2020年(令和2年)分から配偶者控除等申告書は基礎控除申告書・所得金額調整控除と統一されて一枚の用紙になった。これに加え、2018年の税制改正で配偶者控除・配偶者特別控除はいずれも前年より複雑化した。どう書いたらいいのか、迷う人も多いだろう。今回は控除制度の内容、用紙の書き方を解説していく。
中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。
配偶者控除等申告書に関するQ&A
最初に配偶者控除等申告書に関する3つの質問に答える。
「配偶者控除等申告書」という年末調整の用紙があるの?
2019年分はこの用紙があったが、2020年分から「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」という一枚の用紙に統一された。この用紙の一部に「配偶者控除等申告書」がある。
2019年分はこの用紙があったが、2020年分から「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」という一枚の用紙に統一された。この用紙の一部に「配偶者控除等申告書」がある。
配偶者控除等申告書には何を書くの?
配偶者控除等申告書には、配偶者の氏名、生年月日、マイナンバーなどのほか、今年1年間の配偶者の合計所得金額の見積額を書く。その見積額や年齢、納税者本人の合計所得金額の見積額から配偶者控除・配偶者特別控除の控除額を割り出す。
配偶者控除等申告書には、配偶者の氏名、生年月日、マイナンバーなどのほか、今年1年間の配偶者の合計所得金額の見積額を書く。その見積額や年齢、納税者本人の合計所得金額の見積額から配偶者控除・配偶者特別控除の控除額を割り出す。
配偶者控除等申告書に訂正があったらどうすべき?
2つの対処法がある。1つは年末調整のやり直し、もう1つは確定申告だ。年内最後の給与支払い前なら年末調整のやり直しも可能だが、会社によっては個別に確定申告に行くよう指示することもある。指示されたら翌年3月15日までに自ら確定申告を行う。
2つの対処法がある。1つは年末調整のやり直し、もう1つは確定申告だ。年内最後の給与支払い前なら年末調整のやり直しも可能だが、会社によっては個別に確定申告に行くよう指示することもある。指示されたら翌年3月15日までに自ら確定申告を行う。
配偶者控除等申告書はほかの2つの書類と一体化している
2019年まで単独の書類だった「配偶者控除等申告書」は2018年度の税制改正の影響により2020年分からほかの申告書と一体化し、1枚の書類になった。書類の名称は「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」という。1つにまとめられた申告書はほかに下記の2つがある。
●基礎控除申告書
基礎控除額を計算・申告するための申告書である。2020年から始まった。
従来「国民全員一律38万円を所得控除」だった基礎控除は税制改正により、2020年分から所得額に応じて控除額が変動するようになった。合計所得金額が2400万円以下なら48万円が控除されるが、このラインを超えると32万円、16万円と控除額が減少する。2500万円を超えると基礎控除額は0円だ。
●所得金額調整控除申告書
所得金額調整控除を計算・申告するための申告書である。これも2020年から始まった。
所得金額調整控除は2018年度の税制改正で創設された。給与年収が850万円を超える人でも23歳未満の子どもがいたり、本人や家族が特別障害者だったりすると一定額を給与所得から差し引ける。
配偶者控除等申告書とは
配偶者控除等申告書は「配偶者控除」と「配偶者特別控除」の2つに関して申告する用紙である。配偶者控除「等」申告書の「等」には、配偶者特別控除も含まれている。
●配偶者控除と配偶者特別控除を計算
この申告書では、配偶者控除と配偶者特別控除によっていくら所得から差し引けるのかを計算する。計算の要素となるのは次の2つだ。
- 配偶者自身の今年の合計所得金額の見積額と年齢
- 納税者本人の今年の合計所得金額の見積額
