所得税法の改正により、2018年分から配偶者控除や配偶者特別控除の所得要件が変わる。「103万円の壁」「141万円の壁」などといわれてきたが、「201万円」などと報じられているのを見た人も多いだろう。これは税制改正によって給与所得控除額78万円を加えた年間給与収入201万円まで控除の対象が広げられるためだ。これを機に、配偶者特別控除額の計算に終始して、勤務時間を調整するばかりではなく、より前向きに配偶者特別控除を捉えて生かす方法について考察したい。

菅野陽平
菅野陽平
株式会社ZUUM-A取締役。日本最大級の金融webメディア「ZUU online」副編集長。経営者向けメディア「THE OWNER」編集長。幼少期より学習院で育ち、学習院大学卒業後、新卒で野村證券に入社。リテール営業に従事後、株式会社ZUU入社。メディアを通して「富裕層の資産管理方法」や「富裕層になるための資産形成方法」を発信している。自身も有価証券や不動産を保有する個人投資家でもある。プライベートバンカー資格(日本証券アナリスト協会 認定)、ファイナンシャルプランナー資格(日本FP協会 認定)保有。

配偶者特別控除は配偶者控除枠を超えた人が対象

配偶者特別控除,節税,確定申告
(画像=PIXTA)

配偶者控除の「所得」要件 「103万円の壁」と呼ばれるゆえん

配偶者控除では、「配偶者の年間所得の合計が38万円以下、または給与収入だけであれば103万円以下」が対象要件となっており、要件を満たしている場合、年間38万円の控除が受けられる。これがいわゆる「103万円の壁」である。

2018年分からは、納税者の年間合計所得が900万円超1000万円以下の場合は段階的に控除され、年間合計所得が1,000万円超では配偶者控除の対象外となる。

2018年から何がどう変わるのか

配偶者特別控除は、配偶者控除の枠(年間合計所得が38万円以下、または給与収入だけなら103万円以下)を“超えた所得がある場合の控除を目的として”設けられている。

2018年分から「配偶者の年間所得の合計が38万円超123万円以下」のように、控除対象要件の上限額が、従来の76万円未満から変更になる。

年間所得の上限額については、給与収入だけの場合、これまでは給与所得控除額65万円を加えた年間給与収入141万円が「141万円の壁」として知られていた。これが、税制改正によって給与所得控除額78万円を加えた年間給与収入201万円まで控除の対象が広げられることになった。

配偶者特別控除の対象要件のうち、配偶者の年間合計所得38万円から上限額までの部分については、9段階に分けて控除額が設定されている。

従来から、納税者の年間合計所得が1,000万円超の場合は配偶者特別控除の対象外であったが、2018年分からは、納税者の年間合計所得が900万円超1,000万円以下の場合も、3区分した上で段階的に控除されるようになる。

この結果、納税者の年間合計所得が900万円以下であれば、配偶者の年間合計所得が38万円超から85万円以下で38万円の配偶者控除が受けられるようになる。

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控除額が減るだけでなく住民税や社会保険料ものしかかる

配偶者特別控除の対象範囲である年間給与収入103万円超から201万円以下には、住民税非課税枠の100万円、社会保険料支払いラインの130万円も含まれている。そのため、配偶者特別控除対象者といえども、控除額の減額、住民税の納税、社会保険料の支払いの3つが重なって、“働き損”と感じる人がいるのもこの層の特徴だ。

主にパートタイムやアルバイトで家計を補っている妻や夫たちは、自分の時給と見込み労働時間、住民税、所得税、社会保険料の計算を月々繰り返している。その計算結果から、配偶者の年収と配偶者特別控除額を見比べて、自分自身の働き方を模索しているのが現状だろう。

2018年からは控除額が配偶者の所得だけでなく納税者の年間所得に応じて変わる

2018年以降分の改正は対象者にとっては大きなインパクトがある。事実、配偶者の年間所得による段階別控除額と、納税者の年間所得による段階別控除額、二つの段階別控除の適用によって、前年より世帯収入が減ってしまうように見えるため、配偶者は労働時間を今まで以上に減らさなければならないと考えがちだ。

配偶者特別控除の最低額は1万円である。この控除額の対象は、納税者の合計所得金額が950万円超から1,000万円以下であり、あわせて配偶者が年間合計所得の上限額である123万円の収入を得る場合である。これは、給与収入にすると、給与所得控除額を加えた201万円に相当する。

給与収入201万円というのは、本当に“働き損”になってしまうのだろうか。どれほど働けば、この収入に到達するのか、まずシミュレーションにより確認しておきたい。

以下において、夫が会社員、妻がパートタイムで働く従業員であると仮定する。

時給が960円の場合(東京都の最低賃金に相当)

1日6時間労働、週5日勤務であれば、おおよそ月11万5,200円の給与収入になり、年間給与収入は138万2,400円となる。夫の年間所得金額は800万円とする。

・住民税……年間給与収入100万円超のため課税対象となる

自治体により多少の違いはあるものの、住民税(均等割・所得割)の課税対象は年間給与収入100万円超となるのが一般的である。このケースは、医療費控除等で所得割がゼロになる可能性はあるものの課税対象である。

・所得税……年間給与収入が103万円を超えるため課税

所得税は年間給与収入が103万円を超えると課税される。この場合は、妻の年間給与所得138万2,400円から65万円の給与所得控除と基礎控除38万円を差し引いた年間合計所得35万2,400円に5%の税率で課税される。

