年末調整ではさまざまな書類が必要になるが、誰でも必ず出すのが「扶養控除等(異動)申告書」だ。毎年書いているけどイマイチよくわからない……という人もいるだろう。今回は年末調整の書き方を徹底解説する。

鈴木まゆ子
鈴木まゆ子
税理士・税務ライター
中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

年末調整の扶養控除等(異動)申告書のQ&A

扶養控除等(異動)申告書
(画像=PIXTA)

最初に年末調整の扶養控除等(異動)申告書によくある3つの質問に答えよう。

Q


扶養控除等(異動)申告書とは?

扶養控除等(異動)申告書とは、給与所得者が年末調整で必ず勤務先に提出する書類だ。この書類があって初めて年末調整の対象となる。ただし提出したからといって年末調整が必ず行われるわけではない。給与年収2000万円を超えている場合などは、提出しても年末調整は行われない。

扶養控除等(異動)申告書とは、給与所得者が年末調整で必ず勤務先に提出する書類だ。この書類があって初めて年末調整の対象となる。ただし提出したからといって年末調整が必ず行われるわけではない。給与年収2000万円を超えている場合などは、提出しても年末調整は行われない。


Q


扶養控除等(異動)申告書には何を書くの?

扶養控除等(異動)申告書には、年末調整を受ける本人の情報のほか、配偶者、子供や送金している親などの情報を書く。内容は氏名・住所・生年月日・マイナンバー・所得額などだ。ほかにも、同居か別居か、扶養している家族が海外で暮らしているかどうか、障害者やひとり親に該当するかなどの個別事情も記載する。

扶養控除等(異動)申告書には、年末調整を受ける本人の情報のほか、配偶者、子供や送金している親などの情報を書く。内容は氏名・住所・生年月日・マイナンバー・所得額などだ。ほかにも、同居か別居か、扶養している家族が海外で暮らしているかどうか、障害者やひとり親に該当するかなどの個別事情も記載する。


Q


2020年分の年末調整で記入するときの注意点は?

2020年分から所得税がいろいろな面で変わった。ひとり親控除の開始、配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除の所得要件の変更などが挙げられる。控除制度は似ている部分もあるが、基本は別々の制度だ。控除の条件に注意しないと間違えやすい。

2020年分から所得税がいろいろな面で変わった。ひとり親控除の開始、配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除の所得要件の変更などが挙げられる。控除制度は似ている部分もあるが、基本は別々の制度だ。控除の条件に注意しないと間違えやすい。


年末調整は「扶養控除等(異動)申告書」の提出が前提

「サラリーマンなら誰もが年末調整を受けて当たり前」と思うかもしれない。実は年末調整にはルールがある。年末調整は「扶養控除等(異動)申告書」を提出した給与所得者が対象となる。

●年末調整とは

年末調整とは、会社の役員・従業員といった給与所得者の年間の所得税の精算作業だ。

ほぼすべての正社員や派遣社員は毎月の給料から一定額の所得税を天引きされている。この天引きを「源泉徴収」というが、扶養親族数と月収で自動的に決まるため、源泉徴収されている税額は少し多めだ。

しかし人にはそれぞれ事情がある。教育費のかかる子供が3人いる人や、障害を抱えている人もいる。個別の状況に応じた所得控除を加味したうえで1年間の納税額を算出し、天引き済みの所得税総額を精算するのが年末調整だ。

●扶養控除等(異動)申告書とは

年末調整は扶養控除等(異動)申告書の提出が前提だ。この書類は、本人の状況や配偶者・扶養親族の状況を把握するための基礎的な情報を申告するものである。

年末調整はこのほかに「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」「保険料控除申告書」「住宅借入金等特別控除申告書」が必要だが、該当する項目がなければ提出しなくてもよい。

一方、扶養親族がいない独身者でも、扶養控除等(異動)申告書の提出は必要だ。

扶養控除等(異動)申告書に書くべき内容

扶養控除等申告書
(画像=PIXTA)

