確定申告をしている個人事業主はともかく、確定申告しない会社員の中には保険料の控除を正しく理解していない人がいるかもしれない。保険料の控除は、申告することで納める税金が減るお得な制度である。保険料の控除について理解を深め、正しく申告するようにしたい。

保険料の控除とは

保険,控除,確定申告,納税
(画像=PIXTA)

保険料の控除とは、保険金として支払った金額の一部が所得から控除され、所得税や住民税がお得になる制度である。保険料控除の手続きは、会社員は一般的に年末調整で、個人事業主は確定申告で行う。

保険料控除は、生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除の3つに分けることができる。「生命保険料控除」は、生命保険や医療保険、個人年金などの保険料が対象となる。「地震保険料控除」は、その名の通り地震保険料が対象となる。「社会保険料控除」は、会社員であれば給料から天引きされている健康保険や厚生年金などの保険料が対象になり、個人事業主であれば国民健康保険や国民年金などの保険料が対象になる。

生命保険料や地震保険料、個人事業主の国民年金については、保険料控除を申告するための保険料控除証明書が毎年秋ごろに送られてくる。これらは申告の際に利用するため、受け取ったらきちんと保管しておきたい。

保険料控除の申請に漏れがあると、払わなくてよい税金まで徴収されることになる。保険料を支払っているのであれば、きちんと保険料控除の申請を行うことをお勧めする。

生命保険料の控除額など

生命保険料控除とは、生命保険や医療保険などの保険料負担軽減のために、それらの保険に支払った保険料が控除され、所得税や住民税が安くなる制度である。

生命保険料控除は、新制度と旧制度で控除額などが変わる。新制度は2012年1月1日以降に契約した生命保険が対象になり、旧制度は2011年12月31日以前に契約した生命保険が対象になる。なお、旧制度対象の生命保険契約であっても、2012年1月1日以降に更新、転換(保険を解約し、入り直すこと)、特約の中途追加などをした場合には、契約全体が新制度の対象になる。

生命保険料控除の対象となる保険は、旧制度では「一般生命保険」と「個人年金保険」の2種類であった。新制度では一般生命保険の一部が介護医療保険へと分割され、「一般生命保険」、「介護医療保険」、「個人年金保険」の3種類になった。

一般生命保険とは、死亡などに起因して保険金が支払われる保険であり、生命保険や収入保障保険などが対象となる。

介護医療保険とは、医療費に対して保険金が支払われる保険であり、医療保険、がん保険などが対象となる。これらの保険は、旧制度では一般生命保険に含まれていたが、新制度から介護医療保険として別の分類になった。

個人年金保険とは、年金を給付する保険であり、国民年金や厚生年金などの公的年金を補う目的で加入する私的年金の一種である。

新制度での所得税控除は、一般生命保険、介護医療保険、個人年金保険の3種類が対象となり、それぞれに対して以下の控除額が別々に適用される。例えば、3種類それぞれに年間保険料8万円超を支払っている場合の控除額はそれぞれ4万円となり、3つの合計で控除額合計は12万円となる。

新制度での「所得税」の控除額(左の金額は年間の支払保険料)
2万円以下:支払保険料等の全額
2万円超、4万円以下:支払保険料等×1/2+1万円
4万円超、8万円以下:支払保険料等×1/4+2万円
8万円超:一律4万円

旧制度での所得税控除は、一般生命保険と個人年金保険の2種類が対象になる。旧制度についても、一般生命保険と個人年金保険に対して別々に控除額が計算される。

旧制度での「所得税」の控除額(左の金額は年間の支払保険料)
2万5000円以下:支払保険料等の全額
2万5000円超、5万円以下:支払保険料等×1/2+1万2500円
5万円超、1万0円以下:支払保険料等×1/4+2万5000円
10万円超:一律5万円

続いて住民税控除の額を確認したい。新制度での住民税控除も、所得税と同じく一般生命保険、介護医療保険、個人年金保険の3種類が対象となり、それぞれに対して以下の控除額が別々に適用される

新制度での「住民税」の控除額(左の金額は年間の支払保険料)
1万2000円以下:支払保険料等の全額
1万2000円超、3万2000円以下:支払保険料等×1/2+6000円
3万2000円超、5万6000円以下:支払保険料等×1/4+1万4000円
5万6000円超:一律2万8000円

旧制度での住民税控除も、所得税控除と同じく一般生命保険と個人年金保険の2種類が対象になる。一般生命保険と個人年金保険は別々に控除額が計算される。

旧制度での「住民税」の控除額(左の金額は年間の支払保険料)
15000円以下:支払保険料等の全額
15000円超、4万円以下:支払保険料等×1/2+7500円
4万円超、7万円以下:支払保険料等×1/4+1万7500円
7万円超:一律35000円

