医療費控除の制度には、確定申告の所得控除を通じて、個人の税負担を軽減させる効果がある。これは確定申告が必要となり少々手間がかかるものの、ぜひ活用したいものだ。ここでは、医療費の支払額がいくらから控除の対象となるのか、その控除額の計算方法を説明する。また、医療費控除の結果として、還付金額がいくらから入るのか、セルフメディケーション制度を使った場合の控除額がいくらからか、知っておこう。

村上 章
村上 章 (むらかみ あきら)
事業承継コンサルティング株式会社
中小企業診断士(台東区中小企業診断士会長)・行政書士
経営管理体制の構築、後継者教育などの事業承継支援、商店街活性化支援を中心として、長年にわたり中小企業の経営コンサルティング業務に従事する。テクノアルファ(上場)監査役、ソフトブレーン(上場)取締役として上場企業の経営管理にも精通する。現在、当社にてPanasonic事業承継プロジェクト・チームを率い、全国8千店舗のパナソニック・ショップの事業承継の支援を行う。また、台東区役所、東京商工会議所等の経営相談員や専門家派遣など各種公的機関にて事業承継支援に従事している。事業承継に関するセミナー講師を多数行う。著書に「事業承継ガイドライン完全解説」がある。

医療費控除はいくらから適用できる?

医療費控除
(画像=PIXTA)

医療費控除がいくらから発生するか、その計算方法を知る前に、医療費控除の対象となる医療費とは何か、その範囲を明確にしておきたい。その上で、医療費控除の金額の計算方法を説明する。

●医療費控除の対象となる医療費とは

医療費控除の対象となる費用は、治療のために必要な行為や物に対して支払われたものである。予防や美容を目的とする診察や治療では対象にならない。

具体例を見ていこう。わかりやすいものとして、医師や歯科医師に支払った診察費や治療費が対象となる。治療することになれば、お薬を飲むだろうから、医薬品の購入費も対象となる。また、入院した場合は病院へ支払った入院費用、産婦人科の場合、助産師による分娩の介助費用も対象となるし、歯科では矯正治療などの高額な治療も、医師からの診断書があれば、医療費控除の対象となる。

そして、診療や治療、施術の介助を受けるために必要なものとして、入院中の部屋代や差額ベッド代、病院へ行くときに支払った電車やバスの運賃などがある。

さらに、介護保険制度のもとで支払った施設・居宅サービス費用の自己負担費用、治療のためのあん摩マッサージ指圧、はり・きゅう、柔道整復師などの施術費も対象となる(ただし、体調を整えるためだけの施術は対象とならない。)

加えて、病院や薬局等へ支払った治療費以外にも、薬局で購入したお薬代も対象となる。6か月以上寝たきりの高齢者であれば、おむつ使用証明書があれば、おむつの購入費用も医療費控除の対象になる。

そして、高額になる不妊治療の費用などは、健康保険の適用ができなくとも、医療費控除の対象にはなる。人間ドックを受けて異常所見が見つかった場合には、人間ドックの費用が医療費控除の対象となる。

医療費控除の対象になるかどうか判断に迷うときは、最寄りの税務署や税理士に確認していただきたい。

医療費控除の対象例 医療費控除の対象外例
○ 医師や歯科医師に支払った診察費や治療費
○ 病院へ支払った入院費用
○ 治療の際の医薬品の購入費
○ 入院中の部屋代・差額ベッド代・通院時に支払った電車やバスの運賃など
○ 助産師による分娩の介助費用や歯科医による矯正治療
○ 施設・居宅サービス費用(介護保険制度のもと)
○ 人間ドック(異常が見つからなかった場合)
○ 特定健康診査(異常が見つからなかった場合)
○ 病気の予防や健康増進用途の医薬品(ビタミン剤等)
○ 自家用車で通院する際のガソリン代や駐車場料金
○ 眼鏡・コンタクトレンズの購入費用(治療のために必要と判断された場合、控除対象)

(参考 : 国税庁 医療費控除の対象となる医療費 を元に編集)

●医療費控除の対象は?

所得税の確定申告を行う場合、医療費控除の制度の対象となるのは、支払った医療費の全額ではない。以下の2つの基準によって対象金額が計算される。

納税者の総所得金額 いくらから医療費控除の対象となるか
総所得金額が200万円未満 医療費合計額のうち、【総所得金額×5%】を上回る部分
総所得金額が200万円以上 医療費合計額のうち、【10万円】以上の部分

計算方法であるが、個人の総所得が200万円未満の場合は、支払った医療費が10万円以上とならない場合であっても、総所得の5%を超えた分の金額を医療費控除の対象とすることができる。

ちなみに個人の総所得というのは、収入額とは異なり、事業所得の経費や給与所得控除などを差し引いた後の「所得金額」のことを意味する。収入ベースで年収300万円であっても、所得控除後の総所得は200万円以下になることもあろう。

