高収入を得るサラリーマンや個人事業主が2018年から配偶者控除の適用が受けられなくなる可能性があることをご存じだろうか。具体的には、納税者の年間給与収入が1,120万円を超えた場合には、段階的に配偶者控除額が減額されることになった。今後の資産計画などを左右するものなので、確認しておこう。

(本記事は、梅本正樹著書『最新 知らないと損をする配偶者控除「つまりいくらまで働ける?」がわかる本』=株式会社秀和システム、2018年4月1日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

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知らないと損をする配偶者控除 「つまりいくらまで働ける?」がわかる本
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

どんな人が配偶者控除の対象者になるの?

配偶者控除とは、あなたに所得税法上の「控除対象配偶者」がいる場合に、一定の金額の所得控除を受けることができる制度のことを言います。

ここでいうところの「控除対象配偶者」とは、その年の12月31日において次の5つの要件すべてを満たす配偶者をいいます。

控除対象配偶者になる5つの要件

(1)民法の規定による配偶者であること。
(2)本人(納税者)と生計を一にしていること。
(3)年間の合計所得金額が38万円以下であること。
(4)本人(納税者)の合計所得金額が1,000万円以下であること。
(5)青色申告者の事業専従者として、その年を通じて一度も給与の支払いをうけていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。

それぞれについて、簡単に説明していきます。

まず「(1)民法の規定による配偶者であること」とは、わかりやすく言えば普通の夫婦、すなわち婚姻関係にある夫や妻をいいます。ということは、内縁の妻など法律婚でない場合は該当しないことになります。

「(2)本人(納税者)と生計を一にしていること」とは、同じ家で共に生活している関係、要するに普通の夫婦関係を言います。別居しそれぞれの収入で生活しているような場合は、婚姻関係にある夫婦であっても生計を一にしているとは認められません。

「(3)年間の合計所得金額が38万円以下であること」とは、配偶者の給与所得や雑所得などの合計が、一年間で38万円以下であることをいいます。

「(4)本人(納税者)の合計所得金額が1,000万円以下であること」は、平成30年の改正で新たに加えられた条件です。給与収入の場合は1,220万円以下に限られます。要するに、本人側の所得にも上限が設定されてしまったのです。

「(5)青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払いをうけていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと」とは、本人(納税者)が個人事業を経営している場合に問題となります。つまり本人が個人事業を経営しており、妻に対し給与を支払っているような場合は、たとえ年間でわずか1万円だけの給与支払いであっても控除対象配偶者には該当しなくなってしまうのです。

これら5つの要件すべてに該当して初めて、控除対象配偶者として認められることになります。

このように見てみると、5つの要件すべてを満たすということは、かなりハードルが高いのでは……と少々怖気づいてしまいますね。

配偶者控除と切っても切れない「合計所得金額」

上記で「合計所得金額」という用語が出てきました。この用語は以後たびたび出てくる重要用語ですので、一度簡単に説明しておきたいと思います。

所得税の計算においては「総所得金額」「総所得金額等」「合計所得金額」「課税所得金額」などの専門用語が使用されます。どれにも「所得」という文言が入っているので、混乱しがちです。

ですが、これら全てを理解する必要はありません。

「給与所得」は給料や賞与を受け取ることによる所得、「事業所得」は個人事業により発生する所得、「雑所得」は年金の受け取りなどによる所得、「不動産所得」は貸アパートや貸駐車場等から発生する所得、などです。

これらの各種所得は、細分化すると十種類以上になります。それらの「各種所得」が合計されて、右側の「合計所得金額」が算出されることになるのです。

給与の合算額から差し引かれる「給与所得控除」

先に、「給与所得」は給料や賞与を受け取ることによる所得だとご説明しました。ただし単に給料や賞与をそのまま合算するだけではなく、その合算額から「給与所得控除額」を差し引いた金額が「給与所得」とされる仕組みになっています。

・給与所得の算出方法
給料及び賞与-給与所得控除=給与所得

例:【給料及び賞与が年間900万円の場合】
給与所得控除額:900万円×10%+120万円=210万円
給与所得:900万円ー210万円=690万円

例えば年間900万円の給与を受け取った方がいたとします。その場合は、年間210万円もの給与所得控除額を、受け取った給与から控除することが認められているのです。税額に換算すればおおよそ70万円もの軽減となります。

配偶者控除の金額は3段階に分けられる

長らく一般配偶者控除の金額は、固定の額「38万円」の一種類しかなく、単純明快でした。それが平成30年からは固定制ではなくなり変動制となったのです。

具体的には納税者本人の所得に応じて「38万円・26万円・13万円」と3段階に変動する性質の控除額に変化していました。

(1)控除額38万円… 合計所得金額が900万円以下。給与収入なら1,120万円以下。
(2)控除額26万円…合計所得金額が900万円超950万円以下。給与収入なら1,120万円超1,170万円以下。
(3)控除額13万円…合計所得金額が950万円超1,000万円以下。給与収入なら1,170万円超1,220万円以下。

配偶者が70歳以上だとちょっとお得になる

配偶者が70歳以上の場合は、控除額が次のようにちょっとずつ増えてお得になります。

(1)除額48万円(10万円アップ)…合計所得金額が900万円以下。給与収入なら1,120万円以下。
(2)控除額32万円(6万円アップ)…合計所得金額が900万円超950万円以下。給与収入なら1,120万円超1,170万円以下
(3)控除額16万円(3万円アップ)…合計所得金額が950万円超1,000万円以下。給与収入なら1,170万円超1,220万円以下。

「配偶者」の範囲も3種類に分けられる

ここまで配偶者控除について説明してきましたが、そもそも所得税法における「配偶者」とは一体どういう人を指すのでしょうか。

2018年の改正で、税法上の配偶者に関して、次のように3種類の定義が発生することになりました。

(1)控除対象配偶者…合計所得金額が1,000万円以下である本人と生計を一にする配偶者で合計所得金額が38万円以下である人。ただし青色事業専従者等を除く。
(2)源泉控除対象配偶者…合計所得金額が900万円以下である本人と生計を一にする配偶者で、合計所得金額が85万円以下である人。
(3)同一生計配偶者…居住者と生計を一にする配偶者で、合計所得金額が38万円以下である人。

給与所得者のみなさんであれば、年末になると勤務先から「給与所得者の扶養控除等申告書」(通称〔マル扶〕)を渡されると思います。この用紙に配偶者の氏名等の記入が許され、税金を引いてもらえるのは、「源泉控除対象配偶者」に該当するケースに限られます。

この枠内に収まることで、下記の「給与所得者の扶養控除等申告書」(通称〔マル扶〕)に配偶者の氏名や生年月日、マイナンバー等を記入することが許され、勤務先に提出することができるのです。

梅本正樹( うめもとまさき)
税理士・社会保険労務士・中小企業診断士・ファイナンシャルプランナー(日本FP協会AFP)。トータルで約30年間、上記資格の業務に従事。他にも宅地建物取引士(有資格者)等を保有。これらの資格を相乗的に活用し、関与先である法人及び個人の役員や社員の世帯可処分所得を増加させる研究に邁進。実務では延べ1万件を超える世帯の可処分所得の増加に貢献。著書に「シニアのなっとく家計学」(水曜社)など。