年の所得額を元に計算される。

一方の所得税は、源泉徴収という形でみなし納税をしており、年末調整で個々の事情をふまえて再計算される。その際に払い過ぎていた税金は還付され、足りない分は徴収される仕組みになっている。

年末調整の際に控除される項目の中に「医療費控除」が含まれていないため、個人での確定申告が必要となるのだ。

つまり控除できる金額が大きければ大きいほど所得を低く抑えることができるのである。

これらを知ったうえで医療費控除について見ていこう。

医療費控除とは

1年間で医療機関に支払った費用が一定額を超えた場合、最大200万円までの控除が適用されるのが医療費控除だ。出産も医療費控除の対象であり、費用も高額になるため医療費控除の条件をクリアしやすいのが特徴だ。

【対象金額】 1月1日から12月31日までに実際に支払った医療費
【申告期間】 原則として毎年2月16日から3月15日の1ヵ月間
【医療費控除を受けるための条件】 1月1日から12月31日までに(実際に支払った医療費―保険金などで補てんされた金額)が年間10万円を超えた場合(※所得200万円未満の人は所得の5%を超えた場合)

なお、医療費控除は生計を同一にする配偶者や親族も対象となるため、子どもが小児科や歯医者で治療を受けた場合はその費用も一緒に計上できる。

出産時に医療費控除の対象になるもの、ならないもの

出産に関係する費用は意外に多い。通常分娩の場合、出産時のほかにも妊娠中の定期健診、出産後の入院などはすべて自己負担となる。各自治体が発行している補助券で一部の費用は賄うことはできるが、それを差し引いても総額で医療費控除条件の10万円を超える可能性は高い。ここでは出産時に医療費控除の対象となる一部を紹介する。

医療費控除対象になるもの

・妊婦健診(補助券を利用した場合は実費支払額)
・分娩費、入院費
・通院時の公共交通機関(バス、電車など)の運賃
・出産時のタクシー代(バスや電車を利用することが困難な場合)
・入院時に病院が用意した食事代

医療費控除対象にならないもの

・自家用車を利用して通院した場合のガソリン代、駐車場利用料、有料道路利用料
・医師や看護師に対する謝礼
・入院時に自己都合で個室を選んだ場合の差額ベッド代
・入院の際に自費で購入した寝間着代、洗面用品代
・里帰り出産などで帰省するための交通費

なおバスや電車の交通費については領収書を受け取れないこともあるが、家計簿などに記載して説明できるようにしておけば問題ない。

◇医療費控除対象か迷ったら
通院していると「これは医療費控除の対象か?」と迷うことがあるだろう。そういうときはその費用が「治療に必要な費用なのか」を考えるとよい。自分で判断できない場合もあるが、そういう場合は病院や薬局の窓口、国税庁の「税についての相談窓口」に相談するとよいだろう。

医療費控除のメリット

医療費控除を受けるメリットは「金銭面でお得になる」ことに尽きる。細かいメリットを見ていこう。

メリット1 還付金を受け取れる

医療費控除を受けると、支払った税金の一部が「還付金」として返ってくる。全額ではなく、返ってくるのは一部なので、勘違いしないようにしておこう。

メリット2 次年度の税金が安くなる

先に説明したように、控除をすれば所得が下がるので次年度の住民税などの税金が安くなる。毎月支払う税金が下がるというのは思っている以上に効果が大きい。

メリット3 保育費が安くなる可能性がある

前年度の所得が一定額より低い場合、保育費が軽減される制度がある。条件は各地方自治体で異なるため、住んでいる市区町村のホームページで確認してみるとよいだろう。

医療費控除額の計算方法

実際にいくらが医療費として控除できるのか計算したいときは、以下の式に当てはめることで計算できる。

医療費控除額=(その年に支払った医療費-保険金などで補てんされた金額)-(10万円※) ※所得200万円未満の人は所得×5%

注意したいのは、医療費が10万円を超えたからといって、医療費控除を受けられるわけではないという点だ。実際には医療機関で支払った金額から、健康保険から支給される高額療養費や出産育児一時金、加入している医療保険の保険金などの補てんされた金額を差し引いた額が10万円を超えていなくてはいけない。

