給与所得控除とは、会社員の給与から一定の金額が控除される制度である。これにより所得税が減額される。一般の会社員にとっては、税の申告になじみがないため、難しいと感じる人も多いだろう。今回は、給与所得控除について詳しく説明する。

井上 通夫
井上 通夫
行政書士。大学卒業後、大手信販会社、大手学習塾などに勤務後、福岡市で行政書士事務所を開業。現在、相続・遺言、民事法務(内容証明、契約書、離婚協議書等の作成)、公益法人業務、各種許認可業務など幅広く担当。

給与所得控除にまつわるQ&A

給与所得控除,所得控除
(画像=PIXTA)
Q


給与所得控除とは何か?

給与所得控除とは、会社員などの給与所得者に適用される制度である。所得税を計算する際に、1年間の給与所得から一定の金額が控除されるものである。

給与所得控除とは、会社員などの給与所得者に適用される制度である。所得税を計算する際に、1年間の給与所得から一定の金額が控除されるものである。


Q


給与所得控除はどのように計算するのか?

給与所得控除は、会社員などの職種、勤務形態、雇用形態にかかわらず、1年間の給与所得の金額に応じて定められている。例えば、給与収入が55万円以上180万円以下の場合、「収入金額×40%-10万円」の金額になる。

給与所得控除は、会社員などの職種、勤務形態、雇用形態にかかわらず、1年間の給与所得の金額に応じて定められている。例えば、給与収入が55万円以上180万円以下の場合、「収入金額×40%-10万円」の金額になる。


Q


給与所得控除と所得控除の違いは?

給与所得控除は、会社員などの給与所得者に適用される控除であり、所得控除は、個人事業主などを含む、所得を得ている人すべてに適用される控除の制度である。

給与所得控除は、会社員などの給与所得者に適用される控除であり、所得控除は、個人事業主などを含む、所得を得ている人すべてに適用される控除の制度である。

給与所得控除が適用された理由

給与所得控除とは、会社員など給与を得ている人に対して、適用される所得控除の制度である。所得税などを算定する際の基となる給与所得額から1年間の給与などの金額に応じて、定められた金額を差し引く。課税対象となる所得額が減額されるため、所得税などが減額されることになる。

通常、個人事業主は、売上金額から経費を差し引いて事業所得の金額を算出し、その金額に所得税などが課税される。会社員が同様に課税額を計算しようとすると、仕事用の衣服や靴などを経費として計上できることになり、会社は個別に経費を計算しなければならず、かなり煩雑になってしまう。

そこで会社員などの給与所得者に対しては、一律に控除を行う方法を取ることになったのである。つまり、給与所得控除という制度は、個人事業主と会社員との税金の計算上の公正性を図るとともに、多数の会社員の税控除を一律で計算するという利便性を目的としているのだ。

給与所得控除と所得控除の違いは?

給与所得控除と混同されるものに、所得控除がある。しかし両者はまったく異なる。

給与所得控除とは、会社員などの収入から一定の金額を差し引く制度である。基本的に必要経費が認められない会社員などについて、給与収入から一定の金額を控除して課税するというものだ。なお、給与収入には、毎月の給与のほか、ボーナス、住宅手当、家族手当なども含まれる。

一方、所得控除とは、個人事業主などが確定申告を行う際に、事業収入(売上高など)から経費を差し引いて事業所得を算出し、そこから一定の基準によって金額を差し引く制度である。

所得控除は、所得税額などを計算する際に、各納税者(申告者)の個人的事情を加味するためのものだ。この点が、給与所得控除とは大きく違う点である。所得控除の要件に当てはまる場合は、事業所得から各所得控除の金額の合計を差し引き、その金額に所得税などが課税されるという仕組みである。

主な所得控除には、以下のようなものがある。

・雑損控除
・医療費控除
・社会保険料控除
・小規模企業共済等掛金控除
・寄附金控除
・障害者控除
・寡婦(寡夫)控除
・勤労学生控除
・配偶者控除
・配偶者特別控除

所得控除は、確定申告の際に申請しないと控除されないことになっている。該当する控除があっても、申告しなければ適用されないので、申告の際に漏れがないように注意する必要がある。

給与所得控除の計算方法

給与所得控除は、会社員などの職種、勤務形態、雇用形態に関係なく、その人の1年間の収入に応じて決まる。なお収入は、毎月の給与のほか、ボーナス、家族手当といった各種手当などの現金支給額と、現物支給の金額を合わせた総額である。

ただし、給与に加算して支給される月額10万円以内の通勤手当、制服などの貸与、出張旅費などの精算、社内規定により支給される祝い金、見舞金などは、収入額から除外される。