・社会保険料……月収8.8万円以上・年間給与収入約106万円以上のため該当

社会保険料の負担、言い換えると被扶養認定基準は月収8万8,000円以上・年間給与収入約106万円以上(事業所の規模や本人の労働時間によって違いがある)であるので、これにも該当する。

・配偶者特別控除

給与所得控除額を差し引いた年間合計所得は82万9,400円となり、夫の年間合計所得が800万円であることから、上限の38万円が控除される。

時給が1,100円の場合(パートタイム・アルバイトの平均的な時給)

1日6時間労働、週5日勤務すると、おおよそ月13万2,000円、年間給与収入は158万4,000円となる。夫の合計所得金額は980万円とする。

・住民税……対象となる

年間給与収入は100万円超であるため、住民税(均等割・所得割)の課税対象になる。

・所得税……55万4,000円に5%課税

この場合、年間給与収入は158万4,000円から給与所得控除65万円と基礎控除38万円を差し引いた年間合計所得55万4,000円に5%の税率で課税される。

・社会保険料……扶養家族に該当せず保険料負担あり

年間給与収入106万円以上であるため、扶養家族には該当せず、社会保険料の負担がある。

・配偶者特別控除

給与所得控除額を差し引いた年間合計所得は94万8,000円である。夫の年間合計所得が980万円であることから、11万円が控除される。

配偶者特別控除枠内で、アルバイト・パートタイムで働く場合の労働時間

最低賃金から平均的な時給程度、例えば、1日6時間、週5日勤務しても、年間合計所得に対して最低税率5%の所得税しか課税されない。地方税や社会保険料にも大きな差は出ない。

夫の年間合計所得が1,000万円を超えていれば、2017年以前から配偶者特別控除の対象ではなかったため、妻が勤務時間を調整する必要はないと考えてよいだろう。

夫の年間合計所得が1,000万円以下であると、二重構造の段階別控除になり配偶者特別控除額が2017年分より減額される場合もあるため、その影響はゼロではない。上の2例を見ても、控除額には27万円の開きがある。夫の年間合計所得が1,000万円で、妻の年間合計所得が123万円、つまり給与所得控除を加えた年間給与収入が201万円になると控除額は1万円で、その差は37万円となる。

控除の範囲内で収入をあげるにはどうすればいい?

アルバイトやパートタイムで働く場合、上述2例以上の年収を得ようとすると、1日1時間ずつ勤務時間を増やして年間およそ250時間、時給960円で年間24万円、時給1,100円で27万5,000円の増収になる。時給1,100円の場合でも、配偶者特別控除の対象となる年間給与収入の上限201万円に届くかどうかの水準である。

時給1,100円のまま、1日3時間ずつ勤務時間を増やしてみると、配偶者特別控除の対象から外れはするものの、年間給与収入として237万6,000円程度を確保することはできる。

つまり、1日に数時間勤務時間を増やしたところで、この層は控除額が最低ラインの1万円であるため、配偶者特別控除枠から外れても、それほど大きな影響を受けることがないかわりに、年収が劇的に増えることもない。

ここで取り上げた2例は、配偶者特別控除対象となる層のうち、控除額の上限38万円と下限1万円となり得る世帯であった。2例には確かに控除額の上では大きな開きはあるが、まったく別の世帯の家計のことなので、両者を比較すること自体には意味がない。

妻の時給が960円の世帯、妻の時給が1,100円の世帯、それぞれ別々に見ても、もともと住民税や社会保険料などが妻の給与から天引きされているので、少々の勤務時間の調整をすることによる大きな影響は見られないかもしれない。

結論として、勤務時間の調整のため念入りな計算を繰り返すより、無理のない範囲で1時間、2時間と労働時間を増やして家計の足しにすることをためらう必要はないと考える。

控除の枠を大きく超える場合の計算は念入りに

配偶者特別控除として上限額38万円が控除される世帯では、翌年以降の配偶者の働き方を大きく見直す必要はないかもしれない。

しかし、配偶者特別控除額1万円の対象世帯では、翌年以降の大幅な働き方の見直しは、控除額や各種手当の計算など、慎重にシミュレーションしたほうがよいだろう。

日勤より時給が高い早朝や夜勤、休日シフトを定期的に入れたり、時給の大幅アップがあったりすると、その影響は少なくない。所得金額195万円超330万円以下の税率は10%で、9万7,500円の控除はあるものの、税額は9万4,500円にも上る。

しかし、課税される所得金額が195万円超330万円以下とは、38万円の基礎控除と最低額65万円以上の給与所得控除を考慮すると、約300万円以上の年間給与収入がなければならず、賞与等が支給されないアルバイトやパートタイムでの就労で実現できる所得金額ではないだろう。

配偶者特別控除対象者に「働き損」はない?

2018年分から配偶者特別控除が見直されるのを受けて、配偶者特別控除や各種手当て、税額の計算に多くの時間と労力を費やしている人もいるかもしれない。それに対して得られる控除額や利益幅は決して大きいとはいえない。

前述のシミュレーションから分かるように、配偶者特別控除の対象となる層の人にとっては、正社員になるなど待遇面で大きな変化がない限りは、目先の利益を確保するために勤務時間調整の計算に明け暮れるより思うまま働いてもいいと言えそうだ。(ZUU online編集部)

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