日本の所得控除制度では、大きく分けて14種類の控除のタイプがある。一律に38万円が所得控除される「基礎控除」から、災害や盗難被害で適用される「雑損控除」まで、それぞれの特徴や控除額について解説する。

一律38万円を控除 基礎控除

所得控除,確定申告,税金
(画像=PIXTA)

「基礎控除」とは、所得がある人に一律で適用される所得控除だ。基礎控除額は38万円となっている。基礎控除の基本的な考え方として、最低限度の生活維持にかかる必要所得には税金を課さないという理由があるとされる。

国民年金や健康保険料が対象 社会保険料控除

「社会保険料控除」は、一般的にもよく知られる所得控除の一つと言える。本人分のほか、一定基準を満たした配偶者や親族に対する拠出額も対象となる。

社会保険料控除の対象となるのは代表的なものは、健康保険や国民年金、厚生年金、国民年金基金、厚生年金基金、国民健康保険、介護保険、労働保険、労働保険、労働者災害補償保険、農業者年金保険などだ。

給与などから差し引かれた対象分の金額や実際に支払いを行った金額の合計額が、実際に社会保険料控除として所得控除される金額となる。

生命保険や個人年金に適用 生命保険料控除

生命保険料や個人年金保険料、介護医療保険料の支払い額が対象となる所得控除が「生命保険料控除」だ。適用限度額はこれら全てを合わせて上限12万円と定められており、2012年1月1日以後と2011年12月31日以前で、保険料などの控除額の計算式が異なる。

新契約(2012年1月1日以後)では、年間の支払保険料などの合計額が2万円以下の場合にはその金額の全額が所得控除され、2万円以上4万円以下の場合は合計額の半額に1万円を加算した額、4万円以上8万円以下の場合は合計額の25%に2万円を加算した額、8万円を超える場合は一律で4万円が所得控除される。

旧契約(2011年12月31日以前)では、合計額が2万5000円までは全額が所得控除され、2万5000円以上5万円以下では合計額の半額に1万2500円を加算した額、5万円以上10万円以下で合計額の25%に2万5000円を加算した額、10万円以上の場合は一律で5万円が控除される。

最大5万円の所得控除 地震保険料控除

地震に対する損害を対象として含む損害保険契約に加入している納税者が対象となる所得控除が「地震保険料控除」だ。地震保険に該当する金額に対して、年間の支払保険料が5万円以下の場合は全額が所得控除され、5万円を超えるケースでは5万円が所得控除される。

地震保険料控除では、所得控除の対象となる保険契約や共済契約について細かく定められている。対象範囲は、本人のほか一定基準を満たした配偶や親族などが所有する住宅や家具、衣服などを対象としている保険や共済となる。

イデコも対象 小規模企業共済等掛金控除

あまり聞き慣れない人も多い所得控除の種類の一つが「小規模企業共済等掛金控除」だ。小規模企業共済法で規定される共済契約の掛金などが対象となる。

具体的には、独立行政法人中小企業基盤整備機構との共済契約の掛金や企業型確定拠出年金と個人型確定拠出年金(イデコ)の掛金、心身障害者扶養共済制度の掛金の3種類となっている。1年間で支払いを行った金額が所得控除される。

個人型確定拠出年金の加入資格が2017年1月の法改正によって大幅に広がったことにより、この所得控除について知る機会も徐々に増えてきている。

配偶者や扶養家族の分も対象に 医療費控除

医療費を支払ったときに受けることができる所得控除が「医療費控除」だ。本人以外の一滴順を満たした配偶者や親族のために支払った医療費も控除の対象となる。

実際に所得控除される金額の計算をするためには、まず生命保険で受け取る入院給付金や健康保険で受け取る高額療養費などの補てん金額の合計額を算出する。そして、その金額と10万円を1年間で支払った医療費合計額から差し引く。そうして算出された額が医療費控除として所得控除される金額となる。

医療費控除は最大で200万円で、総所得金額などが200万円に満たない場合は総所得金額の5%が最高控除額となる。

年間所得が38万以下の子などがいる場合 扶養控除

「扶養控除」とは、扶養親族がいる納税者に適用される所得控除。控除対象となる扶養親族となれるのは16歳以上の人で、配偶者の6親等内の血族か3親等内の姻族、養育の委託を受けた里子、擁護の委託を受けた高齢者で、納税者本人と生計を一にしており、年間の合計所得額が38万円以下であることなどが主な条件だ。

扶養控除の枠組みで所得控除される金額は、扶養対象となる扶養親族の年齢や同居しているかどうかによって異なってくる。その年の12月31日時点で16歳以上の人を扶養している場合は38万円、このうち年齢が19歳以上23歳未満のケースは63万円、老人扶養家族で同居している場合は58万円、同居していないケースでは48万円がそれぞれ控除される。

納税者の年収によって控除額に差 配偶者控除

所得控除の対象となる配偶者がいる場合には、「配偶者控除」が適用される。内縁関係の配偶者には適用されない。適用条件としては、民法に則った配偶者であり、生活を一にしており、年間の所得金額が38万円以下もしくは給与年収が103万円以下であることなどがある。

