(本記事は、玉川陽介氏の著書『Excelでできる 不動産投資「収益計算」のすべて』技術評論社、2017年3月16日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
消費税の基本
不動産投資の現場では、しばしば消費税が意識されます。
2017年現在、物件売買時には建物価格に対して8%の消費税が課税され、土地は非課税です。
売主は、仮に赤字で売った場合でも、売却金の一部を消費税相当額として納税する必要があります。
そのため、売主は消費税の支払いを抑えるために、建物価格が低くなるように按分したいと考えるのが一般的です。
一方、買主は、購入時に支払った消費税を後日、国から還付してもらえることがあります。
物件保有時は、事務所や店舗などビジネスを行うテナントの賃料は「課税売上」として消費税が課税されますが、アパート、マンションなど人が住むための普通借家契約では「非課税売上」となり、課税されません。
免税、簡易課税、原則課税を使いこなす
1棟の不動産を保有するためだけに作られ、従業員も事務所もないようなペーパー資産管理会社の場合、消費税を受け取っても免税(国に納めずそのまま自分でもらってよい)となったり、簡易課税事業者として益税が発生することがあります。
これらは中小企業に対する優遇制度ですので、条件を把握して活用しましょう。
代表的なものは次のとおりです。
●法人設立時の資本金を1,000万円未満(=999万円以下)とすること
→これだけで設立当初2年間は消費税免税になる
●事務所や店舗の賃料など課税売上が年間1,000万円以下であれば免税事業者に
→ワンルームやファミリー物件など住居の賃料収入(非課税売上)はカウントしない
●課税売上が年間5,000万円以下ならば簡易課税を選択可能
●物件購入時の建物消費税還付は、全売上における課税売上の比率分のみしか還付されない
→購入時だけ一時的に課税売上を多くして還付額を増やすことは本来的にはできない。そのため、マンション物件のように課税売上がない物件を購入した場合、還付はできない
※消費税の免税事業者要件、還付要件は細かい事項も多いため専門家に相談することをおすすめします。
資産管理会社の消費税
それでは、具体的なシナリオと照らし合わせて考えてみましょう。
シナリオ1:一棟アパートやマンションを購入する場合
アパートやマンションに人が住んでいる物件の場合、そこから得られる賃料収入は非課税売上です。
そのため、アパートやマンションを購入すると、通常は個人保有・法人保有ともに、購入から売却まで消費税は免税となります。
ただし、消費税の還付も受けられません。
これは、人が住むためのアパートやマンションでは、消費税の課税基準となる課税売上1,000万円に届くことはなく、消費税免税のステータスが変更されることはないためです。
ただし、物件を売却した際には、建物という高額な課税売上が発生するため、売却の2期先から消費税の課税事業者になるのが一般的なパターンです。
シナリオ2:事務所や店舗を購入する場合
事務所、店舗、駐車場、ホテルなどビジネス用の物件からの賃料収入は課税売上です。
年間賃料収入が1,000万円を超える規模ならば、はじめから原則課税事業者を選択して建物消費税の還付を受けるべきでしょう。
通常、建物消費税として売主に支払った金額の多くが還付されます。
事務所、店舗等の賃料収入が5,000万円以下であれば、後日、簡易課税に切り替えることができます。
簡易課税事業者になれば、受け取り消費税のうち納税は6割のみ(残り4割はもらえる)となるため、事実上の益税となり売上が増加することになります。
シナリオ3:マンションの一部に事務所や店舗が入っている場合
住居仕様のマンションでも、「事務所利用可」のように、用途が事務所や宿泊施設(Airbnbなど)であれば、その賃料収入は課税売上となります。
そのため、多くのマンション物件は非課税売上と課税売上の混合になります。単独の資産管理会社において、1棟目は事務所物件、2棟目は住居物件と買い進めた場合も同じです。
このような場合、事前に原則課税事業者の届出をすることにより、建物消費税の還付は可能です。
ただし、還付は課税売上の割合に応じてのみしか受けられませんので、9割方は住居で、ごく一部分のみ事務所のような場合、還付額は少額になります。
また、消費税の還付を受けられるのは原則課税事業者だけですので、還付と同時に消費税の納税も発生します。
還付と納税のどちらが多くなるのかを計算して、還付を放棄して免税事業者のまま営業するシナリオと比較するべきでしょう。
なお、売却時に建物消費税の納税が必要か否かは、収益性を大きく左右します。そのため、物件売却時に免税事業者であることは重要です。
近年では、貸室の一部をAirbnb化したために課税売上が増えて免税事業者ステータスがはずれてしまい、物件売却時に多額の消費税支払いが発生するというシナリオも考えられます。
課税売上、非課税売上がそれぞれいくらあるのかを常にチェックする必要があるでしょう。
個人で不動産を保有した場合でも、消費税の計算はほぼ同じです。