年末調整は、従業員・雇用主どちらの立場の人間にとっても大切な手続きだ。これを怠ると各種控除内であったはずの課徴税分について還付を受けられないほか、大部分の給与所得者にとっては年末調整=確定申告的な意味合いも強く、いずれにせよ重要な手続きであることに変わりない。
今回は年末調整によって具体的にどういった控除を受けられる可能性があるのかを紹介し、実際に年末調整を行う方法についても解説する。これまで年末調整を行っていなかった方も、ぜひ本記事を参考にチャレンジしていただければ幸いだ。
目次
そもそも年末調整とは
年末調整において調整される所得税だが、そもそも所得税は原則的に確定申告によって納税するものである。だが、1年間の所得すべてに対し一括で課税を行うとなると、その納税額は高額になり納税者にとって過大な負担となる。
また申告時期が重なることで税務署での対応も難しくなるため、これを解消する目的で源泉徴収制度が取り入れられた。源泉徴収義務者(給与の支払者)が納税者の代わりに所得税(源泉徴収税)を回収し、まとめて支払うことで双方の負担を緩和しているのである。
ただしここで回収された源泉徴収税は、あくまでもその段階における所得を基準として算出されたものであるため、実際の所得とは差が生じる。源泉徴収段階で想定された所得と、実際に1年間を通して得られた所得との差額について調整するのが年末調整だ。
多くの場合、年末調整を行うことでいくばくかの還付を受けられる。これは、所得税に認められている各種控除について、源泉徴収段階では基本的に考慮していないためだ。
所得控除の種類
所得控除にはさまざまな種類がある。以下、各控除を要件と共に羅列する。
基礎控除
要件はなし。所得税額の計算を行う際にすべての者が一律に受けることができる控除。控除額は38万円。
給与所得控除
要件は給与所得者であること。経営者(個人事業主)の場合は確定申告や事前の手続きによりほぼ同様の控除を受けることが可能。控除額は給与や年度に応じて変化するが、最低でも65万円の控除が受けられる。
配偶者控除
要件は控除対象配偶者がいること。控除対象配偶者とは、民法が規定するところの配偶者であること(内縁関係でないこと)。納税者と生計を共にしていること。配偶者の年間合計所得が38万円以下(給与のみの場合は給与所得控除と合わせて103万円以下)であること。青色申告者の事業専従者として給与支払を受けていないことなど。控除額は38万円。配偶者が70歳以上の場合は、老人控除の対象となり48万円の控除が受けられる。
配偶者特別控除
要件は配偶者控除のものに加え、配偶者の合計所得金額が38~76万円未満であること。控除額は非常に細かく区切られているが、所得金額により3~38万円の控除を受けることができる。
扶養控除
要件は控除対象扶養親族がいること。控除対象扶養親族とは、配偶者以外の親族、又は養育を委託された児童や養護を委託された老人であること。納税者と生計を共にしていること。所得等については控除対象配偶者と共通だが、控除対象扶養親族はこのうち16歳以上のものを指す。控除額は年齢や同居の有無等によって区分されるが、最低でも38万円の控除が受けられる。
寡婦(寡夫)控除
要件は納税者が寡婦(寡夫)であること。寡婦(寡夫)とは、合計所得金額が500万円以下であり、配偶者と死別、もしくは離婚した後婚姻をしていないもの。また生計を共にする子供がいること。厳密には寡婦と寡夫で税法上の範囲が異なるため、詳細は各自国税庁ホームページを参考にした。控除額は27万円、特定の寡婦控除については35万円の控除が受けられる。
障害者控除
要件は納税者自身、又は控除対象配偶者や扶養親族が障害者であること。障害の度合いや同居の有無等によって、所得税法上では障害者、特別障害者、同居特別障害者に分けられる。控除額は27~75万円。
勤労学生控除
要件は納税者自身が勤労学生であること。勤労学生とは、給与所得などの勤労による所得がある学生、生徒を指す。認められる機関には幅があるため、各学校の窓口で確認を取ることを国税庁でも推奨している。控除額は27万円。
社会保険料控除
要件は、社会保険料の支払いに限ること。納税者自身、また生計を共にする配偶者や親族の社会保険料についても支払った場合には、すべてが控除対象となる。控除額は、その年に実際に支払った金額、あるいは給与から差し引かれた金額の全額。
年末調整しても確定申告は必要なのか
冒頭でも触れたが、一般的な給与所得者は、基本的に年末調整を行うことで正しい所得税を納めるため確定申告は不要となる。しかし、一部受ける控除によっては別途申告が必要となる。また、給与等の条件によってはそもそも年末調整の対象とならないケースもある。まず年末調整の対象となるのは、会社に1年を通じて勤務、あるいは年末まで勤務している者だが、以下の場合は対象でない。
