日本企業のほとんどを占める中小企業経営者の高齢化が急スピードで進んでおり、国も株式などの贈与・相続に対する税を軽減する事業承継税制でサポートしている。2018年からさらに拡充した特例措置が始まったが、どういう内容なのだろうか。

事業承継税制のねらいとは

事業承継,中小企業
(画像=PIXTA)

まず中小企業の経営者の高齢化がどのくらいのスピードで進んでいるかというと、最近20年間で経営者の年齢のピークは47歳から66歳に推移し、引退の年齢も70歳以上に上昇しているという(中小企業基盤整備機構による)。

背景には後継者不足があると推測される。現在年間約7万社が後継者に恵まれず廃業に追い込まれている。必ずしも赤字とは限らず、4割は黒字であるのにもかかわらず廃業せざるを得ないのだ。

企業の廃業は経営者にとっても社会にとっても損失だ。いざ廃業となると負債の存在が顕在化したり、保有していた資産が思ったほど経済的価値がないことが明らかになったりする。雇用問題も大きく、老いた中小企業には高齢になるまでそこに勤め続けてきた人がおり、新しい職場への再就職も難しい。また、社外においても、取引関係企業にとっては得意先をなくすというダメージがある。

中小企業の存続には円滑な事業承継が不可欠だ。そのためには後継者が自社株のほとんどを取得し、経営支配権を確保しなくてはならない。ところが、その後継者が先代経営者などから株式を贈与されたり相続したりする際には贈与税や相続税が発生する。

上場しておらず取引相場のない株式の評価は、会社の規模によって異なる。原則として大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社は大会社と小会社の評価方法を併用して評価する。こうした株価はいわば会社の価値であり、その評価額は個人間の贈与や相続とは桁違いの額にのぼる。多額の贈与税や相続税が事業承継の障壁となることを避けるために、政府は税制優遇策を設けて中小企業の世代交代の危機から救おうとしているのだ。

2018年から特例措置

事業承継税制は、後継者が非上場会社の株式等を贈与や相続で取得した場合に、その贈与税・相続税を猶予するものだ。後継者が死亡するなど、事情によっては、猶予されていた贈与税・相続税が最終的に免除される場合もある。

従来の事業承継税制(一般措置)に加え、2018年からは10年間の特例措置が創設されている。一般措置では、納税猶予の対象となる非上場株式は総株式数の3分の2までという制限があったり、納税猶予割合も80%にとどまっていたりしたが、特例措置ではこれらの制限が撤廃される。この10年の間に円滑な事業承継に乗り出すのが得策だろう。

●「全株式が100%」へ範囲が拡大

先述したように、一般措置では、納税猶予となる対象株式数は総株式数の3分の2までという制限があった。また、納税猶予割合にも贈与では100%だったが相続では80%という制限があった。つまり、相続税の場合、株式数と猶予割合の制限から猶予されるのは2/3×80%=約53%のみにとどまっていた。半分程度しか猶予の効果がなかったことになる。

特例措置ではこれらの制限が撤廃される。対象株式数の上限がなく、猶予割合を100%に拡大したことで、事業承継の時点で贈与税・相続税の税負担が実質ゼロとなる。

先代経営者が死亡したときは、生前の贈与で後継者に事業承継して納税を猶予されていた場合、「免除届出書」「免除申請書」を提出することで、贈与税の全部または一部についての納付が免除される。そうなると今度は相続税の対象となるのだが、要件を満たし手続きすれば相続税の猶予が受けられる。

後継者が死亡したときも同様の手続きで、猶予されていた贈与税や相続税が免除される。先代経営者と後継者が経営者として事業承継を全うすれば、最終的に納税しなくて済むこともあるのだ。

●その他の条件も緩和

事業承継税制の一般措置から特例措置によって緩和された条件は他にもある。

中小企業の事業承継が重要である理由として雇用問題がある。一般措置では、承継後5年間は平均8割以上の雇用を維持する必要があった。この期間に毎年の雇用の平均が8割を下回ると納税が猶予されている贈与税の全額と、さらに利子税とを合わせて納付する必要があった。中小企業庁はこれが制度利用を躊躇する要因だったとしている。

特例においてはこの条件が弾力的に運用されることになった。8割の雇用を維持できないときには、都道府県知事に対して下回った理由を記載した報告書を提出して確認を受ければ、引き続き納税が猶予される。

事業承継税制を受ける後継者についての条件も、今回の特例措置で緩和された。一般措置で認められる後継者は1人だけだったのに対し、特例措置では最大3人の後継者が認められる。