離職と同時に家族の「扶養」に入る場合、失業保険(失業給付)を受け取ることができるのだろうか。失業保険と扶養の関係、扶養に入るベストなタイミング、扶養に入る場合や外れる場合に必要な手続きについて解説する。

同一世帯内の家族によって生計が維持されている場合を「扶養されている状態(被扶養者)」という。注意したいのが、税制上の「扶養」と、健康保険や年金の「扶養」の管轄や条件の違いだ。

税制上の扶養

扶養控除は、納税者と生計を同じくしている親族などで、年間の合計所得金額が48万円以下(給与所得のみの場合は給与収入が103万円以下)の場合に対象となる。

被扶養者となると、生計を立てている納税者の課税所得から38万円が控除される。対象者が配偶者のときは、扶養控除ではなく配偶者控除が適用され、最大38万円が控除されることになる。

健康保険・年金の扶養

健康保険にも「被扶養者」というものがある。健康保険の被保険者と生計を同じくする配偶者や家族で、年収が130万円未満(被保険者と被扶養者が同居の場合は、被扶養者の年収が被保険者の2分の1未満)ならば被扶養者とされ、保険料を支払う必要はない。

厚生年金の被保険者の配偶者で年収が130万円未満の場合、国民年金保険料の支払いも免除されるが、国民年金保険料を支払っているとみなされ、金額と期間が加算される。

失業保険とは

失業時の生活を保障するために給付されるお金が、失業保険(失業給付=雇用保険の基本手当)だ。これは非課税となっており、所得税や住民税は課税されない。

失業保険を受給するには、雇用保険に加入している人の離職である必要がある。雇用保険の加入対象となるのは、労働者を雇用する事業所で65歳未満で雇用された人で、正社員や、31日以上雇用されており(あるいは雇用される見込みがあり)週20時間以上働くパートタイム従業員だ。

この条件を満たしていた人が、離職からさかのぼって2年以内に被保険者であった期間が通算12カ月以上あると、失業保険を受給することができる。会社の事情による離職ややむを得ないと判断される事情による離職の場合は、離職からさかのぼって1年以内に被保険者であった期間が通算6カ月以上あれば失業保険を受給できる。

失業保険と扶養の関係

失業保険の受給条件には「結婚などにより家事に専念し、すぐに就職することができないときは、失業保険を受け取ることができない」とされている。結婚を機に仕事を辞めて配偶者控除の対象になる場合は、結果的に失業保険を受け取ることもできないことになる。

また「定年などで退職して、しばらく休養しようと思っているとき」も、失業保険を受け取ることはできないとされている。したがって、離職して家族の扶養に入ろうと考えている場合も、必然的に失業保険を受け取ることができないことになる。

扶養に入りながら失業保険は貰えるのか

では逆に、扶養に入っている状態で失業保険をもらうことはできるのだろうか。結論から言うと「できる」。ただし、受け取る失業保険の額によっては、配偶者や家族の健康保険の扶養から外れることになる。なぜなら健康保険上、失業保険も収入の一つとして扱われるからだ。

扶養から外れるか否かの目安となる失業保険の額は以下のとおりだ。この条件に当てはまるなら失業保険をもらっても扶養から外れない。

● 被扶養者が60歳未満……基本手当日額が3612円未満
● 被扶養者が60歳以上……基本手当日額が5000円未満

もし扶養から外れるのであれば、一度健康保険の被扶養者から外す手続きを行い、失業期間中は国民健康保険に加入することになる。失業保険がもらえるのは通常90日から360日だ。失業保険の受給が終了したら、あらためて配偶者や親族の健康保険の被扶養者となる手続きを行うか、就職先の健康保険に自ら加入することになる。

なお、失業保険は非課税なので、受給しても確定申告はいらない。そのため、配偶者や親族は、年末調整や確定申告で配偶者控除や扶養控除を受けることができる。

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扶養に入るべきタイミング

では、どのタイミングで家族の扶養に入ることがベストと言えるだろうか。

失業保険の受給期間が終わってからがベスト

失業保険を受給するためには、家族の扶養に入らずに今後も再就職する意思があることを示す必要がある。家族の扶養に入っていないということは、国民年金保険料や国民健康保険料の支払い義務があることになり、支出も生じることになる。失業中ということを申請すれば、国民年金保険料の支払いは猶予されるが、免除されるわけではないので注意が必要だ。

だが、フルタイムで働いていたならば、国民年金保険料(2020年度の保険料は月に1万6540円)と国民健康保険料(自治体によって異なる)の月々の支払い額よりも、失業保険の給付金額が高いことが多いので、保険料を支払ってでも失業保険を受け取るほうがよいだろう。

フルタイムで働いていなかった場合は要確認

フルタイムで働いていなかった場合は、国民年金保険料と国民健康保険料の合計が失業保険の給付金額を上回ることがある。どちらが多いのか計算してから、扶養手続きをするとよい。

