納税者は税の控除の手続きを国に対して行うが、住民税を納める地方公共団体には特に行わない。手続き内容は反映されるが、住民税には“地域社会の会費”という性格があるため控除額が異なる。その結果、住民税の有無や受けられる行政サービスに影響することもある。

鈴木まゆ子
鈴木まゆ子
税理士・税務ライター
中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

住民税と所得税とで控除額が同じもの

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(画像=PIXTA)

税には個々の納税者の事情に合わせて額を調整する仕組みがある。所得控除もその一つだ。国税である所得税でも、地方税である住民税でも所得控除はある。所得控除とは、課税対象となる所得の合計額から認められた額を差し引くものだ。

所得税で所得控除を受けるには、会社が源泉徴収時に計算するものは会社に申告し(扶養者の有無や生命保険等の加入状況など)、医療費控除など会社が行わないものは確定申告で税務署に申告する。

一方で、住民税の所得控除を受けるために、個人が納付先の地方公共団体に申告する必要はない。所得税で申告した内容が住民税の納付先の地方公共団体に届けられるからだ(例外として、ふるさと納税でワンストップ特例制度を使う場合は、各ふるさと納税先の地方公共団体に特例の適用に関する申請書を提出する必要がある)。

所得税法で定められた14種類の所得控除と住民税で認められるものとでは、寄付金控除を除いて項目は一致する。ただ住民税の控除額のほうが小さいものもいくつかある。所得控除のための申告は同じでも、受けられる控除額が異なるのだ。

控除の結果、所得税では納税額がゼロか少額になるものでも、住民税では思ったより多く払わなくてはならないこともある。そこで慌てないよう控除額の違いを把握しよう。

所得税と住民税の控除額が同じなのは4種類だ。社会保険料控除と小規模共済等掛金控除は前年中に支払った額がそのまま所得控除の対象となる。医療費控除や雑損控除も、控除額の計算式は所得税と住民税で同じだ。

住民税と所得税と控除額が違うもの

所得控除の額が所得税と住民税で異なるものもある。それは住民税が“地域社会の会費”という性質を持つからといわれている。

例えば、教育や福祉、消防活動やゴミの処理など、暮らしに身近な行政サービスは地方公共団体が行っている。地域の行政サービスを充実させるには財源を十分に確保しなくてはならないが、その財源は行政サービスを享受する地域住民が「税金」という形で分かち合うべきものとされている。

地方公共団体の重要な税金の一つが住民税だ。だが地方税である住民税を納めるべき人数は国税である所得税よりも圧倒的に少ない。

つまり所得税以上に住民税は「行政サービスを受けるための会費」としての性質が強い。行政サービスを十分かつ安定的に行うためには豊富な財源が必要となる。そのため、住民税の所得控除は所得税と同じ種類だけあるが、額はより小さくなることが許容されているのだ。

所得税と住民税では、所得控除の中でも人的控除と呼ばれるもので異なることが多い。まず誰にでも認められる基礎控除が異なる。2018年度は、所得税の2017年の所得控除が38万円だったのに対し、住民税は33万円と5万円少ない。

2020年から所得税の基礎控除額は10万円多くなり、合計所得額が多ければ多いほど控除額が減る。それに伴い、2021年分の住民税も連動する部分が改正される。

具体的には次のように変わるのだ。

【合計所得金額】……………【基礎控除額】

2400万円以下………………………43万円
2400万円超2450万円以下…………29万円
2450万円超2500万円以下…………15万円
2500万円超……………………………0円

その他の人的控除では、障害者控除の額も異なる。所得税の障害者控除額が27万円の人でも、住民税の控除額は26万円だ。また障害の等級1、2級の特別障害者として所得税で40万円の控除が認められた人の住民税所得控除額は30万円で、同居している場合などで所得税の控除額が75万円の人は住民税では53万円の控除となっている。

寡婦(寡夫)控除の額も異なる。本人の立場(女性か男性か)、扶養家族の有無、結婚歴の有無や合計所得額によって違う。所得税の控除額が27万円の人は住民税では26万円、所得税で35万円控除される人は30万円の控除となる。

扶養控除も16歳以上の一般の扶養親族なら所得税で38万円の控除だが、住民税では33万円だ。19歳以上23歳未満の特定扶養親族は所得税で63万円の控除で、住民税では45万円の控除となる。70歳以上の老人扶養親族は所得税で48万円(同居で58万円)、住民税では38万円(同居で45万円)だ。

生命保険料控除でも控除額が異なる。所得税では2012年以降に契約した一般の生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の控除最高額はそれぞれ4万円だが、住民税では2万8000円だ。

2011年以前に契約した一般生命保険料と個人年金保険料の控除最高額はそれぞれ5万円だが、住民税では3万5000円となる。地震保険料は、所得税では最高5万円だが住民税では2万5000円が最高額だ。

配偶者控除・配偶者特別控除は2018年に大きく変わった。後で詳しく述べるが、これも所得税での控除額の最高額が38万円であるのに対し、住民税では33万円と少ないことに変わりない。

なお、70歳以上の老人控除対象者は所得税で控除額の最高額が48万円に対し、住民税では38万円となる。配偶者控除・配偶者特別控除の要件は2020年以降、さらに変更が加わっている。

本人が勤労学生である場合、勤労学生控除が受けられるが、所得税では27万円で住民税では26万円となっている。

「ふるさと納税」は寄附金控除で行われる

寄附を行うと所得税では所得控除が受けられるが、住民税では税額控除が受けられる。所得控除は課税対象額から差し引くものだが、税額控除は納税額そのものが減る。住民税での基本控除額は寄附金から2000円を引いた額の10%が税額控除される。

この仕組みの中で、控除額についての例外として設けられたのが「ふるさと納税」だ。納税という名称だが、特定の地方公共団体に寄付をしたという形で取り扱われる。「ふるさと納税」では一定額までなら寄附金から2000円を引いた全額が寄附金控除として税額控除される。

正確に言えば、確定申告した場合は所得税での所得控除を受けた残りが住民税から税額控除され、確定申告しない場合(ワンストップ特例)にはすべてが住民税から控除となる。

どちらにしても「ふるさと納税」(寄附)をした金額の2000円を超える金額は、所得税の還付か住民税の減額という形で戻ってくる。自分が寄付をしたい地方公共団体に寄付することで自分の住む地方公共団体への住民税が減るので、納税先を変えたのと同じ効果が得られる。ただし、ふるさと納税だけに認められる特別な税額控除枠については、自分が住む地方公共団体への住民税の所得割額の2割までという上限があることに注意したい。