扶養控除等(異動)申告書には次の項目を記載する。

  • 本人の欄……氏名、生年月日、住所など、マイナンバー、世帯主氏名と続柄、配偶者の有無
  • 源泉控除対象配偶者の欄……氏名、続柄、生年月日、マイナンバー、住所など、所得の見積額、非居住者かどうか
  • 控除対象扶養親族の欄……氏名、続柄、生年月日、マイナンバー、住所など、所得の見積額、非居住者かどうか、生計同一の事実
  • 障害者の欄……一般・特別の区別、本人・同一生計配偶者・扶養親族の区別など
  • 寡婦・ひとり親・勤労学生の欄……該当する項目にチェックをする
  • 他の所得者が控除を受ける扶養親族等の欄……氏名、続柄、生年月日、住所など、控除を受けるほかの所得者の氏名・続柄・住所など
  • 16歳未満の扶養親族の欄……氏名、マイナンバー、続柄、生年月日、住所など、控除対象外国外扶養親族かどうか、所得の見積額
  • 【扶養控除等(異動)申告書の画像サンプル】

    扶養控除等(異動)申告書
    (画像=国税庁公式サイト)

    ## 「A源泉控除対象配偶者」記入の注意点 「A源泉控除対象配偶者」欄に記入するときは次の3つに注意しよう。 ### ●本人の所得額に注意 源泉控除対象配偶者の1つ目の条件に「年末調整を受ける本人の所得見積額」がある。これが900万円以下であることが条件だ。 この「所得見積額900万円以下」を給与年収に直すと2パターンに分かれる。所得金額調整控除を受ける人なら給与年収1110万円だが、受けない人は給与年収1095万円となる。 所得金額調整控除の対象になるのは、「23歳未満の扶養親族がいる」「本人・同一生計配偶者・扶養親族のいずれかが特別障害者である」のどちらかに該当する人だ。 【参考】所得金額調整控除(国税庁) ### ●配偶者の所得額に注意 2つ目の条件が「配偶者の所得額」だ。95万円以下(給与年収だと150万円以下)なら記入が必要になる。 ### ●同時にお互いを控除対象にはできない 「夫婦双方が150万円以下」ということもまれにあるだろう。この場合、どちらか一方が源泉控除対象配偶者となる。夫婦両方で控除は受けられない。 ## 「B控除対象扶養親族」記入の注意点 「B控除対象扶養親族」欄の記入上の注意点は次のとおりだ。 ### ●所得要件が38万円から48万円に 「扶養親族の合計所得金額は38万円以下」が昨年までの扶養控除の条件だった。今年からは「48万円以下」に変わる。 ### ●生年月日に注意 所得控除が38万円になる控除対象扶養親族は16歳以上、控除額が63万円になる特定扶養親族は19歳以上23歳未満が対象だ。ただし、年齢だけで判断するのではない。用紙の「B控除対象扶養親族」欄と「特定扶養親族」欄には対象となる生年月日の期間が書かれているので、これで判定しよう。 ### ●別居でも扶養しているなら対象になる 寮生活などで子供と別居している場合もあるだろう。別居でも生活費を送金していれば、扶養控除の対象だ。ただし子供が海外にいる場合は、送金証明や親族関係証明を別途、会社に提出しなくてはならない。 ### ●子供の所得額を確認しよう 最近は子供でも気軽に稼げるようになったため、子供の稼ぎも確認しておこう。扶養控除は年齢制限のほか、「合計所得金額48万円以下」という条件がある。アルバイトだけなら「103万円以下は対象」と考えてよいが、個人事業主なら利益額が目安となるので注意が必要だ。 ## 障害者に関する項目の注意点 「C障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」の欄には障害者控除に関する事実を記入する。本人・同一生計配偶者・扶養親族のいずれかが障害者なら控除の対象だ。次の点に注意しよう ### ●同一生計配偶者は配偶者控除・配偶者特別控除と違う 障害者控除の対象となる同一生計配偶者は配偶者控除・配偶者特別控除と条件が違う。こちらは「合計所得金額48万円以下」とあるだけだ。年末調整を受ける本人の合計所得金額は問われていない。 ### ●扶養親族の条件が扶養控除と違う 障害者控除の対象となる扶養親族には年齢制限や所得制限がない。16歳未満でも合計所得金額が48万円超でも対象になる。 ### ●条件で控除額が変わる 一般障害者か特別障害者か、年末調整を受ける人と特別障害者である家族が同居しているかどうかで次のように控除額が変わる。 一般障害者……27万円 特別障害者……40万円 * 同居特別障害者……75万円 障害の程度などの条件は細かく決まっている。詳しくは以下の国税庁のリンクで確認しよう。 【参考】障害者控除(国税庁) ## ひとり親控除・寡婦控除に関する項目の注意点
    お金の話
    (画像=PIXTA)

