税金を考えるにあたって、「控除」という言葉をよく聞くだろう。そもそも控除とは何なのだろうか。詳しく解説する。

控除って何?

節税
(画像=PIXTA)

控除とは、辞書では「金銭・数量を差し引くこと」となっている。

税制面では、所得額から一定の金額を差し引くことを控除と言う。税金は所得額に対してかけられるが、控除で差し引けば、支払う税金額は少なくなる。控除には、課税対象となる所得金額を減らす「所得控除」と、後で還付を受けられる「税額控除」がある。

●所得控除の種類

所得控除は全部で14種類ある。控除の種類が多ければ多いほど、節税になる。   

●控除を受けるには

自動的にすべての控除が受けられるわけではなく、申告しなければ受けられない。

税額控除とは?

税率をかけた後に課税される税額から直接控除できるのが税額控除である。直接控除できる分、所得控除に比べて節税効果が高い。一般の人からすると、なじみのない税額控除も多いが、代表的なものだけ取り上げたい。

●配当控除

配当所得がある場合、課税総所得金額が1000万以下だった場合に原則として10%が控除され、課税総所得が1000万以上だった場合は5%が控除される。

●住宅借入金等特別控除

住宅を新築・取得、増改築をしたときに、原則として住宅ローンの借入金の年末残高の1%が1~10年目まで控除される。1年目は確定申告が必要だが、2年目以降は確定申告が不要で年末調整で控除を受けられる。

扶養控除とは?

扶養控除とは、一定の収入以下の配偶者や子どもや親を養っている場合に受けられる控除だ。

●扶養控除の要件とは?

扶養控除は、以下の要件を満たしている場合に限り、控除を受けることができる。

1.扶養家族で生計を一にしている場合
2.年間の合計所得が48万円以下の場合
3.青色事業専従者でない
4.二重に扶養控除になっていない

1は同居が原則である。大学生の仕送りなども要件に含まれる。3は個人事業主の事業を手伝っている家族は控除の対象にならないという意味で、4は他の扶養家族に入っていないということだ。

●年齢の差による扶養控除の違いとは?

2011年度から、15歳以下の年少扶養控除は廃止になった。代わりに児童手当がある。

16歳以上18歳以下で一定の収入以下なら、38万円が控除されるのが一般扶養親族で、19歳以上22歳以下で一定の収入以下なら63万円控除されるのが特定扶養親族である。23歳以上69歳以下の親族で38万円が控除される成年扶養親族もある。

70歳以上は老人扶養親族になるが、同居している父母・祖父母なら58万円の控除を受けられて、同居以外でも48万円の控除を受けられる。

社会保険料控除とは?

社会保険料控除とは自らが加入し、支払っている社会保険料と配偶者やその他の親族が負担すべき社会保険料を控除できることである。

●社会保険料控除の範囲

社会保険料控除となる範囲とは、健康保険、国民健康保険、国民年金、厚生年金、介護保険、後期高齢者医療保険等だ。支払った保険料の全額が控除範囲となる。

●社会保険料控除の申告の有無

サラリーマンの場合、社会保険料は給与から天引きされているので、申告の必要はなく、年末調整で控除される。自営業やサラリーマンでも年収が2000万円以上ある人や副業収入が20万円以上あって年末調整が受けられない人は自ら確定申告しなくてはならない。  

小規模企業共済等掛金控除とは?

小規模企業の経営者などのための退職金制度の小規模企業共済制度の掛金や企業型確定拠出年金(DC)、個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛金も、支払った掛け金の全額が控除される制度である。  

●企業型確定拠出年金とは?

企業型確定拠出年金(DC)とは、公的年金の上乗せ部分として、企業が毎月の掛け金を拠出し、従業員が掛金の運用を行う制度である。

積み立てし、運用した資産を退職金として一括で受け取るか年金形式で分割して受け取ることができる。原則として、60歳まで引き出すことができない。

●個人型確定拠出年金(iDeCo)

個人型確定拠出年金(iDeCo)とは、公的年金の上乗せ部分として、自ら申し込み、掛金を拠出し、運用を行う制度である。国民基金連合会が運営している。   年収800万円で30歳から加入した場合、所得税・住民税が年間で3万6000円優遇され、 60歳までの30年間で108万円優遇されることになる。   

生命保険料控除とは?

生命保険料控除とは、支払った生命保険料を一定額まで控除できることである。一般生命保険料控除と個人年金保険料控除と介護医療保険料控除の3種類を併用できる。それぞれ4万円ずつ控除できて、最大で所得税12万円、住民税7万5000円を控除できる。

●一般生命保険料控除とは?

死亡保険の保険料を控除できる制度である。保険金受取人が契約者、配偶者またはその他の6親等以内の親族と3親等以内の姻族であることが条件だ。

●個人年金保険料控除とは?