旧制度と新制度の保険に両方加入している場合、「旧制度のみで申告」、「新制度のみで申告」、「旧制度と新制度の両方で申告」から選ぶことができる。旧制度のみの所得税の最高控除額は5万円、住民税の最高控除額は35000円である。一方、旧制度と新制度の両方で申告する場合の所得税の最高控除額は4万円に、住民税の最高控除額は28000円になり、両方で申告すると最高控除額が低くなる。よって、旧制度のみで所得税控除額が4万円を超えているか住民税控除額が28000円を超えているならば、新制度分の保険料は申告しない方がお得になる。

地震保険料の控除額など

地震保険料控除とは、地震保険料負担の軽減のために、地震保険に支払った保険料が控除され、所得税や住民税が安くなる制度である。税制改革により2007年から損害保険料控除が廃止され、地震保険料控除が新設された。

損害保険料控除の廃止による経過措置として、それ以前に契約した損害保険料も地震保険料控除の対象にすることができる。対象となる損害保険は、2006年12月31日までに契約し、保険期間は10年以上で満期返戻金がある積み立て保険で、2007年1月1日以降に保険料変更を伴う契約内容変更がないものである。

地震保険料と損害保険料(経過措置)による「所得税」の控除額はそれぞれ次のようになる。

地震保険料による「所得税」の控除額(左の金額は年間の支払保険料)
5万円以下:支払保険料等の全額
5万円超:一律5万円

損害保険料(経過措置)による「所得税」の控除額(左の金額は年間の支払保険料)
1万円以下:支払保険料等の全額
1万円超、2万円以下:支払保険料×1/2+5000円
2万円超:一律1万5000円

同様に、地震保険料と損害保険料(経過措置)による「住民税」の控除額はそれぞれ次のようになる。

地震保険料による「住民税」の控除額(左の金額は年間の支払保険料)
5万円以下:支払保険料等の1/2
5万円超:一律2万5000円

損害保険料(経過措置)による「住民税」の控除額(左の金額は年間の支払保険料)
5000円以下:支払保険料等の全額
5000円超、1万5000円以下:支払保険料×1/2+2500円
2万円超:一律1万円

「1つの保険契約」が地震保険料と損害保険料(経過措置)の両方に該当する場合、どちらか片方を選択して控除を申請できる。

地震保険料と損害保険料(経過措置)の「複数の保険契約」がある場合は、それらを合計できる。両方を合計した場合の最高控除額は、地震保険料のみの最高控除額と同額になり、所得税では最高で5万円、住民税では最高で2万5000円になる。

社会保険料控除について

社会保険料控除とは、会社員であれば健康保険や厚生年金などの保険料が、個人事業主であれば国民健康保険や国民年金などの保険料(または、保険税)が控除され、税金が安くなる制度である。

会社員の健康保険や厚生年金などの保険料は給料から天引きされる分と会社が負担する分があり、会社がそれらを合わせて支払いを行っている。一般的に会社員は社会保険料控除を申告する必要はない。会社が社員の社会保険料を把握しており、会社が社会保険料控除の手続きをしてくれる。ただし、会社員であってもその他の社会保険料を払っている場合には、その支払分を年末調整で申告する必要がある。例えば、子供の国民年金を払っている場合や、配偶者の社会保険料を払っている場合などである。

個人事業主の国民健康保険や国民年金などの保険料は確定申告することで控除される。申告する対象は、自分の国民健康保険や国民年金だけでなく、家族の国民健康保険料や国民年金保険料なども含まれる。

社会保険料控除の対象となる健康保険や年金などのうち、主なものを次に表す。

・健康保険、国民年金、厚生年金保険及び船員保険の保険料で被保険者として負担するもの
・国民健康保険の保険料(または、保険税)
・介護保険法の規定による介護保険料
・雇用保険の被保険者として負担する労働保険料
・国民年金基金の加入員として負担する掛金
・厚生年金基金の加入員として負担する掛金
・国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法、私立学校教職員共済法、恩給法等の規定による掛金、納付金又は納金

社会保険料控除の金額は、社会保険料として支払った全額が控除される。この点は生命保険料控除や地震保険料控除などの支払った金額の一部が控除される制度とは異なる。

個人型確定拠出年金(iDeCo)は生命保険料控除や社会保険料控除の対象ではない

ところで、年金制度の一つである個人型確定拠出年金(iDeCo)は生命保険料控除や社会保険料控除の対象ではない。個人型確定拠出年金は「小規模企業共済等掛金控除」の対象になる。小規模企業共済等掛金控除についても、会社員であれば年末調整で、個人事業主であれば確定申告で処理する。

保険料控除以外の控除制度には、配偶者控除や扶養控除、医療費控除、ふるさと納税に関する寄付金控除など様々なものがある。これらの制度を活用することで税金を減らすことができるため、漏れなく申告するようにしたい。

会社員で年末調整の保険料控除に漏れがあった場合には、確定申告で対応することができる。確定申告の期間は2月16日から3月15日の1カ月間である。もし保険料控除に漏れがあれば3月15日までに確定申告することをお勧めしたい。(松本雄一、ビジネス・金融アドバイザー)

◇月々の保険料を考え直したい方は、まずは保険選びのプロに無料相談するのがおすすめ
>>保険見直し本舗の公式ページはこちら