これらの条件を満たしている配偶者がいる場合は、控除を受ける納税者の年間所得額と配偶者の年齢によって控除額が変わってくる。一方で、納税者の年間所得金額が1000万円を超える場合は、配偶者控除の対象とならない。

配偶者の年齢が70歳未満の場合は、納税者の年間所得金額が900万円以下の場合で38万円、70歳以上の場合で48万円。納税者の年間所得金額が900万円以上950円以下の場合は、70歳未満の配偶者の場合で26万円、70歳以上の場合で32万円。納税者の所得額が950万円以上1000万円以下の場合は、70歳未満の配偶者の場合で13万円、70歳以上の場合で16万円。

配偶者の所得が38万円以上の場合に適用 配偶者特別控除

配偶者に38万円以上の所得がある場合は「配偶者控除」は適用されない。一方で、「配偶者特別控除」の対象にはなる。

納税者の年間所得金額と配偶者の年間所得金額によって、1万円から38万円の間でそれぞれ控除額が決まっている。納税者の年収が1000万円以上の場合は、配偶者控除と同様に、所得控除の対象にはならない。

国や地方への公益事業への寄付などが対象 寄附金控除

特定寄付金として国・地方自治体や公益法人などに支払った金額は、「寄付金控除」として所得控除の対象となる。

具体的には国や地方公共団体への寄付金のほか、公益社団法人が一般募集している教育振興や社会福祉の向上などのための寄付制度、独立行政法人や日本赤十字社、自動車安全運転センター、日本司法支援センター、日本私立学校振興・共済事業団、社会福祉法人、更生保護法人、一定基準を満たした政治活動などに対するもの。学校入学に関連する寄付金や特定利益を受けるための寄付金は対象にならない。

寄附金控除の枠組みにおける所得控除額は、「1年間の合計寄付額」と「1年間の総所得額の40%」のうち低い金額から2000円を差し引いて算出する。

障害の程度などによって控除額を規定 障害者控除

所得控除の一つである「障害者控除」では、納税者本人や一定基準を満たした配偶者や扶養親族などが対象にある。障害者控除における「配偶者」とは、生計を一にしており、かつ1年間の合計所得額が38万円以下の人を指す。

障害者控除の対象者となるのは、精神保健指定医などにより知的障害者と判定された人や精神障害者保健福祉手帳が交付されている人、身体障害者手帳に身体障害の記載がある人、戦傷病者手帳が交付されている人、6カ月以上寝たきりの状態で、身体障害などによって高度な介護を要する人などだ。

障害者控除の所得控除額は、障害者の場合は27万円、障害の程度が重いなどする特別障害者が40万円、同居特別障害者が75万円と規定されている。

死別や離婚による独身者が対象 寡婦(寡夫)控除

寡婦(かふ)・寡夫(かふ)とは、配偶者と死別または離婚するなどして、再婚していない男性・女性のことを指す。この寡婦・寡夫を対象にした独身者が対象となる所得控除が「寡婦控除」「寡夫控除」だ。

寡婦控除の場合、扶養家族がいる人がいたり総所得金額等が38万円以下などの条件を満たしている子供と一緒に生活をしたりしている独身者、もしくは年間の合計所得金額が500万円以下の人に適用される。所得控除額は27万円で、複合的な条件を満たした「特別な寡婦」は35万円まで所得控除される。

寡夫控除で場合は、年間の合計所得金額が500万円以下で、総所得金額等が38万円以下などの条件を満たしている子供と一緒に生活をしている人がいる独身男性が対象となる。寡夫控除としての所得控除額は27万円。

働きながら学ぶ生徒や学生が対象 勤労学生控除

「勤労学生控除」とは名称の通り、勤労学生に適用される所得控除だ。小中学校、高校、大学、高等専門学校、専修学校などに通いながら仕事をし、給与所得などの合計額が一定条件下で65万円以下となる人が対象となる。認定職業訓練などの職業訓練法人で、職業能力開発促進法に規定における課程を履修させている学校の生徒に対しても、この勤労学生控除は適用される。勤労学生控除額は年間27万円となっている。

災害被害や盗難・横領被害などで適用 雑損控除

「雑損控除」は聞いたことがない人も多い所得控除の一つであるとも言える。災害や盗難などで被害を受けた場合は、その被害額などに対して所得控除を受けることができる。適用されるのは、震災や風水害、冷害などの自然災害のほか、火災などの人為的災害、害虫などによる災害、盗難・横領被害などで、詐欺や恐喝による被害はこの雑損控除では所得控除されない。

雑損控除の算定には「差引損失額」をまず計算する必要がある。この差引損失額は「損害金額」と「災害等に関連したやむを得ない支出の金額」の合計額から、「保険金などにより補てんされる金額」を差し引いて計算される。実際の控除額は、この差引損失額から「総所得金額等の10%」を引いた金額と、差引損失額のうちの災害関連支出額から5万円を差し引いた金額のどちらか大きい金額のほうとなる。(岡本一道、金融・経済ジャーナリスト)