給与所得控除の計算方法は、年度ごとに更新されるため、国税庁のホームページで毎年度確認する必要がある。以下は、2020年(令和2年)分の計算方法である。



 収   入  給与所得控除の金額
 55万円未満  55万円
 55万円以上 180万円以下  収入金額×40%-10万円
 180万円超  360万円以下  収入金額×30%+8万円
 360万円超  660万円以下  収入金額×20%+44万円
 660万円超  850万円以下  収入金額×10%+110万円
 850万円超  195万円

例えば、1年間の収入が500万円の場合、給与所得控除の金額は「500万円×20%+44万円=100万円+44万円=144万円」となる。よって、所得税は「500万円-144万円=356万円」に課税される。

計算の際の注意点

●特定支出控除との関係

給与所得控除は、会社員などの経費として控除されるが、収入額によって一律に控除額が決まっている。そのため、個人的に仕事にかかわる経費を支出していた場合、その金額が給与所得控除の金額を上回る可能性がある。

仕事にかかわる経費としては、仕事に関連する資格を取得するための費用、仕事に関係する接待費などが考えられる。そこで、会社員が仕事にかかわる経費を自ら支出した場合は、特定支出として給与から控除するように認める制度がある。これが「特定支出控除」である。

会社員が自ら経費として支出した分が特定支出として認められ、合計額が特定支出控除の適用判定の基準額を超える場合、確定申告の際に、特定支出控除として収入から超過分を控除できる。

適用判定の基準額は、その年の給与所得控除の金額の2分の1とされている(2016年分から)。

例えば、年間440万円の収入があった会社員Aさんに、60万円の特定支出があったとする。Aさんの給与所得控除額は「440万円×20%+44万円=132万円」となる。特定支出控除の適用判定の基準額は、給与所得控除額の2分の1、つまり「132万円×1/2=66万円」となる。よって、Aさんの特定支出60万円は基準内にあり、特定支出控除となる。

Aさんの場合、「440万円-132万円-60万円=248万円」に対して、所得税が課税される。

●基礎控除との関係

給与所得控除とは別に、所得の種類に関係なく、すべての人が受けられる控除がある。これを基礎控除という。以下は、2020年(令和2年)以降の基礎控除額である。

 所得金額  基礎控除額(所得税)  基礎控除額(住民税)
 2400万円以下  48万円  43万円
 2400万円超 2450万円以下  32万円  29万円
 2450万円超 2500万円以下  18万円  15万円
 2500万円超  0円  0円

例えば、年間360万円の収入があった会社員Bさんの場合、給与所得控除額は「360万円×30%+8万円=116万円」となる。上の表から、基礎控除額(所得税)は、48万円となる。よって、Bさんの場合、「360万円-116万円-48万円=196万円」に所得税が課税される。

●所得控除との関係

前述したように、給与所得控除と所得控除はまったく異なるものである。給与所得控除は、職種、勤務形態、雇用形態などに関係なく、全員一律に収入から控除される制度である。

一方、所得控除とは、ある一定の基準を満たす場合に控除される制度であり、医療費控除、雑損控除、社会保険料控除、寄附金控除、生命保険料控除、地震保険料控除など14種類がある。

例えば、年間600万円の収入があった会社員Cさんの場合、給与所得控除額は「600万円×20%+44万円=164万円」となる。基礎控除額(所得税)は48万円となり、さらに社会保険料控除が20万円であれば、Bさんは「600万円-164万円-20万円=416万円」に対して、所得税が課税される。

基礎控除・給与所得控除の改正

2020年(令和2年)分以降からは、以下の改正が行われたので注意が必要だ。

一律38万円だった基礎控除額が、前述のとおり最高48万円に引き上げられた。従来の一律から、年収が増えるほど基礎控除額が少なくなるように変更され、年収が高い人の税負担が増すことになった。

また、最低額が65万円だった給与所得控除額は、今回の改正によって最低額が55万円に引き下げられた。これによって、全体的に控除額が減少することとなり、税負担が増すことになった。

改正の影響

●会社員の場合

例えば、年間500万円の収入がある会社員Dさんの場合、改正前の基礎控除額は38万円、給与所得控除額は154万円で、合計192万円が収入額から控除された。しかし、改正後には基礎控除額48万円、給与所得控除額144万円で、合計192万円となり、改正の影響を受けないことになる。

しかし、年間860万円の収入がある会社員Eさんの場合、改正前の基礎控除額は38万円、給与所得控除額は206万円で、合計244万円が収入額から控除された。しかし、改正後には基礎控除額48万円、給与所得控除額195万円で、合計243万円となり、改正によって控除額が減少し、税負担が増すことになる。

このように、今回の改正によって、収入額が850万円超の会社員は税負担が増すことになったのである。

●会社員以外の場合

会社員以外の個人事業主などの場合、給与所得控除額の改正は影響がなく、基礎控除額の引き上げのみ関係することになる。よって、個人事業主にとって今回の改正は、減税ということになる。