本記事は、高田 一洋氏の著書『マンション売却の錬金術:「マンションを売りたい」と思ったら最初に読む本』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

マンション売却の錬金術
(画像=pic/stock.adobe.com)

価格戦略を見直せば売れ方は変わる

売却活動が思うように進まないとき、多くの人が「もっと動いてくれる担当者に変えたほうがいいのでは」と考えがちです。もちろん、担当者の誠実さや提案力は重要ですが、それ以上に結果を左右するのが「価格戦略」です。誰が売るかより、いくらで売るか。その見直しが、停滞した流れを一気に変えることがあります。

担当者を変えても、価格がずれていれば売れない

売却が長引いていると、「担当者の営業力が足りないのでは」と不安になる気持ちはよくわかります。しかし、売れない理由の多くは「物件価格が市場とかみ合っていない」ことにあります。内見の数や反響の量が明らかに少ない場合、原因は広告の見せ方ではなく、価格そのものにあることが多いです。
相場と比較して明らかに割高、周辺環境や築年数を考慮しても違和感のある価格設定では、いくら情報を広く届けても検討者の候補にすら挙がりません。価格のズレは、すべての努力を無効にしてしまうリスクを孕んでいます。

売却の軸は「担当者」より「戦略」

担当者を変えることで一時的にモチベーションが上がることもありますが、価格がずれたままでは何も変わりません。逆に、信頼できる担当者がいるのであれば、一緒に市場を分析し、現実的なラインを探る姿勢が重要です。
売主にとって不都合なことでも、きちんとデータを示して伝えてくれる担当者は、むしろ信用できます。「あと500万円下げれば反響が2倍になります」といった具体的なシミュレーションを提示されたら、ぜひ耳を傾けてみてください。

「希望価格」と「売れる価格」は違う

最後にあらためて確認したいのは、「この価格で売りたい」と「この価格なら売れる」はまったく別物だということです。たとえば、周辺相場が9,000万円のエリアで、思い入れやリフォーム費用込みで1億2,000万円を希望しても、買い手はそこを評価軸にはしません。
だからこそ、価格設定は希望ではなく戦略として冷静に見る必要があります。価格設定が最大の戦略決めです。

リセールの掟
売れない理由は人ではなく価格にもある。価格は成約を左右する最も強力な要素のひとつ。

不動産は人と仕組みの両方で選ぶ

売却成功のためには信頼できる担当者との出会いが欠かせないことをお伝えしてきました。たしかに、誰に任せるかという視点は、不動産売却を進めるうえで非常に重要です。ただし、ここであらためて強調したいのは、それだけでは不十分だという点です。
いくら担当者が誠実でも、不動産会社の方針や仕組みに問題があれば、売却活動が思うように進まないこともあります。不動産売却を任せる際は、「人」と「仕組み」の両方を見極める視点を持つことが、後悔しないための第一歩です。

会社ぐるみで囲い込む不動産会社に注意する

売主にとって注意したいのが、いわゆる囲い込みの問題です。これは物件を自社の顧客にだけ紹介し、他社からの問い合わせを受け付けないようにする行為を指します。表向きには「反響が少ない」と説明しながら、実際には他社を排除して自社内だけで売却しようとするケースです。
その結果、検討者の数が減り、価格交渉も不利になることがあります。売却活動の目的は、広く情報を届けて適正な価格で売ることです。こうした会社の都合によって可能性が狭められてしまうと、本来得られたはずのチャンスを逃すことにもつながります。

「片手仲介」の方針が、売却の妨げになることもある

片手仲介とは、売主または買主のいずれか一方とだけ取引するスタイルです。一方、両手仲介では売主と買主の双方から仲介手数料を受け取ります。売主から見るとどちらでもよさそうに感じるかもしれませんが、実際には不動産会社の対応に差が出ることがあります。
「うちは片手仲介しか行わない方針です」と公言する会社の場合、表向きの説明は公平に見えても、他社との連携が消極的になることがあります。また、他社に買主を探してもらう前提になりスピード感や積極性は鈍くなりますし、買主の本音がつかみにくく交渉時に必要な情報が不足します。

専門特化型の会社は選択肢として有力

一方で、専門性に特化した不動産会社が信頼できるパートナーとなることもあります。たとえば、タワーマンション専門、相続不動産専門、リノベーション済み物件専門など、領域を絞って深く掘り下げている会社は、独自の情報やノウハウを持っています。
大手ほどの知名度はなくても、地域密着型で丁寧な対応をしてくれる会社も少なくありません。物件の特性や売却の目的に合った会社を選ぶことができれば、結果として納得のいく取引につながります。

見た目の印象だけで判断せず、仕組みも確認する

売主にとって、担当者の人柄や対応の良さは大切な判断材料です。ただし、印象だけで決めてしまうのではなく、不動産会社としてどのような仕組みで動いているのかにも目を向けてみてください。
代表的なものとしては、広告掲載の方針、他社との連携、情報公開の範囲・方法などは、会社の方針として決まっていることが多くあります。やりとりの中で疑問に感じたことがあれば、遠慮せず確認してみるとよいでしょう。

リセールの掟
信頼は人に宿るが、成果は仕組みで決まる。不動産会社の体質を見極める。

デジタル資産とWeb3
高田 一洋(たかだ・かずひろ)
一心エステート株式会社代表取締役 不動産コンサルタント
1983年福井県生まれ。金沢大学工学部を卒業後、大手コンサルティング会社に入社、4年間、新規事業の立ち上げや不動産会社のコンサルティング業務に従事する。その後、当時の取引先リストグループに惹かれ入社。不動産売買仲介営業・マンション販売・営業管理職・支店長を経て、さらなる理想を追求するために一心エステートを創業。創業当初から金融機関・不動産会社へのコンサルティングを行い、ARUHI住み替えコンシェルジュでセミナー講師などを務める。自身の住み替え実体験や豊富な不動産知識に加え、20代で身に付けたコンサルティング技術、ファイナンス(お金・投資の知識)をもとに、東京都心の不動産仲介実績を積み上げている。人気YouTubeチャンネル「東京不動産マニア」に出演中。著書に『高級マンション超活用術』(みらいパブリッシング)がある。

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