高額な医療費を支払った場合、医療費控除を受けることができ、節税できることは多くの人が知っている。しかし実際にどのような手続きが必要なのか、理解している人は少ない。ここでは、そもそも医療費控除とは何か、また必要な書類や手続き方法などを詳しく説明する。

井上 通夫
井上 通夫
行政書士。大学卒業後、大手信販会社、大手学習塾などに勤務後、福岡市で行政書士事務所を開業。現在、相続・遺言、民事法務(内容証明、契約書、離婚協議書等の作成)、公益法人業務、各種許認可業務など幅広く担当。

医療費控除にまつわるQ&A

医療費控除
(画像=PIXTA)

Q


医療費控除とは何か?

高額な医療費がかかった際に、確定申告によって、所得から控除される制度である。これにより、所得税が減税されることになる。

高額な医療費がかかった際に、確定申告によって、所得から控除される制度である。これにより、所得税が減税されることになる。


Q


控除される医療費とは?

一定額以上の医療費については、医療費控除の対象となることはもちろんだが、医療機関までの交通費も含まれる。したがって交通費に関する領収証は、基本的に保存しておく必要がある。

一定額以上の医療費については、医療費控除の対象となることはもちろんだが、医療機関までの交通費も含まれる。したがって交通費に関する領収証は、基本的に保存しておく必要がある。


Q


控除されない医療費とは?

上述の交通費のうち、公共交通機関以外の交通費、例えばタクシー代は対象とならない。ただし夜間の急病により、やむを得ずタクシーを利用した場合は、医療費控除の対象となる。

上述の交通費のうち、公共交通機関以外の交通費、例えばタクシー代は対象とならない。ただし夜間の急病により、やむを得ずタクシーを利用した場合は、医療費控除の対象となる。


医療費控除とは?

医療費控除とは、自分や家族が支払った医療費の一部を課税対象である所得金額(一般的に収入から経費を引いた金額)から差し引くことである。これによって、所得金額が減額され、所得税が減税になる。

医療費控除は、1月1日から12月31日まで支払った10万円以上の医療費に対して受けられる。生計を同じくしている配偶者や子どもの医療費も含まれ、子どもが通学のために別居していても、生計が同じであれば、認められる。

医療費控除の対象

●対象となる医療費

医療費控除の対象となる医療費は、病気・けがの治療、分娩などを直接の目的とした費用である。例えば、病気を治療するために発生した入院費、交通費、食事代、薬代などが該当する。以下に、対象となる医療費を列記する。

・医師や歯科医師による診療、あるいは治療の対価
・治療や療養に必要な医薬品の購入代金
・病院、診療所、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、指定介護老人福祉施設、指定地域密着 型介護老人福祉施設、または助産所へ収容されるための人的役務に係る代金
・あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術代金
・保健師、看護師、准看護師、または特に依頼した人による療養上の世話に係る代金
・助産師による分娩の介助に係る代金
・介護福祉士などによる一定の喀痰吸引及び経管栄養に係る代金
・介護保険制度によって提供された一定の施設・居宅サービスの自己負担額
・医師等による診療、治療、施術、または分娩の介助を受けるために直接必要なものに係る代金
・骨髄移植推進財団に支払う骨髄移植のあっせんに係る患者負担金
・日本臓器移植ネットワークに支払う臓器移植の斡旋に関する患者負担金
・高齢者の医療の確保に関する法律に規定する特定保健指導のうち、一定の基準に該当する人が 支払う自己負担金
・公共機関を使った医療機関までの交通費

●対象とならない医療費

医療費控除の対象にならない医療費は、病気・けがの治療、分娩を直接の目的としていないものである。例えば、自分の都合で発生した差額ベッド代、美容整形代、サプリメント代などだ。以下に、対象とならない医療費を列記する。

・健康診断の費用、医師等に対する謝礼金
・ビタミン剤など、病気の予防・健康増進のために用いられる医薬品の購入代金
・疲れを癒す、あるいは体調を整えるなどの治療に直接関係のない費用
・所定の料金以外の心付け(謝礼金など)
・家族や親類縁者への付添料
・自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車場の料金
・公共交通機関以外の交通費(緊急を要する場合などは認められることがある)

医療費控除でいくら戻ってくるか?

●医療費控除額の計算

医療費控除額の最高限度額は200万円だが、年間の所得に応じて、次のような計算になる。

・所得金額200万円以上の場合
医療費控除額=医療費負担額-保険などで補填された金額-10万円

・所得金額200万円未満の場合
医療費控除額=医療費負担額-保険などで補填された金額-年間所得の5%

保険などで補填された金額とは、保険会社から給付された入院給付金や健康保険組合から支給され た高額療養費、家族療養費、出産一時金などで、損害賠償金も含まれる。つまり10万円を超える医療費を支払ったとしても、それに関する金銭が補填されていれば、その金額を控除しなければなら ない。

●戻ってくる還付金額

還付される金額は、次のような計算式になる。

・還付金額=医療費控除額×所得税率

この所得税率は所得金額によって異なる。例えば、所得金額が195万円以下の場合、所得税率が5%、195万円を超え330万円以下の場合は10%(控除額9万7500円)となっている。

