(本記事は、玉川陽介氏の著書『Excelでできる 不動産投資「収益計算」のすべて』技術評論社、2017年3月16日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
金融緩和時代の不動産投資
世界中をくまなく旅したとしても、低い自己資金比率で投資物件を購入できる都市を見つけることは簡単ではありません。
さらに、フルローンで購入しても十分な正味利益が得られ、保有期間中にキャッシュフローまで生まれる国は、日本だけではないでしょうか。
これは、高い水準で安定している賃料相場、そして日銀の金融政策による低金利の恩恵です。日本人なら、これを活用しない理由はありません。
世界にあまたある投資対象の中で、唯一、日本の個人投資家が有利になれる投資が、融資を活用した不動産投資なのです。
さて、本来、フルローンは金融機関にとって簡単に出せる融資条件ではありません。貸し出す金融機関から見ればリスクが高いからです。
万が一貸し倒れが発生し、担保物件を売却しても融資金の回収ができなければ金融機関は損害を被ります。
そのため、価格下落を保全するためのバッファとして、投資家に自己資金を投入させる必要があるのです。それがなければ銀行が投資リスクを負っていることと大差ありません。
しかし、実際には、その理屈に反して投資家が自己資金を拠出しないことがよくあります。
「勝てば投資家の利益、負ければ銀行の損」となるポジションだともいえるでしょう。
日本のような先進国において、このような不合理な融資が認められているのはなぜでしょうか。
その背景には、バブル期以降続く土地神話による土地の高い担保価値、金融政策によるカネ余り、信金や地銀など地域金融機関の過当競争という、日本経済の病ともいえる特殊事情があります。
さて、平成初期のバブル崩壊局面ですら、日本の大都市では強い賃貸需要に大きな変わりはなく、賃料収入は安定していました。
そのため、不動産を保有すれば、賃料収入と借入金利のスプレッドは確実に投資家の利益になります。
不動産は有利な投資対象のはずでした。
しかし、バブル崩壊後は不動産価格の下落基調が続いたため、売却という出口までを見据えると、不動産に投資する人は少数派でした。
不動産価格の下落が続くことは経済全体にとって大きなマイナスであるため、政府はそれを支えるために低金利政策を導入しました。
経済活性化のために、低金利による保有経費低減というキャンペーン・ボーナスを投資家に提供したともいえます。
その結果、世界的に見ても極端に借入金利が低く、賃料収入とのスプレッドが広くとれる魅力的な不動産市況が形成されることになりました。
そして、融資を活用した不動産投資は、歴史的な低金利を利益に変えるための有効な手段となったのです。
さらに、個人投資家だけに付与されている融資特典にも目を向けるべきでしょう。
個人向けの不動産投資ローンは、物件価格が下落して残債以下の価値しかなくなった場合でも返済を迫られることはありません。
評価損が出ているあいだの未実現損失は銀行が負担している計算であり、圧倒的に投資家に有利な融資条件なのです。投資家は、銀行に評価損が出ているあいだでも、賃料という配当金を受け取ることができます。
これは、株式投資でいえば、ロスカットされない信用取引で安定配当株を保有しているようなものでしょう。
不動産価格が下落しても、不動産投資には、いつか価格が上昇するときまで、賃料収入によるCFで生計を立てながらじっくり待つ余裕があります。
景気は循環的(シクリカル)なものです。不景気の次には好景気も来るでしょう。
次の好景気が訪れるまで待ち続けることが許される、その収益構造を活用しましょう。
将来的に不動産価格が上昇すれば、キャピタルゲインを得て売却できます。
もちろん、得られるキャピタルゲインに対しても借入によるレバレッジがかかっていますので、小幅な上昇率であっても利益額は大きなものになるはずです。
金融システムの歪みを利益に変える
世界でもまれな、低い自己資金比率による高ROE。日本の大都市が育んだ強い賃貸需要。歴史的な低金利による低保有コスト。ロスカットされない融資条件。
さらに、低金利政策とインフレ政策の同時進行により、厚いスプレッドをとりつつ、物件価格の上昇までも期待できるという、100年に一度のチャンス到来です。
じつは、筆者は、不動産投資において、不動産は融資を得るための媒介物にすぎず、重要なのは不動産そのものよりも融資だと考えています。
融資を中心に据えた不動産投資とは、金融政策により生じた金融システムの歪みを利益に変える、「金融システムハック」のようなものなのです。
そして、これらの融資条件は日本在住の個人投資家だけに認められた特権です。世界の投資家がうらやむ千載一遇の融資環境を最大限に活用するためにも、収益構造の理解を深めていきましょう。