- 年末調整を行うときまでに扶養控除等(異動)申告書を提出していない者
- 1年間に支払われる給与の総額が2000万円を超える者
- 災害減免法の規定によって、所得税や源泉徴収税の徴収猶予や還付を受けた者
またそのほか、以下のような所得控除を受けようとする場合は別途確定申告書を提出する必要がある。
- 雑損控除(災害や盗難で資産に損害を受けたとき)
- 医療費控除(医療費を支払ったとき)
- 寄付金控除(一定の寄付金を支払ったとき)
- 住宅借入金等特別控除(マイホームの新築等によりローンを組んだとき)
※ただし住宅借入金等特別控除について申告が必要なのは初年度のみ。2年目以降は年末調整によって控除を受けることが可能。
申告漏れを防ぐために控除額をシミュレーションしてみよう
年末調整によって実際にどの程度控除が受けられるかをシミュレーションする際、計算する順番に気をつけなければいけない。所得控除は給与の総額に対して一括でかかるものでなく、段階的に差し引かれるものだ。
先に挙げたもので言うと、例えば配偶者控除は配偶者の所得が38万円未満であることが要件だが、この所得とは配偶者自身が受け取った給与に対し給与所得控除を適用したものを指す。これによって、最大で103万円までの給与を受け取る配偶者が配偶者控除の対象となり得るのである。以下に、流れを示す。
- (給与総額)-(給与所得控除)=(給与所得控除後の給与額)
- (給与所得控除後の給与額)-(各種控除)=(算出所得税額)
- (算出所得税額)-(住宅借入金等特別控除額)=(年調所得税額)
- (年調所得税額)×税率102.1%=(年調年税額)
- (年調年税額)-(徴収税額)=(年末調整金額)
給与所得控除については、その他各種控除よりも前段階で差し引かれる。これを理解するだけでも、各控除の要件を参照する上で混乱することを防げるのではないだろうか。
控除の申告漏れを防ぐには
数ある控除について、正しく申告するためには年末調整において用意されている書類やその書き方、添付する文書等を理解する必要があるだろう。
特に扶養控除等(異動)申告書は提出することが年末調整を受けるための前提条件となっており、欠かすことができない。また大部分の所得控除を対象としている申告書であるから、記入が漏れることのないように注意してほしい。
年末調整のために準備する用紙・書類
年末調整では、適用を受けたい控除によって記入・提出する書類が異なる。
- 扶養控除等(異動)申告書(配偶者控除、扶養控除など)
- 給与所得者の保険料控除申告書(各種保険料控除
- 給与所得者の配偶者特別控除申告書(配偶者特別控除)
- 保険料控除証明書(各種保険料控除)
- 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書(住宅借入金等特別控除を申告した翌年から)
書類の記入はマイナンバーに注意
書類によって書き方が異なるが、基本的には各書類の記入例を参考に、自身が関わりある部分を埋めていけば問題はない。ひとつ注意点があるとすれば、平成28年分からはマイナンバー(個人番号)の記載が必要となったということである。さらに平成28年年末調整に関しては、マイナンバー運用から初めての年末調整となる。マイナンバー記載だけでなく、マイナンバーカードのコピーや通知カードのコピーなど、確認書類の提出を行う必要がある。
このほか、保険料控除には保険料控除証明書が求められるように、控除によっては書類記入以外の書類が求められることも少なくない。生年月日等の簡単な個人情報を誤りなく記入することは当然として、控除に必要となる書類を用意することができなければせっかくの控除も適用されなくなってしまう。
年末調整は再調整が可能
記入漏れや申告漏れがあったとしても、最終期限までに再度申告を行うことで再調整(再年調)を行うことができる。年末調整は基本的に11月末ないし12月初頭には社員等に提出を求め、年末へ向けて随時事務作業を行っていくこととなるが、最終期限は1月31日となっている。
年末調整にこのような幅が設けられているのは、主に結婚や出産等によって扶養家族に変更があった場合などの対処のためだが、期間内であれば申告から漏れてしまった控除について再度申告をすることももちろん認められている。
年末に慌ただしく提出してしまったものの、後日適用される控除があったことに気付いた場合などは、諦めず再調整を試みると良いだろう。ただし再調整は勤務先にとって負担となるため、まずは担当者に相談することでスムーズに依頼できるはずだ。
それでも間に合わなければ確定申告をしよう
先に挙げた医療費控除や雑損控除などの、年末調整では処理されない控除を利用する場合はもちろん、申告漏れによって適用されなかった控除を再申告する目的で確定申告をするのもひとつの手だ。手間は相応に増えるが、控除額によっては十分検討の余地があるのではないだろうか。