    お金の話

    (画像=PIXTA)

    「C障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」にはひとり親控除に関する項目も記入する。

    昨年までの寡婦(寡夫)控除は廃止され、新たにひとり親控除が始まった。しかし、ひとり親でなくても寡婦控除を受けられるときがある。条件に注意しよう。

    ●今年から始まった「ひとり親控除」の条件は

    従来の寡婦(寡夫)控除は婚姻歴や性別で控除額に違いがあったが、ひとり親控除では廃止された。ひとり親控除の条件は次のようになる。

    1. 事実婚の相手がいない
    2. 生計一の子がいる
    3. 2の子の総所得金額等が48万円以下であり、他の人の配偶者や扶養親族になっていない
    4. 本人の合計所得金額が500万円以下

    これらの条件に当てはまる場合、「ひとり親」の項目にチェックする。子供の稼ぎがアルバイト・パートだけなら2の条件の金額を「103万円以下」と考えて構わない。

    ●子供がいなくても寡婦控除が使える?

    ひとり親控除の条件に該当しなくても、夫と死別・離別した女性は寡婦控除が受けられるかもしれない。条件は以下のとおりだ。

    • 夫と離別・死別したり、夫が生死不明になったりした後も再婚していない
    • 本人の合計所得金額が500万円以下

    「合計所得金額500万円」を給与年収に直すと約677万円になる。

    注意したいのは「対象は女性だけ」という点だ。男性は対象にならない。また、子供や親などを扶養しているかどうかは問われていない。つまり離婚歴があって子供のいない女性は寡婦控除が受けられる可能性がある。

    勤労学生に関する項目の注意点

    「C障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」には、勤労学生控除についても記載する。勤労学生の条件は特定の学校に通学しているほか、給与所得などの勤労による収入があり、従来は合計所得金額が65万円以下(その内勤労以外の所得は10万円以下)だった。

    今年から「65万円以下」が「75万円以下」に変わったことに注意しよう。

    「D他の所得者が控除を受ける扶養親族等」とは

    「D他の所得者が控除を受ける扶養親族等」の欄は、夫婦ともに相応の所得があり、どちらでも子供の扶養控除を受けられるときに使う欄だ。対象は夫婦共働き世帯のほか、離婚した夫婦の両方で子供の生活費や教育費の面倒を見ているケースとなる

    扶養控除は夫婦どちらか一方でしか受けられない。この欄は二重控除を防ぐための記載欄だ。

    「16歳未満の扶養親族」とは

    扶養控除等(異動)申告書の一番下に「16歳未満の扶養親族」の記載欄がある。これは扶養控除の対象外なのだが、住民税が非課税になるかどうかを計算するときの確認欄になる。

    その他の注意点

    このほか、以下の耳慣れない用語について解説する。

    ●「同一生計」の意味を理解しよう

    「同一生計」という用語は年末調整や確定申告でよく登場する。この意味を「同居していること」と誤解している人が多い。年末調整や確定申告では、別々に暮らしていても本人の送金で家族が暮らしている場合、「同一生計」として扱うので、覚えておこう。

    ●年末に変更があったときの対処法

    「送金先の親が年末に亡くなった」「年末に離婚した」ということもあるかもしれない。このようなときはまず、会社に事情を伝えよう。会社のルール上問題なければ、年末調整をやり直してくれる。

    ただし会社によっては「自分で確定申告するように」と指示するところもある。指示されたら、翌年3月15日までに確定申告をしよう。