2020年分の年末調整から書類の書き方が難しくなった。どのように変わったのか、注意点を解説する。
2020年分の年末調整の書類は2つから3つに
2020年分の所得税の仕組みの変更に伴い、年末調整に必要な書類は今年から以下の3つに増えた。
- 扶養控除等(異動)申告書
- 基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
- 保険料控除申告書
さらに、住宅ローン控除2年目の人は「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」も必要だ。
【令和1年分と令和2年分の提出書類の違い】
令和1年分 | 令和2年分 |
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年末調整書類を書く際の注意点
扶養控除等(異動)申告書
書き方は従来とほとんど変わらない。強いて言えば、「同一生計=同居していなければならない」ではない、ということだ。別居でも送金で家族を扶養していれば、同一生計親族となる。ただし扶養している家族が海外にいる場合、送金や親族関係の証明が必要になる。
このほか、障害者控除の対象が扶養親族なら所得要件は問われないこと、対象が配偶者なら所得要件に注意すること、勤労学生控除の所得要件が変わったことにも留意したい。
基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
書き込むのに一番混乱する書類だ。まず基礎控除・配偶者(特別)控除・所得金額調整控除はそれぞれ条件が違うことを意識しよう。
基礎控除は、これまで何もしなくても適用されていた項目だ。今年から「書かないと適用されない」制度になった。
配偶者控除・配偶者特別控除は、配偶者の収入額だけでなく本人の合計所得金額も差し引ける額に影響する。書類の表で確認しよう。
所得金額調整控除の要件は、「扶養している子が23歳以下」「本人・同一生計配偶者・扶養親族の誰かが特別障害者」だけだ。扶養親族や配偶者の合計所得金額は48万円以下でなくてよい。扶養控除の対象外である16歳未満も含まれることや、本人の合計所得金額が1000万円超でも控除できるなど、制度が違うことに注意しよう。
【参考】
令和2年分 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
保険料控除申告書
保険料控除申告書は、生命保険料や地震保険料、iDeCoなどの小規模企業共済等掛金控除に必要な書類だ。これも従来と変わらない。あえて挙げるなら生命保険料・地震保険料の区分に注意しよう。社会保険料については国民年金保険料だけが証明書の添付を求められる。
2020年分の年末調整の書き方が一気に難しくなったワケ
「今年の年末調整は難しくなった」という声をよく聞く。難しくなった背景には次のような事情がある。
●税制改正で2020年分の所得税が変わった
共働き世帯の増加や働き方の多様化に伴い、従来の所得控除の仕組みが実態に合わなくなってきた。この状況を鑑み、課税をより公平にするため、2018年度と2020年度の税制改正で所得控除の仕組みが細分化された。どちらも今年分の所得税から反映される。
【関連記事】
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●所得税の変更で年末調整の書類が難しくなった
税制改正によって、年末調整に必要な書類が増えた。これまでは、年末調整のベースとなる書類は「扶養控除等(異動)申告書」と「保険料控除申告書」の2つだった。2020年分からは「基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」が加わる。控除額が細分化された項目もあるので慎重に記入する必要がある。
2020年分の所得税で新たに始まったもの
今年の所得税で新たに次の2つの控除が始まった。年末調整では注意しておきたい。
(1)ひとり親控除
従来の寡婦(寡夫)控除では、死別・離別の違いや性別によって控除額が異なっていた。また未婚の親には控除がなかった。
今年分から婚姻歴や性別に関係なく、本人が以下の条件に合うシングルペアレントなら35万円の所得控除が受けられるようになった。
1. 事実婚の相手がいない
2. 生計同一の子がいる
3. 2の子の総所得金額等(おおよそ年間の所得合計額)が48万円以下であり、他の人の控除対象となっていない
4. 本人の合計所得金額が500万円以下である
後述するが寡婦控除も制度が変わった。要件に合えば27万円の所得控除ができる。
(2)所得金額調整控除
「給与所得者が23歳未満の親族を扶養している」「自分か家族が特別障害者に該当する」場合、年収額に見合った金額を所得から差し引ける制度だ。年収850万円超の給与所得者が対象で、控除額は次の式で計算する。
(給与等の収入金額-850万円}×10%
ただし、収入金額は1000万円が上限だ。算出した金額に1円未満の端数が生じたら切り上げる。
2020年分の所得税で変更になったもの
今年から既存の制度の一部が以下のように変更された。書類記入時に注意が必要だ。
●給与所得控除額の引き下げ
給与所得控除は給与年収の額に応じて一定額が差し引かれるものだ。いわゆる「サラリーマン経費」である。この金額が今年分から一律10万円ずつ少なくなる。給与年収850万円超の場合、給与所得控除は一律195万円となる。
●基礎控除の変更
昨年までは要件に関係なく誰でも一律38万円を所得額から差し引けた。今年から本人の合計所得金額に応じて次のように控除額が変わる。
・2400万円以下……48万円
・2400万円超2450万円以下……32万円
・2450万円超2500万円以下……16万円
・2500万円超……0円
●各種所得控除の合計所得金額要件の変更
本人や家族の属性によって所得控除となる項目の合計所得要件が変わった。具体的には次のようになる。
・扶養控除……扶養親族の合計所得金額が48万円以下
・勤労学生控除……本人の合計所得金額が75万円以下