医療費控除額の計算例

ここでは具体的な例を挙げて医療費控除額を計算する。金額はあくまで例なので参考として見ていただきたい。

どちらの例も所得金額は200万円を超えているものとする。

Aさんの場合(出産にかかった費用:60万円/出産育児一時金:42万円)

Aさんは自然分娩で出産し、60万円かかったが、出産育児一時金が42万円出たので実質負担した費用は18万円だった。これを式に当てはめると以下のようになる。

60万円-42万円-10万円=8万円

このように8万円が医療控除額の対象となる。

Bさんの場合(出産費用:65万円/出産育児一時金:42万円/高額療養費:10万円/医療保険金:5万円)

Bさんは帝王切開で出産し、65万円かかった。帝王切開は健康保険利用となり高額療養費の対象のため10万円、医療保険にも加入していたので保険金が降りて5万円が支給された。これを式に当てはめると以下のようになる。

60万円-(42万円+10万円+5万円)-10万円=-7万円

BさんのほうがAさんよりも出産費用が高かったにもかかわらず、補てん金が支給されたため医療費控除額はマイナスとなり、医療費控除の対象外になってしまったことが分かる。

このように、医療費の金額だけでなく、保険などから補てん金が支給されているかをしっかり把握しておくことがポイントとなる。

還付金はいくら返ってくるのか

どのくらいの還付金がもらえるのかは誰もが気になるところだろう。ここでは還付金の計算方法と実際の計算例をご紹介する。

還付金の計算方法

還付金の計算方法は以下のとおり。

(還付金額)=(医療費控除額)×(所得税率)

そもそも還付金というのは、払い過ぎた所得税を戻す制度だ。還付金がいくらかを知るためには自分の所得税額を把握する必要がある。所得税は課税所得の多さに比例して税率が高くなる累進課税なので、自分の所得税率を知るには以下の表を利用する。

課税される所得金額/税率
195万円以下/5%
195万円超330万円以下/10%
330万円超695万円以下/20%
695万円超900万円以下/23%
900万円超1800万円以下/33%
1800万円超4,000万円以下/40%
4000万円超/45%

【参照】 国税庁「所得税の税率」

では実際に医療費控除を計算してみよう。

Cさんの場合(課税所得金額:400万円/医療費控除額:10万円)

Cさんの課税所得額は400万円なので、所得税率は20%となる。この場合、還付金の目安は

10万円×20%=2万円となる。

Dさんの場合(課税所得金額:2000万円/医療費控除額:10万円)

Dさんの課税所得額は2000万円なので、所得税率も40%と高い。この場合、還付金の目安は

10万円×40%=4万円である。

このように、同じ医療費控除額でも所得によって還付金額は異なる。今回のケースで言えば、DさんはCさんよりも所得税の税率が高いため、戻ってくる金額も多いことが分かるだろう。

確定申告から還付金を受け取るまでの流れ

全体の流れを把握しておけば、次に何をするべきか分かるようになる。ここでは確定申告から還付金を受け取るまでの流れを紹介する。

1.1月1日から12月31日までの領収書を集める
2.医療費を合算して医療費控除の対象になるか試算する
3.確定申告の書類を準備、必要事項を記入する
4.税務署に確定申告書を提出する
5.申告者名義の銀行口座にお金が振り込まれる

還付金はいつ振り込まれるか

税務署の手続きのスピードにもよるが、目安としては書面での提出で1ヵ月から1ヵ月半、e-Taxによる電子申告では2~3週間で処理が完了する。還付金額が決定すると税務署から「国税還付金振込通知書」が届くのでそこに金額が記載されている。

医療費控除を受けるために準備するもの

医療費控除の仕組みがだいたい理解できたら、ここからはどのように確定申告で医療費控除を受けるのかを理解していこう。確定申告に用意するものは「確定申告書」「明細書」「領収書」および「医療費通知書」「源泉徴収票」、この4つだけだ。

確定申告書

確定申告書は最寄りの税務署または国税局のホームページからダウンロードできる。なお、確定申告書にはA様式とB様式があるが、会社員やパート・アルバイトなどの給与所得者はA様式を利用する。

