●5月の人民元(スポット・オファー、中国外貨取引センター)は米ドルに対して下落、1米ドル=6.4110元(前月末比1.2%安)で取引を終えた。但し、欧州の景気減速やイタリアの政局混乱を背景にユーロが米ドルに対し同3.4%下落したため、ユーロに対する人民元レートは上昇した。
●今後の展開としては、環境面から見ると米利上げとそれに伴う米中金利差縮小やユーロ・日本円・アジア通貨などの下落により元安・米ドル高となりやすいものの、18年11月に米中間選挙を控える中で、貿易不均衡を巡る米国の対中強硬姿勢は続き、中国政府(含む中国人民銀行)は人民元を高めに誘導せざるを得ないと見ていることから、人民元レートは堅調に推移すると予想している(想定レンジは1米ドル=6.0~6.5元、1元=16.5~18.0円)。
5月の人民元の動き
5月の人民元(スポット・オファー、中国外貨取引センター)は米ドルに対して下落、1米ドル=6.4110元(前月末比1.2%安)で取引を終えた。これまでの動きを振り返ると、15年8月には米ドルに対する基準値を3日間で約4.5%切り下げ、その後も資金流出から下落が続いたが、昨年10月の共産党大会前に中国が基準値設定方法を変更したことやユーロ高を背景に人民元は上昇に転じた。その後一旦は調整したものの、1月に中国が基準値設定方法を元に戻したことや3月に米中貿易摩擦が深刻化したのに伴って人民元には切り上げ圧力が掛かるとの思惑が浮上、人民元ショック前の同6.2元を窺う動きとなった。そして、5月に米長期金利が上昇傾向を強めると人民元は下落に転じた(図表-1)。但し、欧州の景気減速やイタリアの政局混乱を背景にユーロが同3.4%下落したため、ユーロに対する人民元レートは上昇した(図表-2)。尚、日本円は逆行高となったため、日本円に対する人民元は100日本円=5.8949元(1元=16.96円)と前月末比1.5%の元安・円高で取引を終えた。
今後の展開
さて、今後の展開としては、経済金融環境面から見ると米利上げとそれに伴う米中金利差縮小やユーロ・日本円・アジア通貨などの下落により元安・米ドル高となりやすいものの、18年11月に米中間選挙を控える中で、貿易不均衡を巡る米国の対中強硬姿勢は続き、中国政府(含む中国人民銀行)は人民元を高めに誘導せざるを得ないと見ていることから、人民元レートは堅調に推移すると予想している(想定レンジは1米ドル=6.0~6.5元、1元=16.5~18.0円)。
米中の経済金融環境を見ると、米国では景気拡大が継続しており、今後も段階的な追加利上げが実施されると見られる。他方、中国でも景気は堅調であり、18年1-3月期の成長率は実質で前年同期比6.8%増と18年の成長率目標(6.5%前後)を上回るとともに、消費者物価は緩やかに上昇率を高めており、中国人民銀行は米国の利上げに追随する形でリバースレポ(7D)金利を引き上げている(図表-3)。但し、中国の引き上げ幅は米国よりも小幅に留まっているため米中金利差は縮小、元安・米ドル高が進みやすい状況となっている。
しかし、18年9月までの予想期間内を考えると引き続き米中貿易摩擦が焦点となるため、人民元レートは堅調に推移すると予想している。米中の“関税引き上げ合戦”は、中国経済だけでなく米国経済にも大きな打撃となるため、米中両国はいずれ回避に向けて動き出したいところだろう。しかし、18年11月に米中間選挙を控える米トランプ政権としては、米中間選挙前に大きな成果を得ずに振り上げた拳を下ろす訳にはいかない。一方、中国としては、対外開放や輸入拡大など譲歩できる面はあるものの、国策として打ち出した「中国製造2025」に関する施策を取り下げることはできない。従って、米中貿易摩擦は18年9月までの予想期間を通じて燻ることになりそうだ。
その間、中国政府(含む中国人民銀行)は人民元レートを高めに誘導する可能性がある。中国サイドから見ると、人民元高は輸出にこそ不利に働くものの、ここもとの中国の景気回復は世界経済の好調と輸出に依存し過ぎたとの負い目がある上、購買力平価との関係で見て大幅に割安な現状を踏まえればある程度のレート調整はやむを得ない面もある(図表-4)。また、人民元高は輸入物価を押し下げるため、消費者物価が上昇し始めた中ではインフレ抑制効果も期待できる。従って、中国経済の現状を考えると元高がもたらす悪影響は小さいため、中国政府(含む中国人民銀行)は、米中通商交渉を有利に運ぶ環境整備のためにも、人民元レートを高めに誘導すると見ている。
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三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員
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