本記事は、高田 一洋氏の著書『マンション売却の錬金術:「マンションを売りたい」と思ったら最初に読む本』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
「あなたのマンション高く買います」の落とし穴に注意
よく見る「高額買取チラシ」に要注意
もし、分譲マンションに住んでいる方なら、「あなたのマンション、高く買います」と書かれたチラシをポストでよく見かけると思います。目にするたびに「もしかして、今が売り時なのか」と気になってしまう方も多いのではないでしょうか。戸建ても同様のポスティングが大量に入りますね。
しかし、そうした広告に安易に反応するのは危険です。
この手のフレーズは、実際に高値で買い取る意図はなく、不動産会社が「売却相談」を引き出すための撒き餌(フック)として使われていることが99%です。つまり、広告の目的は「あなたの物件を買いたい」ではなく、「あなたとコンタクトを取りたい」というものです。
不動産会社のビジネスモデルを理解する
中古マンションを扱う不動産会社の主な収益源は、次の2つです。
仲介手数料
売買契約が成立した際に受け取る成功報酬のことで、法律で上限が定められており、最大で「売買価格の3%+6万円+消費税」となっています。
売却益(転売利益)
不動産会社が物件を買い取り、リフォーム等を施行して、利益を上乗せして販売することで得られる利益です。購入価格と再販売価格の差額が収益になります。
たとえば1億円の物件を仲介した場合、仲介手数料は約300万円。これを売主と買主の両方から得られれば、1件で約600万円の収入となります。さらに、自社で物件を買い取って転売する場合、購入価格を抑えて再販売することで、より大きな利益を得ることができます。
不動産会社としては「できるだけ短期間で、数多くの物件を成約させたい」と考えるのが自然の流れです。これが不動産仲介ビジネスの仕組みであり、隠された本音でもあります。
「早く売ること」が、なぜ危険なのか?
不動産会社は「売主様のために」と口では言いながらも、実際には自社の利益を優先し、査定価格を低めに設定して早期に買主を見つけたいと考えているケースが少なくありません。
「高く売れますよ」というセールストークで媒介契約を取り、しばらく経った後に「問い合わせが少ないので価格を下げましょう」と提案される。こうした流れは、不動産売却の現場ではよく見られます。
*1:媒介契約とは?
不動産会社に「この物件の売却をお願いします」と正式に依頼する契約のことです。媒介契約を結ぶと、売却活動や買い手探し、調査、契約準備などを不動産会社が代行してくれます。
課題は、販売価格が多少下がっても、不動産会社にとっては大きな痛手にならないという点です。
たとえば、1億円で売れるはずのマンションを、不動産会社が効率重視で7,000万円で早期に売却したとしましょう。売主様にとっては3,000万円もの差が生じますが、不動産会社の仲介手数料の差額は、1億円で約300万円、7,000万円で約210万円と、わずか90万円にすぎません。1件に時間をかけて1億円で売るよりも、7,000万円で複数件を短期間で成約させるほうが、結果的に利益が大きくなる構造になっているのです。
さらに、物件を長く販売活動すれば、広告費や人件費、コミュニケーションコストが発生します。不動産会社から見れば、「早く売って次の案件に進む」ことが利益最大化につながるため、“高値でじっくり売る”という姿勢は取りづらいのが現実です。
売主が気をつけるべき視点
「早く売れるなら助かる」と考える方もいるかもしれません。しかし、「早く売れる価格」と「本来の価値に見合った価格」は、必ずしも同じではありません。
本当に高く売るためには、相場を見極め、買い手の属性を想定し、物件の見せ方や販促方法に工夫を凝らす必要があります。派手な広告コピーに期待を抱くのではなく、「なぜその価格なのか」「誰に売るのか」「どうアピールするのか」といった販売戦略を明確に説明できる営業担当者を選ぶことが、納得のいく売却結果につながる第一歩です。
あと100万円高く売るには、選択がすべて
今のマンション市場は、価格が高い水準で推移しており、しばらくは上昇傾向が続くという見方もあります。一方で、買い手側も情報を集めて学びながら、より良い選択をしようとする姿勢が強まっています。そのため、売主側の工夫や戦略次第で、売却価格や売却スピードに大きな差が生まれる時代になっています。
安易に広告に乗らず、「あと100万円高く売る」ために必要なのは、冷静な視点と、信頼できるパートナーを選ぶ力です。情報の見極め方ひとつで、売却の成果は大きく変わってきます。
リセールの掟
不動産会社の真意を見抜くことで、売却益の最大化を目指す
1983年福井県生まれ。金沢大学工学部を卒業後、大手コンサルティング会社に入社、4年間、新規事業の立ち上げや不動産会社のコンサルティング業務に従事する。その後、当時の取引先リストグループに惹かれ入社。不動産売買仲介営業・マンション販売・営業管理職・支店長を経て、さらなる理想を追求するために一心エステートを創業。創業当初から金融機関・不動産会社へのコンサルティングを行い、ARUHI住み替えコンシェルジュでセミナー講師などを務める。自身の住み替え実体験や豊富な不動産知識に加え、20代で身に付けたコンサルティング技術、ファイナンス(お金・投資の知識)をもとに、東京都心の不動産仲介実績を積み上げている。人気YouTubeチャンネル「東京不動産マニア」に出演中。著書に『高級マンション超活用術』(みらいパブリッシング)がある。
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