医療費控除の申請で判断に迷うのが対象となる交通費の範囲だ。原則と例外を事前に把握しておきたい。確定申告に領収書の提出は必要ないが、税務署に説明できるよう医療機関ごとの記録を残しておこう。集計には国税庁の「医療費集計フォーム」が便利だ。

高村 浩子
高村 浩子
国家資格キャリアコンサルタント/ファイナンシャルプランナー(日本FP協会認定AFP)
生損保、証券、銀行などの金融機関勤務を経て独立。敬遠されがちなお金の話を広い世代に向けて発信しています。マネープラン、キャリアプラン、ソーシャルプランを融合したライフデザインで100年時代を自分らしく生きる!を提唱中

医療費控除における交通費の適用範囲とその判断材料を解説

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(画像=PIXTA)

多額の医療費を支払ったとき、確定申告を行えば所得税が還付される。対象となるのは医療費全額ではなく、保険金などで補てんされる金額と10万円(または所得金額の5%)を引いた額だ。

納税者はまず、医療費控除を受けられるかどうか計算する必要がある。このとき判断に迷うのが「医療費に何を含めていいのか」という点だ。医療費には、「診療や治療の対価」や「医薬品の購入の対価」などに加え、診療を受けるために直接必要となった「交通費」も含まれる。

ただし、この交通費が認められる範囲に制限がある。自分が「医療を受けるための交通費」だと考えていても、税務署は認めない場合もあるので注意が必要だ。

●交通費の医療費控除の定義を解説

交通手段別の対象範囲を解説する前に、まずは何をもって「医療費控除の対象となるのか?」を解説しておこう。

前提として、課税関係はすべて法律に根拠があるということだ。おおもとになるのは「所得税法」であり、それを補う「所得税法施行令」がある。厳密には法律ではないが、税務署の実務でよりどころにされるものに「所得税基本通達」がある。

医療費控除については、所得税法上の医療費とは(医療に)「関連する人的役務の提供の対価」(そのうち通常必要であると認められるもの)が基本となる。所得税法施行令でも病院などへ「収容されるための人的役務」とされており「病状に応じて」「一般的に支出される水準を著しく超えない部分」と決められている。所得税基本通達では「直接必要な費用」「通常必要なもの」とされている。

これらの法律の内容をまとめると、医療費控除の対象となる交通費は「他人が運転してくれるもので、医療に直接関係があり、通常用いられるもの」を利用した場合の「常識的な金額まで」だとイメージできるだろう。

●電車やバスを利用した場合の交通費について

電車やバスなどの公共交通機関の利用に関しては医療費控除の対象となる。先に述べた「他人が運転してくれるもので、医療に直接関係があり、通常用いられるもの」に合致しており、国税庁の回答でも「人的役務」の代表例とされているからだ。

ただし注意点もある。一般的に電車やバスを利用した場合に領収書がスムーズに発行されるとは限らない。医療費控除の申告に必要だがこの点は国税庁も理解している。一般の疾病ではないが、「医療費控除の対象となる出産費用の具体例」を説明するページでは「通院費用については領収書のないものが多いのですが、家計簿などに記録するなどして実際にかかった費用について明確に説明できるようにしておいてください」とある。

●タクシーを利用した場合の交通費について

国税庁から配布されている「医療費控除を受けられる方へ」という案内パンフレットでは、「控除の対象に含まれないものの例」として「タクシー代(電車やバスなどの公共交通機関が利用できない場合を除きます)」が挙げられている。

日常生活での通院費に公共交通機関は認められるが、身近ではあっても原則タクシーは認められない。法律が認める「通常の」交通手段ではないからだ。

ただし、例外的に公共交通機関を使えない事情があればタクシーが認められる。国税庁の質疑応答事例にも「病院に収容されるためのタクシー代」が認められたものがある。この事例は「突然の陣痛のため」で、回答では「タクシー代は一般に認められないが、病状からみて急を要する場合や、電車、バス等の利用ができない場合には認められる」とある。これは入院時のケースだが、パンフレットでは通院費についても同様の取り扱いをしている。

電車やバスが使えない場面としては、次のような場合があるだろう。

・急を要する場合
・夜間で電車もバスも止まっている場合
・病状(歩くことができないなど)から見て電車やバスの利用が困難な場合
・電車やバスなどの路線が少ない地域で利用が困難な場合

タクシーを利用した場合は必ず領収書をもらわなければならない。2017年分確定申告から医療費控除の申請に領収書を提出する必要はなくなったが、5年間は自宅で保管することになっている。税務署から尋ねられた際には、交通費の領収書と受診した医療機関の領収書をもとに、どの時間帯にどこの病院を受診したものか明確に説明できるようにしておく必要がある。

本題とはそれるが、深夜も含め急を要する病態になった場合にはタクシーの利用の前にかかりつけ医や消防へ連絡をし、救急搬送の手配を優先することも忘れないでほしい。

●自家用車を利用した場合のガソリン代や駐車料金について

自家用車で通院するための「ガソリン代」「駐車場代」は医療費控除の対象となる交通費だろうか。答えは「対象とならない」だ。

国税庁のサイトに、納税者から質問された事例に対する回答が参考として掲載されている。その中に「自家用車で通院する場合のガソリン代等」についての質疑応答事例がある。

国税庁が「医療費控除の対象とならない」と答える理由は、医療費控除の対象となる通院費は、医師などの診療を受けるため「直接必要なもので、かつ、通常必要なもの」でなくてはならず、また通院費は「人的役務」への支払いを指すからだとしている。

