節税というと相続税や贈与税について考える人も多いが、まずは所得税や住民税などといった、より身近な税金に対して考えるべきではないだろうか。今回は、住民税の各種所得控除についてまとめたので、自身の住民税を計算するうえで参考にしてほしい。
住民税とは、その年の1月1日に住んでいる都道府県や市区町村に納める税金の一つだ。毎年1月1日から12月31日までに発生した所得に課税し、実際に計算した税金は翌年の6月から1年間納付することになる。
徴収方法は正社員や契約社員などの給料から会社が一定額を天引きして本人の代わりに納付する「特別徴収」と、税金を納めるべき本人が納税通知書をもって自ら納付する「普通徴収」の2つがある。
所得税と同様、原則としてその人の所得に対して課税される部分が大きいが、「住んでいる自治体に対する会費」という性質を持つことから、所得額に関係なく賦課徴収される部分もある。さらに、各自治体の公的サービスに直結する面が強いことから、課税額は所得税よりも大きくなりやすい。
住民税の種類
そもそも住民税には、次の5種類の課税額がある。
- 所得割額:(前年の)所得に応じて課せられる
- 均等割額:すべての住民に均等に課せられる
- 利子割額:利子所得に応じて課せられる
- 配当割額:特定配当等の額に応じて課せられる
- 株式等譲渡所得割額:上場株式等の譲渡による所得に応じて課せられる
一般的に住民税、あるいは個人住民税という場合、これらすべてを合わせたものを指すが、今回はこのうち「所得割」の所得控除について解説する。
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住民税の「控除」とは
控除とは、税金の計算の基準となるべき所得の合計額から、その人の事情を斟酌した一定額を差し引く仕組みをいう。
本来、同じ所得額なら同じ税額が課されるはずだ。しかし、実際には生きていくための負荷は人によって異なる。同じ800万円の所得額でも、20代独身で健康な人と、50代で専業主婦の妻と高校生と大学生の2人の子がいる人とでは後者のほうが税金を負担できる力は低い。さらに世の中には病気がちの人や障害を抱えている人などもいる。
個々人のこういった事情を考慮せず、所得額だけに着目して同じ税金を課すと、「税金の負担度合」という点で不公平になり、日本が本来理想とする国民の平等からかけ離れてしまう。このような点から、所得税だけでなく住民税でも控除が設けられているのだ。
控除には「所得控除」と「税額控除」の2つがあるが、ここでは種類や適用対象者が多い所得控除について解説する。
住民税の所得割に認められる所得控除
所得割は、前年の総所得金額から所得控除額を差し引いたものを課税所得とし、これを基準に税額を決定する。このとき所得控除として認められるものは以下のとおりだ。
基礎控除
本人を対象に、33万円を控除。
2021年度分以降は最大で43万円が控除されるが、合計所得金額によって控除額が変わり、2500万円超になると控除額は0円になる。
配偶者控除
生計を一にし、かつ年間の合計所得金額が38万円以下の配偶者(控除対象配偶者)がいる人は、最大で33万円を控除。その配偶者が70歳以上(老人控除対象配偶者)の場合は最大で38万円を控除。
ただし控除される本人の合計所得金額によって控除額が変わる。控除される本人の合計所得金額が1000万円を超えると、配偶者の年間の所得が0円でも配偶者控除はまったく受けられない。
2021年度分から、配偶者の合計所得金額要件は38万円以下から48万円以下に変わる。
配偶者特別控除
控除対象配偶者の所得が38万円を超え、123万円以下の場合、その所得に応じて最高33万円を控除。配偶者控除と同様、控除される本人の年間所得が1000万円以下であることが必要だ。
2021年度分から、配偶者の合計所得金額要件は「38万円超123万円以下」から「48万円超133万円以下」に変わる。
扶養控除
生計を一にし、かつ年間合計所得金額が38万円以下の親族等(扶養親族)がいる人は、33万円を控除。扶養親族が19歳以上23歳未満(特定扶養親族)の場合は、45万円を控除。扶養親族が70歳以上(老人扶養親族)の場合は、38万円を控除。老人扶養親族が直系尊属(父母や祖父母など)で同居している場合は、45万円を控除。
2021年度分から扶養親族の年間合計所得金額要件が38万円以下から48万円以下に変わる
障害者控除
本人または控除対象配偶者や扶養親族が障害者の場合は、26万円を控除。その人が特別障害者の場合は、30万円を控除。特別障害者と基本的に同居している場合は、53万円を控除。
寡婦(夫)控除
夫(妻)と死別した人、あるいは夫(妻)と離婚した人のうち、扶養親族がいる人は、26万円を控除。扶養親族が子ども、かつ合計所得金額が500万円以下の場合は、30万円を控除。
2021年度分から、未婚のひとり親についても、合計所得金額が500万円以下なら、男女ともに30万円が控除されることになった。
勤労学生控除
本人が勤労学生の場合は、26万円を控除(所得要件あり)。
雑損控除
住宅家財などについて、災害や盗難などによって損失を生じた場合は、次のうちいずれか多いほうの金額分を控除。
1.(災害損失の金額+災害関連支出の金額※)- 年間所得金額×10%
※保険金などの補填額を除く
- 災害関連支出の金額-5万円
医療費控除
本人が、自身の医療費や控除対象配偶者・扶養親族などの医療費を支払った場合に、次の金額を上限として控除。
(支払った医療費の額)-(※)=医療費控除額(最高限度額200万円)
(※)10万円か(年間総所得額×5%)のうち、いずれか低いほうの金額を代入
社会保険料控除
社会保険料として支払った全額を控除。
小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済掛金、確定拠出年金に係る企業型年金加入者掛金、個人型年金加入者掛金や心身障害者扶養共済掛金として支払った全額を控除。
生命保険料控除
一般の生命保険料のうち、2011年以前に加入したもの(旧契約)については最高3万5000円を控除。2012年以後加入したもの(新契約)については最高2万8000円を控除。
介護医療保険料のうち、新契約のものについては最高2万8000円を控除。個人年金保険料のうち、旧契約のものについては最高3万5000円、新契約については最高2万8000円をそれぞれ控除。
それぞれの控除の合計限度額は7万円とする。
地震保険料控除
地震保険料を支払った場合、最高限度額を2万5000円として保険料のうち2分の1の金額を控除。
申請が必要な所得控除
所得控除のうち、医療費控除や雑損控除の適用を受ける場合は別途申告が必要だ。元々確定申告義務のある人は問題ないが、特に年末調整で所得税を確定させている人などは、気をつけよう。
所得税における所得控除との違い
住民税の所得控除は、一部(医療費控除や雑損控除など)を除き所得税の控除額よりも低く設定されている。例えば住民税の基礎控除が33万円であるのに対し、所得税の基礎控除は38万円だ。
このように控除額に差があることで、所得税が非課税でも住民税は課税される、というケースが発生し得る。所得税の課税非課税にかかわらず、自分の住民税がいくらになるのか、一度試算しておくとよいだろう。
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