配偶者に関する情報はこの申告書の欄で完結する。一方、納税者自身の所得額情報は基礎控除申告書にある。
●扶養控除等(異動)申告書との違い
年末調整で提出が必要な書類の一つに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」がある。扶養控除等(異動)申告書にも配偶者に関する情報を書く。「同じような情報を2枚に渡って書かなくてもいいじゃないか」と思うだろう。
しかし、配偶者控除等申告書と扶養控除等(異動)申告書は役割が少し違う。配偶者控除等申告書はあくまでも今年分の年末調整の情報に過ぎない。しかも配偶者に関する情報に限られる。
一方、扶養控除等(異動)申告書は来年の毎月の給与から源泉徴収する所得税を決めるための土台という役割が大きい。源泉徴収税額も扶養状況で増減する。申告書には配偶者だけでなく子どもなどの扶養親族の情報も記載する。これを基に、翌年度の毎月の天引き額が決まるのだ。
また、全員提出が義務付けられているのは扶養控除等(異動)申告書のみだ。配偶者控除等申告書は対象外になるなら提出不要である。
配偶者控除とは
ではここからそれぞれの制度を見ていこう。配偶者控除と配偶者特別控除は一見そっくりだが、本来は別の制度だ。
配偶者控除とは、年末時点で次の4要件すべてに該当する配偶者がいるときに受けられる所得控除だ。 なお、3.は昨年分までは「38万円以下」だったのが税制改正で10万円プラスになった。
- 配偶者と法律婚をしていること(事実婚は対象外)
- 納税者本人と生計が同一であること
- 年間の合計所得金額が48万円以下であること
- 青色事業専従者や白色事業専従者として給料を受け取っていないこと
上記4要件に配偶者の状況が合致するなら配偶者控除が受けられる。ただし現在はもう1点、注意が必要だ。それは納税者自身の所得状況である。
以前は納税者自身の所得額に関係なく、配偶者が4要件を満たすなら一律38万円を所得額から差し引けた。しかし2017年度の税制改正により、納税者自身の合計所得金額が1000万円を超えていると、4要件を満たしていても控除は受けられない。
さらに、2018年から配偶者控除の額が変動した。配偶者の年末時点の年齢と納税者自身の合計所得の2つで控除額が決まるのだ。具体的には次のようになる。
納税者の合計所得額 | 900万円以下 | 900万円超950万円以下 | 950万円超1000万円以下 |
配偶者が70歳未満 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
配偶者が70歳以上 | 48万円 | 32万円 | 16万円 |
配偶者特別控除とは
配偶者特別控除は、配偶者自身の合計所得額が48万円を超えても一定額を所得から差し引ける制度だ。いわゆる「103万円の壁」を突破すると今度は配偶者自身の給料に所得税がかかり、手取りが減ってしまう。この逆転現象を解消し、世帯ごとの課税の不公平をなくすために1987年に創設されたのが配偶者特別控除だ。配偶者控除とは別の制度となる。
ただ、そうは言っても基本的な要件は配偶者自身の合計所得要件を除いてほとんど変わらない。配偶者控除で述べた4要件のうち、3.が「年間の合計所得金額が48万円超133万円以下であること」となるだけだ。なお、この条件も税制改正が適用される前の2019年分まで、「38万円超123万円以下」であった。
納税者自身の合計所得金額が1000万円を超えると適用除外になることも同じだ。ただし、配偶者控除と違って配偶者の年齢は問われない。
控除額は配偶者の合計所得と納税者自身の合計所得で決まる。表にすると次のようになる。
納税者の合計所得額 | ||||
900万円以下 | 900万円超 950万円以下 |
950万円超 1000万円以下 |
||
配偶者の 合計所得額 |
48万円超 95万円以下 |
38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超 100万円以下 |
36万円 | 24万円 | 12万円 | |