扶養に入る・扶養から外れる場合の手続き

扶養に入るタイミングを決めたら、次は扶養に入ったり、扶養から外れたりする手続きをしなくてはならない。

健康保険の扶養に関する手続き

「健康保険被扶養者(異動)届」に記入し、被扶養を希望する人の収入を確認できる書類(退職証明書や雇用保険受給資格者証の写し、年金受け取り金額を記載した書類など)と、被保険者と被扶養希望者の続柄を確認できる書類(世帯全員の住民票など)を、被保険者の勤務先に提出する。

税制上の扶養に関する手続き

「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を、扶養者の勤務先に提出する。配偶者控除を希望する場合も同様だ。

不正受給がばれるとどうなるか

失業保険をもらうときは、不正受給にならないようにすることが大事だ。失業保険の受給が不正受給に当たるとみられるのは次のようなケースだ。

● 実態のない求職活動を申告する
● バイトやパート、在宅ワークをしているのに隠す
● 転職先が決まっている事実を隠す
● 起業あるいはその準備をしていることを隠す
● 収入額を過少申告する
● 休業補償給付や傷病手当金の受給を隠す
● 再就職できる状況でなくなった

このほか、本人であるかのように装って他人の失業保険をもらったり、離職理由を偽ったりするのも不正受給に該当する。

もし不正受給がばれると、次のようなペナルティが科されることになる。

1.失業保険の支給停止

当然のことながら、受給資格がないので、最初に不正を行ったと認定された日以降の失業保険が一切受け取れなくなる。

2.受給額の返還

本来受給資格がないのに失業保険を受け取っていたので、全額すぐに返還しなくてはならない。

3.3倍返し

不正の内容が悪質だと本来返すべき受給額に加え、「受給額×2」を支払うように命じられます。

4.返還しないと延滞金がかかる

上述の返還や支払いをしないと、延滞金が加算される。いつまでも払わないでいると、財産を差し押さえられることもある。

5.刑事事件として告訴

失業保険の不正受給は詐欺罪に該当するので、悪質であれば刑事告訴されることもある。なお、詐欺罪の時効は事件が発生してから20年だ。つまり不正した本人が忘れたころに告訴される可能性もある。

以前は「どうせばれない」といわれていた失業保険の不正受給だが、最近はマイナンバー制度の普及によりばれやすくなった。報酬や給与などの所得には支払調書というものがあり、これを年末調整後に税務署に提出しなくてはならないこととされている。マイナンバー同士を照合すれば、何らかの所得が発生したことが把握できるのだ。

不正受給はリスクが高く、一度発覚すると得るものより失うもののほうが大きい。絶対やらないようにしよう。

失業保険でも確定申告が必要な場合

前述のとおり、失業保険自体は非課税なので基本的には確定申告は不要だ。しかし、次の場合には確定申告をする必要が生じる。

年内に再就職できないとき

年末調整とは、天引きされた税額と確定した税額を比較し、過払いになっている場合は余剰分が還付される手続きである。通常は勤務先で年末に実施するが、年末の時点で勤務していない場合は年末調整ができず、過払い分の還付金を受け取ることができない。このような場合には自分で確定申告を行うことで、還付金を受け取ることができる。

失業後に自分で社会保険料を支払ったとき

失業して収入が減額となれば、来年支払う健康保険料や住民税などは少なくなることが多い。確定申告することで減った収入をきちんと申告すれば、来年の支払い額を低く抑えることにつながる。

アルバイトなどで20万円以上の収入を得たとき

失業保険の受給中でも、再就職と判断されない程度ならアルバイトなどの臨時業務に就くことができる。主な給与以外に年間20万円以上の収入を得た場合は、確定申告をすることで源泉徴収によって天引きされた分が返還されることもある。

確定申告の手順

確定申告は次の手順で行う。

1.提出書類を準備する

前年1月~12月分の源泉徴収票と、生命保険や健康保険料などの控除証明書類を用意する。退職時に勤務先から源泉徴収票を受け取っていない場合は、問い合わせて取り寄せる。

2.確定申告書を作成する

確定申告書の用紙は税務署で受け取ることもできるが、国税庁のホームページの「確定申告書等作成コーナー」で作成することができる。作成後、印刷して最寄りの税務署に郵送すればよい。また、事前登録が必要だが、e-Taxを利用すれば印刷・郵送せずともインターネットを介して確定申告書を税務署に送信することができる。

3.納税・還付

確定申告で申告した金額をもとに税額が決まるので、期限までに納付する。税務署に直接現金で納付するほかに、銀行やコンビニで支払う方法、指定した金融機関の預金口座から振り替え納付する方法、インターネットバンキングを利用して納付する方法、クレジットカードで納付する方法など、さまざまな方法がある。

還付を受ける場合は、口座を指定して振り込んでもらう方法が一般的である。e-Taxを利用して確定申告した場合は約3週間後、その他の方法で確定申告した場合は約1カ月~1カ月半ほど後に振り込まれる。

扶養のタイミングは大切

離職する人にとって、失業保険の給付をどのくらい受け取ることができるかは重要だ。家族の扶養に入る場合も、受け取れる給付金額などをよく計算したうえで、適切な扶養のタイミングを選ぶようにしたい。

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