●確定申告における医療費控除の計算

医療費控除の手続きの結果として還付される金額は、支払った医療費全額ではない。税法の定めた計算式によって算出される金額である。ここでは総所得200万円以上か200万円未満かによって計算式が大別される。

まず、総所得が200万円以上の場合、支払った医療費が10万円以上で医療費控除を受けることができる。すなわち、申告する年度の1月から12月までの1年間で支払った医療費の合計額(社会保険の補填金は相殺する)、10万円を差し引いた金額が、医療費控除の金額として計算される。

これに対して、総所得が200万円未満の場合、総所得の5%を超えた部分で医療費控除を受けることができる。すなわち、申告する年度の1月から12月までの1年間で支払った医療費の合計額(社会保険の補填金は相殺する)から、総所得の5%相当額を差し引いた金額が、医療費控除の金額として計算される。 最後に、医療費控除の対象となる金額がいくらからとなるのか、わかりやすいように表にしておこう。

医療費控除による還付金額はいくらから戻るか

医療費控除の還付金をもらうとすれば、いくらになるか、また還付金をもらうために必要な書類は何か、説明しよう。

●確定申告における医療費控除の計算

医療費控除の対象となる金額を算出することができれば、この金額に対して所得税率を乗じると税額が計算できる。すなわち、医療費控除を行ったことによって、所得税や住民税がいくら還付されるのか、還付金額を計算することができる。

所得税については、国税庁のホームページに税率表が掲載しているので、それを参照していただきたい。また、住民税は原則として10%である。

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円〜1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円〜3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円〜6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円〜8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円〜17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円〜39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円以上 45% 4,796,000円

(参考 : 国税庁 所得税の税率 より)

たとえば、総所得200万円以上のケースの計算例を想定してみよう。10万円の計算が行われる。

支払った医療費の年間合計額が40万円、補てん金額が5万円の場合、40-5=35万円となる。そこから、10万円を差し引くと25万円だ。仮に課税所得金額が500万円とすれば、所得税の限界税率が20%であるので、25万円の20%で5万円が還付金額ということになる。

還付される金額が数万円~数十万円になることが多いので、家計にとって大きなプラスである。いくらから医療費控除を受けることができるか、きちんと把握できていれば、得をするということだ。

●医療費控除を行う確定申告における必要書類

医療費控除の適用を受けるためには、確定申告が必ず必要である。サラリーマンであっても必要となるのだ。

しかし、医療費控除を行う確定申告に必要な書類は、自営業者とサラリーマンでは異なっている。

まず、自営業者の場合であるが、必要書類は以下の3つである。

自営業者の必要書類
・確定申告書B
・医療費控除の明細書
・協会けんぽ等から送られてくる医療費通知書

ここで確定申告書Bや医療費控除は、Freeeなどの税務ソフトで作成することができるし、書面で申告するのであれば、税務署で用紙を入手することができる。

医療費通知は、協会けんぽや健康保険組合等から送られてくるものだ。この医療費通知書を確定申告書に添付して提出すれば、医療費の領収書の添付は不要となる。

これに対して、サラリーマンの場合であれば、必要書類は以下の4つである。

サラリーマンの必要書類
・確定申告書A
・医療費控除の明細書
・給与所得の源泉徴収票
・協会けんぽ等から送られてくる医療費通知書

自営業者と同様であるが、確定申告書や医療費控除の明細書は、Freeeなどの税務ソフトで作成することができるし、書面で申告するのであれば、税務署で用紙を入手することができる。

また、サラリーマンの場合は、所得金額、扶養控除、社会保険料控除などの金額は、源泉徴収票に記載されている数字を確定申告書へ転記すればよい。給与所得以外にも所得がある場合、ふるさと納税などの寄付金控除がある場合には、それらも記載することになるだろう。

医療費控除のセルフメディケーションはいくらからか

病院等に支払った医療費合計額に基づいて医療費控除を計算することができた。この医療費控除には、実はもう一つ方法がある。それがセルフメディケーション制度である。

この制度は、定期健康診断を受けている人で、年間1万2千円以上の要指導医薬品および一般用医薬品(市販されているお薬)を購入した場合に適用することができる医療費控除の特例である。ここで対象となるお薬は、厚生労働省が公表している「セルフメディケーション税制対象品目一覧」で確認してほしい。

通常の医療費控除の場合、10万円以上を医療費に支払っていないと(総所得200万円以上の場合)確定申告することはできないが、セルフメディケーション制度を適用するならば、その基準となる金額が12,000円以上という水準まで引下げられる。市販の医薬品を購入していればよいというわけだ。

ただし、セルフメディケーション制度を適用した所得控除額は、88,000円という上限があるため、全額を控除できるわけではない。

通常の医療費控除か、セルフメディケーション制度か、いずれの所得控除の金額が大きいか比較したうえで、有利な方を選択して確定申告しなければいけない。

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