・障害者控除……対象が同一生計配偶者なら合計所得金額48万円以下
・配偶者控除の38万円控除……配偶者の合計所得金額が48万円以下
・配偶者特別控除の38万円控除……配偶者の合計所得金額が95万円以下
所得ベースでの条件は変わったが、収入が給料だけなら影響はない。既述の給与所得控除の引き下げと相殺すると、給与ベースでの基準は昨年までと同じなのだ。つまり「103万円以下」「150万円以下」といった条件で考えればよい。
ただし、配偶者控除・配偶者特別控除の控除額そのものは家計の支え手である本人の合計所得金額も決定要素となるので注意したい。
【参考】
配偶者控除(国税庁)
配偶者特別控除(国税庁)
●寡婦控除の変更
既存の寡婦(寡夫)控除はひとり親控除に統一された。ただし扶養親族となる子がいない場合、まったく控除が受けられないわけではない。合計所得額が500万円以下の女性ならば、扶養親族が子以外や、いない場合でも、27万円を所得額から差し引ける。
もしも間違いに気づいたら
提出した書類の内容に間違いや変更が生じることがある。「年末に家族が亡くなった」「控除対象の配偶者と年末に離婚した」などだ。このようなときは、次のいずれかで対処する。
・年末調整をやり直す
・自分で確定申告を行う
年末調整は年末や年明けの給料で所得税を精算するだけではない。「各種法定調書を作成して管轄の税務署に提出する」「市区町村に給与支払報告書を提出する」などもある。いずれも期日は翌年の1月末日だ。
会社に事情を伝えれば、年末調整をやり直してくれるかもしれない。ただ会社によってはやり直しが難しい場合もあるので、そのときは各自で確定申告をする必要がある。
確定申告の注意点
確定申告をする際は以下の点を押さえよう。
申告期限
確定申告の申告期間は、申告年分の翌年2月16日から3月15日までだ。申告期間の始まりの日と終わりの日が土日祝日にあたるなら、その次の最初の平日が期日となる。
一方、還付は申告年分の翌年1月1日から5年間、申告が可能だ。ただし遅く申告すると「所得税は節税できたが住民税は節税できない」状態になる。できれば納税と同様、3月15日までに済ませたい。
●必要書類
確定申告書とマイナンバー関連書類はどの申告でも必須だ。
確定申告書第一表・第二表にはAとBがある。Aは主に給与所得者・年金受給者用でシンプルな構造だ。Bはすべての所得に対応している。迷ったらBを選ぼう。
マイナンバー関連書類は「マイナンバーカード」か「通知カード+身分証(運転免許証など)」のどちらかが必要だ。税務署に直接提出する場合、原本を持参すればよい。郵送の場合、「マイナンバーカードの表・裏両方のコピー」か「通知カード・身分証両方のコピー」の添付が必要だ。
また申告内容によって添付書類が異なる。e-taxで申告する場合、添付書類はPDFで送るが、省略できるものもある。以下のリンクを確認してほしい。
【参考】
申告書に添付・提示する書類(国税庁)
イメージデータで提出可能な添付書類(国税庁)
e-taxでの確定申告における添付省略制度について(国税庁)
●納付・還付の方法
納付は税務署や金融機関の窓口で現金納付するほか、コンビニ決済やクレジットカード決済もできる。コンビニ決済は納税額30万円以下が対象だ。詳しくは以下のリンクを参考にしてほしい。
【参考】
クレジットカード納付の手続
コンビニ納付(QRコード)
このほか、口座振替でも納付できるが、事前の手続きが必要だ。
還付では、申告書の第一表右下に還付先の金融機関口座を記入するのが一般的だ。還付される時期は通常、申告してから2週間から1ヵ月半後となる。納税者本人の口座以外では受け取れないので注意しよう。
どうして今年から年末調整の書き方が難しくなったの?
2018年度と2020年度の税制改正で給与所得に関する所得税の仕組みが大きく変わったからだ。具体的には、「給与所得控除の引き下げ」「基礎控除の変更」「所得金額調整控除の創設」「一部控除の合計所得金額要件の見直し」「ひとり親控除制度の創設」がある。
2018年度と2020年度の税制改正で給与所得に関する所得税の仕組みが大きく変わったからだ。具体的には、「給与所得控除の引き下げ」「基礎控除の変更」「所得金額調整控除の創設」「一部控除の合計所得金額要件の見直し」「ひとり親控除制度の創設」がある。
年末調整の種類が増えたって本当?
2020年分の所得税の仕組みの変更に伴い、年末調整の書類は次の3種類に増えた。
・扶養控除等(異動)申告書
・基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
・保険料控除申告書
住宅ローン控除2年目以降の人は「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」も提出しなくてはならない。
2020年分の所得税の仕組みの変更に伴い、年末調整の書類は次の3種類に増えた。
・扶養控除等(異動)申告書
・基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
・保険料控除申告書
住宅ローン控除2年目以降の人は「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」も提出しなくてはならない。
年末調整の書類の書き方で特に注意すべきところは?
3つある。1つ目は基礎控除が「書き込まないと適用されない」制度になったことだ。2つ目は所得金額調整控除の条件が他の控除制度と混同しやすいこと。3つ目はひとり親控除が既存の寡婦・寡夫控除を引き継いではいるものの、従来のように性別や婚姻歴を問われなくなったことだ。
3つある。1つ目は基礎控除が「書き込まないと適用されない」制度になったことだ。2つ目は所得金額調整控除の条件が他の控除制度と混同しやすいこと。3つ目はひとり親控除が既存の寡婦・寡夫控除を引き継いではいるものの、従来のように性別や婚姻歴を問われなくなったことだ。
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