なお医療費控除は、住民税にも適用される。計算式は、次のとおりである。

・住民税の還付金=医療費控除額×住民税率10%

医療費控除の流れ

必要書類を準備して、以下の方法で住所地を管轄する税務署に提出する。

・税務署の開庁時間に直接書類を持参する
・税務署の開庁時間外であれば、税務署の玄関にある収受箱に必要書類を投函する
・税務署に必要書類を郵送する
・パソコンを使って、e-Taxで電子申告する

その後、税務署が書類を確認する。訂正などがあれば、提出した人宛に連絡があり、訂正や不足している書類を提出することになる。書類などに不備がなければ、書類に記載した銀行口座に還付金が振り込まれる。

申請時機

確定申告として、医療費控除の申請を行うことになる。通常の確定申告は1月1日から12月31日までの所得と税金を計算し、翌年の2月16日から3月15日までの間に申告しなければならない。

確定申告の必要がない会社員などが医療費控除だけを行う場合は、還付申告になり、3月15日を過ぎても申請できる。申請期限は医療費が発生した翌年の1月1日から5年間である。

申請に必要な書類

医療費控除に係る確定申告の必要書類は、以下のとおりである。

・医療費の支払いを証明するレシート・領収書
・医療費控除の明細書
・確定申告書A(第一表、第二表)
・医療費通知
※添付することで医療費控除の明細書を省略できる
・給与所得の源泉徴収票(会社員)
・マイナンバーなどの本人確認書類

このうち、医療費控除の明細書と確定申告書は、税務署で入手できる(国税庁のホームページからダウンロードも可能)。医療通知書は健康保険組合から送られてくる。

医療費の支払いを証明するレシート・領収書を基に「医療費控除の明細書」の内訳を記入し、「確定申告書A(第一表、第二表)」を完成させる。マイナンバーなどの「本人確認書類(コピー)」と併せて、税務署に提出する。確定申告書Aの記入方法については、後で詳しく説明する。

なお2017年(平成29年)分の申告から、領収書の提出が必要なくなった。ただし申告期限から5年間は、税務署から領収書の提出を求められる可能性があるので、大切に保管しておけなければならない。

申請書類の記載方法

提出書類の中で、手間がかかるのは確定申告書である。ここでは、会社員などが申請する場合に必要な「確定申告書A(第一表、第二表)」について説明する。

第一表には、源泉徴収票の数字、医療費控除額を転記し、税額を計算・記入する。

第一表は、左列の上から下へ、次に右列の上から下へ記入していく。

(1)「給与」欄に、源泉徴収票の「支払い金額」を記入する
(2)「給与」欄に、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」を記入する
(3)「合計」欄にも同じ金額を記入
(4)「⑥~⑮までの計」欄に、源泉徴収票の「所得控除の合計額」を記入する
(5)「医療費控除」欄に医療費控除の明細書で計算した医療費控除額(G)を記入する
(6)「合計」欄に「(4)+(5)」の額を記入する
(7)「課税される所得金額」欄に、「(3)-(6)」の額を記入する
(8)「上の21に対する税額」欄に、(7)の「課税される所得額」から求めた税額を記入する

税額の計算は、所得税の税額表から求める

(9)「差引所得税額」欄に、(8)の税額を記入する
(10)「再差引所得税額」欄に、(8)の税額を記入する
(11)「復興特別所得税額」欄に、「(10)×0.021」の額を記入する
(12)「所得税及び復興特別所得税の額」欄に、「(10)+(11)」の額を記入する
(13)「所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額」欄に、源泉徴収票の「源泉徴収税額」を記入する
(14)「還付される税金」欄に、「(12)-(13)」の額(マイナスとなる数字)を記入する
(15)還付金の振り込みを希望する銀行口座等を記入する

第二表は、第一表の内容を補足するような書類である。

(16)「所得の内訳」の項目に、給与所得の内訳を記入する
※基本的に、源泉徴収票の記載内容を転記する
(17)「住民税に関する事項」に、該当する扶養親族がいる場合に記入する
(18)「医療費控除」欄に、「支払医療費」「保険金などで補填される金額」を記入する
※医療費控除の明細書から転記する

国税庁のホームページにある「確定申告書等作成コーナー」で書類を作成すれば、金額を入力するだけで、自動的に税金の計算、必要書類一式の作成をしてくれる。

マイナンバーの確認

上述のように、申請書類の提出には、マイナンバー(コピー)などの本人確認書類が必要だ。

パソコンを使ってe-Taxで電子申告する場合は、電子証明書がついているマイナンバーカードを準備しなければならない。パソコンから必要書類を送る際は、パソコンでマイナンバーカードを読み取るためのICカードリーダーも必要だ。

手続きが分からなかったら?

会社員にとって、税金の算定や確定申告などは、会社が代わりに手続きを行うため、ほとんどなじみがないはずだ。

手続きや書類の記載方法などが分からなければ、税務署で相談することができる。基本的に予約制なので、事前に電話連絡をして予約し、必要書類を確認してから相談しよう。休日は閉庁しているので、国税庁のホームページで具体的な記載方法を確認する方法もある。