事業承継税制を受けるためには

このように事業承継では国から税制面での支援が受けられるが、そのためにはいくつか条件がある。中小企業の世代交代を円滑化するという趣旨に合っているかが重要だからだ。

まずその企業が上場会社でないこと、資産管理会社でないことなどの条件が必要だ。その他にもさまざまな要件がある。

●事業をバトンタッチする際の要件

経営者から経営者への承継である点が重要だ。先代経営者として認められるには「会社の代表権を有していたこと」「先代経営者本人と特別の関係がある者とで総議決権数の50%超の議決権を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの中で最も多くの議決権数を保有していたこと」が条件だ。贈与の場合には「贈与時に会社の代表権を有していないこと」が条件に加わる。

後継者についても条件がある。贈与を受ける場合は、20歳以上で役員の就任から3年以上経過している必要がある。若社長にも相応の実績がなければならないというわけだ。

さらに、代表権と議決権においても条件がある。代表権は贈与の場合は贈与時に、相続の場合には相続開始の翌日から5カ月を経過する日において有していなければならない。そして、議決権については、「後継者と後継者と特別な関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することになること」という条件がある。

一般措置では後継者の数は1人と決まっており「後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有することになること」という条件があった。特例措置の場合も同様である。

特例措置で、後継者が2人または3人といったケースでは「総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く)の中で最も多くの議決権数を保有することとなること」つまり「議決権保有割合上位3位までの同族関係者」である必要がある。 

●5年間事業を続けること

贈与税・相続税の猶予には区切りとなる期間がある。贈与税・相続税の申告期限の翌日から5年間だ。この5年間が経過するより早く先代経営者や後継者が死亡すると5年間とは限らない場合もあるが、そのような不測の事態がなければ5年間は猶予の条件が厳しめとなる。この期間を贈与税の場合は「特例経営贈与承継期間」といい、相続税の場合は「特例経営承継期間」という。

厳しめの条件とは次のものだ。この制度の適用を受けた非上場株式を売却せず保有し、後継者が代表権を持ち続け、会社が要件を満たしておかなければならない。要件を満たさなくなると、猶予されていた税額を納付する必要がある。贈与税・相続税の全額だけでなく利子税も併せて納付する。

一般措置では雇用8割維持も条件だったが、特例措置では認定経営革新等支援機関の意見を付した報告書を都道府県知事に提出し、確認を受ければ引き続き納税が猶予される。

「特例経営贈与承継期間」「特例経営承継期間」が経過した後は条件がやや緩やかになる。株式の売却が一部認められる。売却した分に対応する贈与税・相続税・利子税は納付しなくてはならないが、他の株式については引き続き納税が猶予される。また、後継者が代表権を失っても納税が猶予されることもある。

雇用についても、この期間が過ぎれば一般措置でも特例措置でも雇用の8割を下回っても納税が猶予される。ただし、認定経営革新支援機関の意見付きの報告書が必要だ。

●「円滑化法」による認定

この税制を適用されるには、一般措置でも特例措置でも都道府県知事から「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(円滑化法)の認定を受ける必要がある。ここで、会社が中小企業であるという条件や、先代経営者と後継者の条件が満たされているか判定される。

その後、税務署に対して税の猶予を受ける旨の申告を行う。期限は贈与税・相続税の申告期限までだ。申告書とともに一定の書類も必要なので税務署にきちんと確認しよう。また、納税が猶予される贈与税・相続税および利子税の額に見合う担保の提供も必要となる。これは特例を受ける非上場株式の全てを担保とすれば良い。

そして、特例措置を受けるためには「特例承継計画」を2023年3月31日までに提出しなければならない。この「特例承継計画」には後継者や承継時までの経営見通し等と、認定経営改新等支援機関(税理士、商工会、商工会議所等)の所見を記載する。提出先は都道府県知事で、その確認を受けることで特例措置が受けられるようになる。

特例措置の適用期限は、先に述べたように2018年から10年以内、2027年12月31日までの贈与・相続であることにも注意したい。

事業継続が困難な場合には

さらに、特例措置では「特例経営(贈与)承継期間」の経過後に、主に経営上の理由で事業の継続が困難となり、株式を譲渡したときに一定の納税猶予額の免除がある。

具体的には、納税額の計算の基になる株式の価額の評価を、贈与や相続の時点ではなく譲渡時での価額で行う。譲渡時の対価で再計算した方が当初の猶予納税額を下回る場合に、その差額が免除される(相続税評価の5割という下限はある)。

免除となるケースを詳しく見てみよう。過去3年間のうちに2年以上の赤字があったり、過去3年間のうち2年以上売り上げ減があったりするような場合や、有利子負債が売り上げの6カ月分以上になった場合だ。業績不振で株価が下がっている状態をイメージすると良いだろう。このような場合は、羽振りが良かった時点ではなく、株の価額が下がった時点で納税額を計算すべきとなる。

なお、類似業種の上場企業の株価が前年の株価を下回る場合も当てはまる。先に述べたが中小企業の株価の評価に類似業種と比較する場合もある。これも株の譲渡時に評価が下がっているのなら下がった状態で算出する。

後継者の心身の故障で事業が継続できず、売却や合併する場合にもこの免除が適用される。

中小企業の世代交代が難しくなってきていることは、以前から政府も認識し一般措置を講じてきた。それでも改善しない状況を受け、その原因を取り除くため、さらにきめ細かく実態に即した特例措置を創設した。この2018年から10年の特例措置を有効に活用して事業承継を成功させてほしい。(ZUU online編集部)