医療費の明細書

明細書と聞くと堅苦しいイメージを受けるかもしれないが、要はかかった医療費のリストのことだ。手書きでも、エクセルで作成してプリントアウトしたものでもよい。何を書けばよいか分からないという場合、国税庁のホームページからテンプレートをダウンロードできる

【参照】 国税庁「医療費控除の明細書」

医療費の領収書

いちばん大切なのが領収書の管理だ。現在は領収書の提出は不要だが、自宅で5年間の保管が義務付けられているのでしっかりファイリングして保管しておくようにしよう。領収書は医療費を支払ったという「証拠」である。税務署から提出を求められたときにすぐに出して説明できないと脱税行為になってしまうので慎重に扱おう。

医療費通知書

医療費通知書とは健康保険組合などから送られてくる「医療費のお知らせ」のことだ。年に数回利用実績として送られてくるが注意して見ているだろうか。

実は、「医療費のお知らせ」を利用することで明細書の記入が簡素化できたり、領収書の保管がいらなくなったりするのである。

記載内容として以下の項目が入っていることが条件となるので確認しておこう。

1.被保険者の氏名
2.療養を受けた年月
3.療養を受けた者
4.療養を受けた機関等の名称
5.支払った医療費の額
6.保険者等の名称

勤務先で年末調整後にもらう源泉徴収票

年末調整後に会社から渡される源泉徴収票も必要だ。これがないと再発行してもらうことになってしまうので、受け取ったらしっかり保管しておこう。

必要な書類は事前に把握して、準備を進めることが早期還付の肝である。

知っておくと得する豆知識

医療費控除をよりうまく利用するための豆知識を紹介しよう。

医療費控除は過去5年までさかのぼって申告が可能

医療費控除の申告を忘れてしまった、知らなかったという人もいるだろう。しかし、諦めるにはまだ早い。領収書さえ取ってあれば、医療費控除は過去5年分までさかのぼって申告することが可能だ。

還付金を早く受け取りたい場合

支払った税金が還付されると分かっていれば少しでも早く受け取りたいだろう。還付申告に関しては確定申告期間前でも受け付けが可能なのだ。繁忙期を避けることで受け取りをスムーズに進めることができる。

共働きの場合は所得の高いほうが申告するとお得

医療費控除は夫婦どちらが申告しても問題はない。もし共働きなのであれば、前段で紹介したとおり、所得の高いほうが医療費控除を受けるとお得だ。

出産する年は家族の治療も済ませる

医療費控除は生計を同一にする家族の医療費を申告するものだ。そのため、出産を控えた年は家族で必要な治療があればまとめて済ませてしまおう。家族の治療費もまとめて申告したほうがもらえる還付金も増える。

忙しい人はe-Taxがおすすめ

忙しくて税務署に行っている時間がないという人はe-Tax(国税電子申告・納税システム)を利用しよう。自宅から手軽に確定申告書類の提出ができるうえに還付までのスピードも早い。

今後、マイナポータルを活用した申告の簡素化が進んでいくことを考えれば、e-Taxによる確定申告は必須となるであろう。

出産で医療費控除する際の注意点

最後に医療費控除を受ける際の注意点を確認しておく。

領収書と医療費通知書はしっかり保管

領収書と医療費通知書が無ければ医療費控除で税金を取り戻すのは不可能なので、大切に保管しておこう。領収書には5年間の保管義務がある。確定申告が終わったからといって安心は禁物だ。

保険金や補てん金を差し引くことを忘れずに

医療費控除額の計算は、「支払った医療費―保険金などで補てんされた金額」がベースであることを忘れないようにしよう。

国税庁のホームページからダウンロードして利用する明細書には「補てんされる金額」欄があるので、心配であればこちらを利用するとよいだろう。

「セルフメディケーション制度」との併用は不可

医療費控除の特例として利用できるセルフメディケーション制度もあるが、この制度は医療費控除と併用ができない。出産した年はうっかりセルフメディケーション制度を使ってしまうことのないように注意が必要だ。

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