昨年分の確定申告は3月15日まで。医療費控除を受けようと思っても、どれが対象でどれが対象ではないのかは意外と悩むところだ。税務署から「これ、違いますよ」と指摘されないよう、きちんと確認しておきたい。ここでは判断に迷うものに関して「○×式」で解説していく。もしかしたら、見落としている項目が控除対象になるかもしれない。

(1)インフルエンザワクチン:×

確定申告,医療費控除
(画像=Bacho / Shutterstock.com)

医療費控除の対象となるのは「治療目的」のものに限られる。そのため、インフルエンザワクチンは予防の対象にはならない。なお、これ以外にも、マスク、空気清浄機、加湿器も予防のためでしかないので医療費控除の対象外だ。

(2)健康診断代、人間ドック代:×(ただし、状況によっては◯)

健康診断の費用や人間ドック代は医療費控除の対象とはならない。これは治療のためではなく、あくまでも健康状態のチェックのためでしかないからだ。ただし、こういった診断や人間ドックでガンや腫瘍など重大な病気が発見された場合には、その診断代や人間ドック代も医療費控除の対象となる。

(3)医療費のクレジット払い:◯

医療費控除の対象はその年において実際に支払った金額だけが対象となるが、現金ですべてをまかなうのは難しい。義歯など高額医療費の場合は、やむなくクレジットで支払うこともある。この場合のクレジット払いについては、そのクレジット会社が立替払いした金額、つまり「その年に実際に医療機関に支払われている金額」が医療費控除の対象となる。

具体的には、ローン契約を締結した年の医療費控除となる。なお、ローンの金利や手数料は医療費控除の対象外だ。ただし、クレジット払いについては、通常の医療費の領収書の他に、ローンの契約書のコピーとクレジットカード会社の領収書も提出しなくてはならない。

ちなみに、「2017年に治療は受けたけどその治療費については2018年に支払う予定」ならば、その医療費控除は2017年には受けられない。治療を受けた時期ではなく、治療費を支払った時点と金額が医療費控除の対象範囲だ。

(4)鍼治療、あんまマッサージ:×(目的や状況に応じて◯)

健康増進やただの癒しのための鍼治療やあんまマッサージは医療費控除の対象とはならない。ただし、治療のための鍼治療やあんまマッサージは医療費控除にしてよい。

(5)入院のための寝具や洗面具:×

入院には必要だが、医師等の治療を受けるのに直接必要とは言えないので対象外となる。

(6)家族付き添いの交通費:×(状況によっては◯)

家族が付き添った場合の家族分の交通費は、原則として医療費控除の対象とならない。大人ならば一般的に一人で通院できるはずで、その付き添いについては通常必要と認められる費用の範囲に入らないのだ。ただし、子どもの通院に付き添うための親の往復交通費については、子どもの病状や年齢からみて一人で通院させることが危険であると判断されるため、医療費控除の対象となる。

(7)入院している子どもを世話するための親の通院交通費:×

入院している子どもを世話するための親の通院交通費は医療費控除の対象とはならない。病気になった子ども本人自身が通院していないからだ。世話する母親の通院交通費は罹患している子ども本人の治療に直接必要とは言えないため、医療費控除の対象外となる。

(8)離婚した妻の医療費:◯

生計を一にしていた妻の分の医療費を支払い、その後に離婚したとしよう。この場合、婚姻中に支払った医療費は、支払った本人の医療費控除の対象となる。また、生計を一にした父親が亡くなった場合、存命中の医療費を子である自分が負担していたのなら、同じく医療費控除の対象にしてかまわない。

(9)共働きの妻が自弁した医療費:◯

「夫婦共働きでどちらも自分の財布から医療費を払っている。この場合は、医療費控除をそれぞれ別におこなう必要があるのか」という質問をよく受けるが、この場合は、どちらか一方がまとめて確定申告をおこなえばよい。

一般的には、所得が高い方が医療費控除をおこなう方がオトクになる。というのも、医療費控除は所得控除であるため、所得が高ければ高いほど適用される税率が高くなるからだ。同じ医療費控除10万円でも、課税所得金額100万円ならば税率5%で5000円しか節税効果がないが、課税所得金額が400万円なら税率20%で2万円(差額1万5000円)も節税できる。