100万円超 105万円以下 |
31万円 | 21万円 | 11万円 | |
105万円超 110万円以下 |
26万円 | 18万円 | 9万円 | |
110万円超 115万円以下 |
21万円 | 14万円 | 7万円 | |
115万円超 120万円以下 |
16万円 | 11万円 | 6万円 | |
120万円超 125万円以下 |
11万円 | 8万円 | 4万円 | |
125万円超 130万円以下 |
6万円 | 4万円 | 2万円 | |
130万円超 133万円以下 |
3万円 | 2万円 | 1万円 |
配偶者控除等申告書に書くべき内容
配偶者控除等申告書を正確に書くために、次の順番どおりに進めていくようにしよう。
記入の手順1:基礎控除申告書を書く
いきなり配偶者控除等申告書の欄から書き始めるのではなく、同一の用紙内にある基礎控除申告書の欄から着手する。この欄は本人の合計所得金額を計算する欄だからだ。
控除を受ける本人の所得の合計額を計算し、「(A)900万円以下」「(B)900万円超950万円以下」「(C)950万円超1000万円以下」のどれに該当するかを判定して、「区分Ⅰ」にA・B・Cのいずれかを記入する。
記入の手順2:配偶者控除等申告書を書く
次に配偶者控除等申告書の欄で、配偶者の合計所得金額を計算する。配偶者の合計所得金額から配偶者控除・配偶者特別控除のどちらが適用されるのかを判定する。
さらに、配偶者控除なら「(①)70歳以上」「(②)70歳未満」から、配偶者特別控除なら合計所得額「(③)48万円超95万円以下」「(④)95万円超133万円以下」から該当するものにチェックをし、「区分Ⅱ」に①・②・③・④のどれかを記入する。なお、④に該当するなら合計所得額もメモしておこう。④のケースは配偶者の合計所得額で控除額が細かく変わるからだ。
その後、「控除額の計算」の一覧表に区分Ⅰ・区分Ⅱの内容を入れ、適用される控除額を探し出す。控除額がわかったら、一覧表の右にある「配偶者控除の額」、「配偶者特別控除の額」どちらかの欄に控除額を記入する。
事例でシミュレーションしてみよう
ここで簡単な例で控除額を探し出してみよう。本人(40代)の収入が給与だけで年間の収入金額が800万円、配偶者(30代)のパート収入が200万円のケースで考えてみる。
まず手順1で本人の合計所得金額を割り出す。本人の収入が給与だけなので「合計所得金額=給与所得」で考えてよい。給与所得は裏面の一覧表から割り出せる。ここで給与年収800万円に対応する給与所得(=合計所得金額)は610万円で区分ⅠはAになるとわかる。
次に手順2で配偶者の合計所得金額を計算する。配偶者のパート収入は給与に当たるので、先ほどと同じ一覧表から給与所得(=合計所得金額)を割り出す。200万円に対応する給与所得は132万円となるので適用されるのは配偶者特別控除だ。区分Ⅱは④だとわかる。なお、④なので区分Ⅱの欄には「132万円」とメモしておく。
先ほど割り出した「区分Ⅰ:A」「区分Ⅱ:④132万円」を「控除額の計算」の一覧に当てはめる。すると、配偶者特別控除の控除額は3万円だとわかる。そのため、一覧表の右側にある「配偶者特別控除の額」の欄に「3万円」と書く。
注意点
配偶者控除等申告書は細かい分だけ間違えやすい。特に次の2点に注意しよう。
●ほかの控除制度と混同しない
配偶者はいろいろな所得控除の要件に登場する。そのため、ほかの控除制度と混同しやすい。たとえば今年始まった所得金額調整控除だ。この適用の要件の一つは「配偶者が特別障害者であること」だが、ここでは配偶者の合計所得金額は問われていない。配偶者が要件対象となる制度は、要件で何が問われているのかを丁寧に確認しよう。
●間違えたら訂正を
この申告書は要件が細かいため、間違えやすい。もし間違いが見つかったら勤務先にすみやかに連絡しよう。年内最後の給料に間に合うなら年末調整のやり直しができるかもしれない。ただ、会社によっては確定申告をするよう指示されることもある。そのときは翌年3月15日までに自ら確定申告をしよう。