本記事は、高田 一洋氏の著書『マンション売却の錬金術:「マンションを売りたい」と思ったら最初に読む本』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
「手数料半額にします」は裏のからくりがある
〜お得感の裏にある、優先順位のすり替え〜
一見お得に見える「手数料割引」の落とし穴
「仲介手数料半額」や「手数料無料」といったフレーズを、ネット広告やチラシで見かけたことはないでしょうか。売却コストが下がると聞けば、誰でも「お得そう」と思ってしまいます。
しかし、そのお得感の裏には、売主の不利益につながるカラクリが潜んでいます。
仲介手数料は、売買契約が成立した際に発生する「成功報酬」です。法律で定められた上限は「売買価格の3%+6万円+消費税」ですが、それをあえて半額や無料にしてまで売却を請け負う背景には、当然ながら業者側の明確な意図があります。
「売却案件を囲い込む」のが本当の目的
仲介手数料を値引く大きな理由の一つは、その物件の「専任媒介契約」を獲得することにあります。専任契約を結ぶことで、他社に情報を共有せずに、自社だけで販売活動が出来るためです。
*1:専任媒介契約とは
不動産の売却を特定の1社にのみ依頼する契約。売主は他社に重ねて依頼できず、事業者には販売活動の定期報告義務がある。
そしてその先にあるのが「両手仲介」という構図です。これは、売主からも買主からも仲介手数料を受け取る形態で、不動産会社にとっては最も利益率が高い取引です。売主からの手数料を値引いても、買主から満額受け取れば、むしろ利益は増えるからです。
このような仕組みを利用することで、「手数料無料」や「半額」の裏に、売主に見えないかたちで「囲い込み」が発生するのです。
悪質な囲い込みが起こす3つの弊害
両手仲介を狙う会社の中には、次のような手法を取るケースがあります。
- 他社に物件情報を公開せず、問い合わせがあっても「商談中」としてシャットアウトする。公開しても、都合が合わないので見学できないと返答し続ける。
- 自社で見つけた買主を優先するため、他社経由でより高く買いたいという顧客がいても売主に知らせない。
- 仲介手数料が2倍になることを前提に、早く売ってしまおうと価格を下げて誘導する。
こうした行為によって、本来得られたはずの高値での売却チャンスが失われていきます。
仲介手数料無料のカラクリ
仲介手数料が無料になるというのは、売主にとっては非常に聞こえが良い話です。しかし、不動産会社はボランティアではありません。報酬がゼロでは経営が成り立たないため、「絶対に自社で買主を見つけて両手仲介にする」という前提で動いています。
この場合、他社への情報公開は制限されます。インターネット掲載を控えたり、同業他社の案内依頼を断ったりすることで、売却の機会が狭まり、結果的に価格を下げざるを得ない状況に陥ってしまうこともあります。
つまり、「無料になった手数料」よりも、「本来よりも低くなった成約価格」の方が損失が大きくなってしまう可能性があるのです。
大切なのは、「どう売るか」より「誰に託すか」
目先の手数料の安さに惹かれて会社や営業担当者を選んでしまうと、結果として損をすることがあります。重要なのは、「この担当者は誰の利益を最優先に考えてくれるのか」「どのような販売戦略を描いているのか」を見極めることです。
前節でも触れましたが、不動産会社にとって顧客情報を得るコストは1件あたり1万5,000〜2万5,000円ともいわれており、それを回収するために短期間で売買を成立させようと急ぐ傾向があります。こうした圧力が「丁寧に、じっくり売りたい」という売主の思いとすれ違うのです。
手数料はあくまで経費の一部。本当に重視すべきは、「いくらで、どんな買主に、どんな手法で売るのか」という戦略です。
リセールの掟
「手数料無料」の裏には両手仲介の誘導あり。
1983年福井県生まれ。金沢大学工学部を卒業後、大手コンサルティング会社に入社、4年間、新規事業の立ち上げや不動産会社のコンサルティング業務に従事する。その後、当時の取引先リストグループに惹かれ入社。不動産売買仲介営業・マンション販売・営業管理職・支店長を経て、さらなる理想を追求するために一心エステートを創業。創業当初から金融機関・不動産会社へのコンサルティングを行い、ARUHI住み替えコンシェルジュでセミナー講師などを務める。自身の住み替え実体験や豊富な不動産知識に加え、20代で身に付けたコンサルティング技術、ファイナンス(お金・投資の知識)をもとに、東京都心の不動産仲介実績を積み上げている。人気YouTubeチャンネル「東京不動産マニア」に出演中。著書に『高級マンション超活用術』(みらいパブリッシング)がある。
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