(10)中絶費用、不妊治療・人工授精の費用:◯

妊娠や出産に関する費用は医療費控除として広く認知されている。一方、中絶に関する費用や不妊治療にかかる費用はどうなるのだろうか。これらも医療費控除の対象となる。ただし、中絶費用は母体保護法の規定に基づいて医師がおこなうものに限る。中絶手術の前後に健診を行った場合には、その検診費用も医療費控除の対象だ。

不妊治療・人工授精の費用については、往復の通院交通費(公共交通機関の利用に限る)を含めて医療費控除の対象になるが、サプリメント代や妊娠検査薬・排卵検査薬は医療費控除の対象から外れる。また、保険金や助成金を受け取っている場合には、これらの金額を医療費控除の対象とする費用の合計から差し引かなくてはならない。

(11)里帰り出産のための帰郷の交通費:×

医療費控除の対象となる交通費は次の両方の要件を満たす必要がある。

【1】病院、診療所、老人保健施設や助産院などへ行くために必要な人的サービス(ここでは交通手段であるバスや電車)の内、病状に応じて一般的に支出される水準を超えない金額
【2】医師等による診療等を受けるための通院費の内、その診療等を受けるために直接必要で、かつ通常必要なもの

里帰り出産のための帰郷費用はこのいずれにも該当しない。あくまでも自己都合の支出でしかないので医療費控除の対象外となる。

(12)タクシー代:×(緊急時のタクシー代は◯)

医療費控除の対象となる交通費は、バスや電車などといった公共交通機関に限られる。そのため、車で通院した場合のガソリン代や高速道路代、駐車場代などは医療費控除の対象とはならない。もちろん、タクシー代もアウトだ。

ただし、電車やバスでの通院が困難なため、やむを得ず使った場合のタクシー代、破水や陣痛などに襲われた場合の出産のためのタクシー代、あるいは救急車が捕まらない場合の緊急のタクシー代は必要な支出として医療費控除が認められる。この場合、その地域の交通状況や、この支出に係る領収書とその緊急事態に関連する医療費の領収書との整合性が重要になる。

(13)遠方通院の飛行機代、新幹線代:×(ただし相当の理由があるなら◯)

不必要に遠方の病院に通った場合の往復交通費は医療費控除の対象とならない。「近所でも治療が受けられるのに、わざわざ遠方の病院に行くのは必要な範囲を超えている」と考えるわけだ。ただし、難病などに罹患し、地方から都市部の病院でなければ治療ができない等、相当の理由がある場合には、その往復交通費は医療費の対象となる。この場合、医師の診断書など相当の理由が分かる書面を領収書とともに添付しておくと無難だ。

(14)介護サービス費:◯

介護保険制度の下で、介護サービス事業者から要介護者または要支援者が受けた介護サービスや居宅サービスの内、療養上の世話の対価に該当する部分は医療費控除の対象となる。具体的には、そのサービス内容によって医療費控除の対象になるかどうかが決まるので、国税庁のサイトを参照していただきたい。

参考:国税庁「医療費控除の対象となる介護保険制度下での居宅サービス等の対価

(15)医師の指導により購入したサプリメント:×

「医師の治療を受けるために必要な費用だから医療費控除」と考えたいところだが、これは対象外となる。サプリメントは薬事法の対象外だからだ。これを裏付ける判例として、平成27年5月12日東京地裁判決にある。これは不妊治療のためのサプリメント購入費用は、たとえ医師の指示によるものだとしても医療費控除の対象とならないとするものだ。医師の指示だとしても、薬事法の対象外ならば医学的な根拠がなく、よって治療に直接必要だとは言えないとする考え方による。

これと同じ理由で、食事療法や民間療法も、たとえ医師の指示があったとしても、医療費控除の対象となる可能性は低い。ただし、湯治や運動療法など、一部民間療法と思われるものについても医療費控除の該当要件を満たせば医療費控除の対象になる。該当する場合には、個別にきちんと調べたほうがよい。

医療費控除の対象となるのは基本的に「治療目的」「直接必要」なものなのだが、その年の状況に応じて意外なものも医療費控除の対象になることがある。これ以外にも気になるものがあれば、確定申告の無料相談会や税務署などで確認しておこう。

鈴木 まゆ子
税理士、ライター、心理セラピスト。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。12年税理士登録。外国人の日本国内での起業支援に従事。会計や税金、仮想通貨に関する話題についての記事執筆をおこなう。税金や金銭、仮想通貨、お金に関する心理学についても独自に研究中。共著「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)。