個人年金保険料控除は、一定の条件を満たし、個人年金保険料税制適格特約を付加した個人年金保険に対し、受けられる控除である。

●介護医療保険料控除とは?

2012年以降に創設された制度である。介護医療保険に加入すれば受けられる制度だ。

配偶者控除とは?

生計を一にする一定の収入以下の配偶者がいる場合に受けられる控除で、基本的に38万円が控除される。納税者に一定以上の所得がある場合は、控除額が減額される。

●2018年度に改正

2018年に配偶者控除と配偶者特別控除が見直された。控除を受けられる配偶者の年収が103万円以下から150万円以下に拡充された。それまで納税者の年収要件はなかったが、年収1120万円以上から段階的に控除額が減額されて、年収1220万円以上の人は配偶者控除が受けられない。 

●配偶者特別控除とは?

配偶者控除が受けられなくても、一定の控除を受けられるのが配偶者特別控除である。配偶者の年間の所得が48万円超133万円以下であれば、納税者の所得金額に応じて(最大38万円、最小1万円)控除を受けることができる。

医療費控除とは

年間の医療費が一定額を超えたときに、控除される制度である。納税者の医療費だけでなく、生計を一にする配偶者や扶養家族も含まれる。

●医療控除を受けるには?

医療控除は手続きをしなければ、控除を受けることができない。医療控除を受けられるのは医療費が10万円を超えた場合だ。この場合、保険金で補てんされた額は除かれる。また、差額ベッド代や美容整形などは医療費控除の対象にはならない。

●必要な書類

医療費控除は年末調整では受けられないので、確定申告をしなければならない。したがって、医療費の支払いを証明する領収書や勤務先で渡される源泉徴収書、確定申告書Aやマイナンバーカードが必要となる。

医療費控除は医療費控除の明細書を提出することによって、医療費の領収書の提出と提示が不要になり、健康保険組合などからの医療費通知を書き写すだけで簡単に申告できるようになった。

ただし、医療費の領収書は5年間自宅で保存しなければならないので、治療した際には領収書はその場で捨てずに、持ち帰って保存しなければならない。  

●セルフメディケーション税制

医療費が10万円に届かず医療費控除を受けられない人でも、特定医薬品の購入費を控除できるセルフメディケーション税制が2017年1月1日からスタートしている。

特定医薬品の購入費が1万2000円を超えた分が控除される。医療費控除と併用はできない。

ひとり親控除とは

2020年分の所得税から納税者がひとり親であれば、一定の所得控除を受けられるようになった。

従来から寡婦(夫)控除という制度があったが、寡夫控除は妻と死別し、その後婚姻していないこと、生計を一にしている子がいること、合計所得金額が500万円以下などの条件で、27万円の控除を受けることができた。

一方、寡婦控除は夫と死別し、生計を一にする子がいることと、合計所得が500万円以下なら扶養親族の要件なしに、受け取ることができた。

ひとり親控除は、その年の12月31日までに、結婚していないもしくは婚姻関係と認められるような状態にないこと、生計を一にする収入が48万円以下の子、納税者の合計所得が500万円以下であることなどの条件を満たせば、35万円の控除を受けることができる。

ひとり親控除の創設に伴い、未婚の親も対象となった。

103万円の壁とは

主婦(夫)が配偶者控除に入る範囲内で働くにはいくらまでの収入にすればよいのだろうか。

税金と社会保険の範囲が違っており、金額によっては社会保険料の支払い義務がなくても、税金の支払いが発生するということが起こり得る。

●103万円の壁と150万円の壁とは?

年収103万円を超えると、配偶者控除から外れ、超えた額に対して納税義務が発生する。

103万円の壁の次は、配偶者特別控除の150万円の壁がある。年収150万円を超えると配偶者特別控除の額が徐々に減っていく。

●106万円の壁と130万円の壁とは?

正社員が501人以上や所定労働時間が週20時間以上などの一定規模以上と条件の会社で働いたときに、年収106万円以上で厚生年金保険料と健康保険料を負担しなければならない。

一定規模以上と条件に当てはまらない会社の場合、年収130万円を超えると、国民年金と国民健康保険に加入しなければならない。

●壁を超えると損?

103万円と150万円の壁については、税金を払うとなんとなく損に感じるが、増えた分を負担するだけなので、家計全体では損にはならない。

一方、106万円と130万円の壁については、106万円の壁では健康保険なら病気になったときに傷病手当金を受け取ることができる。厚生年金を負担すれば、障害を負ったときに障害年金を受け取ることができるうえに、将来受け取れる額を増やすことができる。

ただ、年収130万円を超えると保険料がいらない国民年金第3号被保険者から、保険料の負担が発生する国民年金第1号被保険者に変わるため、保険料が高い国民健康保険の保険料を負担しなくてはならず、損をする可能性がある。