自家用車での通院は、電車やバスの運賃のように他人のサービスへの対価ではないため医療費控除の対象にはならないのである。

●遠隔治療のために新幹線や飛行機を利用した場合について

自宅から遠く離れた病院での治療のために新幹線や飛行機を利用した場合、その治療が必要なものであれば交通費として認められる。

国税庁のサイト内にある「遠隔地の病院において医師の治療を受けるための旅費」を見ると、遠隔地の病院でなければ治療ができないという明確な理由がある場合には控除の対象になると記載されている。

この場合には領収書を保管しておくことはもちろんだが、主治医による紹介状など明確な理由を説明できる書類のコピーをとっておくことが賢明であろう。 控除対象となる交通費は、診療などに「直接必要なもので、かつ、通常必要なもの」に限られており、原則は患者本人の通院に限られている。

ただ、国税庁サイトの質疑応答事例のように「患者の世話のための家族の交通費」が認められることもある。子どもの通院に母親が付き添う場合のように「年齢や病状からみて、患者を一人で通院させることが危険な場合」だ。この場合、付添人の通常必要な交通費が医療費控除の対象となる。

ただ、子どもが入院した後は、母親が子どもの世話のために通院しても控除対象とは認められない。患者本人が通院しているわけではないからだ。

これらの代表的な交通費に加え、法の規定に沿っていれば、事情によってはそれ以外も認められることもある。例えば、離島から海を渡って島外に診療を受ける場合が認められたり、雪山遭難などで緊急搬送されるヘリコプターの費用などが認められたりすることもある。

国税庁サイトの質疑応答例にも「一般的な回答にすぎず、納税者が行う具体的な場合には当てはまらないこともある」と注意書きがある。特殊な場合は、税務署に相談するとよいだろう。

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医療費控除における交通費の控除申請の仕方を解説

2017年分の確定申告から医療費控除の申請方法が大きく変わった。領収書の提出がなくなった代わりに、「医療費控除の明細書」を提出しなくてはならなくなった。もちろん交通費についても明細に記載しなければならない。

領収書の提出はなくなったが、確定申告後5年間は税務署が確認のために領収書の提出を求めることがある。そのため、申告後も領収書は自宅で保管しなければならない。

ここでは、国税庁のホームページからダウンロードして利用できる医療費控除に関する2つのエクセルフォームを紹介しながら交通費の控除申請の仕方を解説する。

●「医療費控除明細書(内訳書)」を利用した交通費管理と申請

1つ目は「医療費控除明細書(内訳書)」を利用しての管理方法だ。これは国税庁のホームページからダウンロードできるエクセルフォームに1年分を入力しておけば、確定申告時にそのまま印刷して添付書類とすることができる。

便利なのは、医療機関を利用するたびに詳細な診療履歴を入力しなくても自身が加入する健康保険組合から送られてくる医療費通知(医療費のお知らせ)の年間の合算額をまとめて記入できる点にある。さらに、医療費通知を明細書に添付して提出することで領収書の保存が不要になる。

交通費に関しての入力は個々に必要だが、医療費通知に掲載されている診療に関する入力の手間がなくなることは大きなメリットであろう。

ただし注意しなければならないことが3つある。 1つ目は、医療費通知に次に挙げる6つの項目が明示されている必要があることだ。

1.被保険者の氏名
2.療養を受けた年月
3.療養を受けた者
4.療養を受けた機関等の名称
5.支払った医療費の額
6.保険者等の名称

所属する健康保険組合によって掲載内容が異なるためしっかり確認する必要がある。

2つ目は、医療費通知の発行までに時間がかかる点だ。年末の受診に関する医療費通知が届くのが遅かったり、自由診療について記載がなかったりするような場合は個々に下段の明細欄に追加入力する必要がある。

診療ごとの領収書と照らし合わせながら申告漏れがないかの確認が必要だ。

3つ目は、交通費に関しては個別の入力と領収書の保管が必要な点だ。医療費通知に掲載されているのはあくまでも健康保険組合で把握している診療に関してのみである。その他にかかった医療費控除の対象についてはすべて下段の明細欄に入力をしておこう。

以上の注意点を含めても年間を通じて医療費のデータ管理が簡易的にでき、そのまま確定申告に利用できるメリットは大きい。

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●「医療費集計フォーム」を利用した交通費管理と申請

次に紹介するのは同じく国税庁のホームページからダウンロードできる「医療費集計フォーム」を利用しての管理方法だ。

前段で述べた「医療費通知」が項目不足で利用できない場合や受診のたびに領収書を見ながら入力してしまったほうが安心だという人にはこちらをおすすめする。エクセルフォームになっており、あらかじめ申告に必要な項目が明示されているため入力漏れを防ぐこともできる。

何より便利なのは確定申告書を国税庁の「確定申告書作成コーナー」で作成するときに、そのまま読み込んで反映させることができる点だ。

交通費も含めた医療関連のデータを自宅のパソコンで入力することを習慣づければ確定申告の煩わしさも軽減されるだろう。

どちらにしても忘れてはならないのは、必要な領収書に関しては5年間保管する必要があることと領収書のない交通費に関しては「診療等を受けるために直接必要なもので、かつ通常必要なもの」であるという原則が説明できるようにしておくことである。

医療費控除は医療費がかさんだ納税者への配慮なので、積極的に活用したい。ただ適用範囲は細かく決まっており、事前の情報収集が大切だ。領収書の提出はないが、明細を自分で作成して提出しなくてはならない。国税庁サイトに掲載されている各種フォームをうまく活用しながら、簡単で正確な確定申告を実施して、税の負担を軽減しよう。

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